老人の願い
ライトの話は簡単だった。ウェストに龍が攻めてくる。だが単純にして大事態、龍がこの街に攻めてきたらこの街は戦場となり被害は甚大なものとなるだろう。
「それでこちらに向かって来ている龍がネームドでな。三百年を越える時を生きた正真正銘の化け物だ。だがまだこちらに向かっているだけでな。攻撃されると決まった訳では無い」
「その為の龍飼いの笛か……」
ヘルメスが一人納得し頷く。
「付いて行けねぇ。つまりどういうことだよ」
「儂も分からんのじゃ」
何の話か分からず頭の上に?マークを浮かべる二人にヘルメスは自分の考えを丁寧に教える。
「つまりね、今ここに向かっている龍は昔使い魔だったんだよ。それでもって攻撃の意思も定かでは無い。となると昔の飼い主が使っていただろう龍飼いの笛で戦わずに何とか出来ないかって考えたんじゃないかな?」
「そういう事で合ってるぞ。大正解だ。ただ人が来るとは思わなかったがな」
「と言いますとどういう事でしょうか」
ヘルメスが首を傾げる。
「いやなんだ、ひと月以上前に商人に龍飼いの笛を送らせるとだけ手紙が来たんだ。その手紙に付けとけばいいものをわざわざ人に運ばせるとは何だと思ったがヘルメス君なら納得だ」
「どうしてでしょうか?」
またまたヘルメスは首を傾げる。
「手紙には書いて無かったがヘルメスを戦力として使ってよいという事だろう。報酬はフォータに出させればいいだろ」
そう言ってライトは大きく笑いヘルメスはその扱いに肩をガックリと落としていた。
「そう言う事だ。龍の今居る場所は旧魔族領に少し入った所だ。後で地図を渡すそれで確認してくれ。そして戦力として俺も行きたいんだがもしこのウェストに侵攻してきた場合の手続きに追われててな。だがその分私兵を出そう」
「お気遣いありがとうございます。でも自分の手では二人を守り切るのが限界なので遠慮させて貰います」
ヘルメスの中で俺らを連れて行く事が決定しているようで絶句する。
「俺らも行かなきゃ駄目か?」
「当たり前だろ?」
何が当たり前なのだろうか。非戦闘員と認めるなら是非とも屋敷で待っていたいところなんだが。
強気なヘルメスの発言に気を良くしたライトはヘルメスに俺からも報酬は弾む、頼んだと言い残し部屋から出て行った。嵐の去ったような部屋に疲れきった俺は高そうなソファに座る。
「二人なら守れるね。随分とライト様に失礼な発言じゃないかな?ヘルメスさーん」
嫌味たっぷりな発言を真に受けたその場でたじろぐヘルメスを見てケタケタと笑う。追い打ちをかけるようににエナベルも守られている覚えはないと拗ねて見せヘルメスを困らせていた。
「まぁ裏を返せばネームドは人間に飼われていた証拠だからね。規格外じゃないさ」
そうやって部屋で寛いでいると執事がやって来た。
「外にワーゲンをご用意致しました。領主様は一週間が目途とも。一週間はこの城に部屋をご用意させていただきます。何か御座いましたら城の誰にでも声を掛けてください。どうかこの街をよろしくお願い致します」
執事の最後の言葉にシーフは熱誠を感じる。この街が大事なのだろう。そのまま外まで案内して貰いワーゲンへと乗り込む。執事はワーゲンが見えなくなるまで城の前に立ち三人を見送っていた。この町の安全を願って。