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ウェスト領

「お主に付いていくと言っているんじゃ」


 唐突なエナベルの発言にフリーズした俺に変わりヘルメスが会話を繋げる。


「僕たちの旅に付いて来るって事かい?一応目的地はもうそこなんだけどな。付いて来るって言っても数時間の旅になっちゃうよ?」


 ヘルメスが暗に断りを入れるがエナベルは指を横に振り


「おぬしらに付いて行くとは言っておらんわ」


 そう言ってシーフの方へと向き直る。


「お主に付いて行くと言っとるんじゃ。シーフ、お主にな。お主がこれから先の未来必ず越えなければいけない壁がある。それは儂にもある。そのいつか来る未来の為にお主に付いて行きたいという訳じゃ」


 要領を得ないエナベルの話に納得がいかないながらもウェスト領までの同行をシーフは許可する。除け者にされたヘルメスが珍しく拗ねているがそれを気に掛けず会話を続けようするとルネーと名乗る男がこちらに寄って来てお嬢様を頼むと言い残し去って行った。


「なんかあっさりしてるな。んでエナでいいんだっけ。エナは貴族なのか」

「んー違うのじゃ。でも今はその認識でよい。他になんか聞いておくことは無いのか?これから長い間世話になる予定じゃからな」


 これはもう確定事項と言わんばかりの圧に訂正する事は諦め溜息を吐く。


「じゃあ聞く事はねぇよ。幼女に興味ねぇし」

「それは酷いのじゃ……」


そんな会話をしている間にヘルメスはワーゲンの向きを直し出発の準備を済ませていた。


「ほーら二人とも予定より遅れてるんだ。今日はウェスト領に入る予定だったんだ。急ぐよー」


 幼稚園の引率だろうか。ヘルメスが先生に見えてくる。


 その言葉に二人は荷台に乗り込む。先程の戦闘の様なイレギュラーは起こらず夕暮れにはウェスト領の関所の役割を果たす町に着いた。守衛にヘルメスがパーシヴァル家の紋章を見せるとすんなり中に入れて貰える。。その光景に本当に効力があるのだと感心した。

 町に入ると木像建築の建物が多く見られ火事になればひとたまりもないな等と無粋な事を考えていた。その横でエナベルが荷台から顔を出し物珍しそうに町を眺めていた。


「そんな珍しいもんでも無いだろ。町に入ってからずっと、飽きないのか?」


 俺の言葉に顔を引っ込めてエナベルが反論する。


「そうじゃな。飽きぬの。故郷以外は見た事無いからの。外を眺めるのはとても楽しいのじゃ」


 思わぬ純粋な答えにまるで悪者じゃないかと苦笑いしか出てこない。


「まぁその歳じゃ地元以外に行った事なくても仕方ねーか」

「ん?儂はおぬしらとそう変わらん歳じゃぞ。まぁ産まれてからは一年じゃから身体が少しばかり可愛いのは致し方なしなのじゃ」


 何言ってるんだこいつは。産まれてから一年は一歳だろう。そこまで考えて自分の価値観が違うのではないかとヘルメスを見るがヘルメスも頭上に?を浮かべていたので異世界の特殊な設定では無いらしい。


「はぁ?それはどう考えても一歳だろ。少なくとも六歳ぐらいじゃ……」


 その瞬間ワーゲンは止まり御者席からヘルメスから到着したと報告が掛かる。到着したのはワーゲンの管理ができる宿で手続きにヘルメスが宿の中へと入って行った。数分でヘルメスはワーゲンに戻り宿に空きがあった事を伝える。


「わざわざ二部屋取らんでも儂は別に同じ部屋でも良かったんじゃがな」

「そうだぜ?こいつ無一文の癖に同行しようとしてるだしな」

「それはシーフ君もだろ?それにエナベルちゃんも女の子だからね。でも何かあったら隣に居るから呼んでね」


 こいつイケメンなだけじゃなくて性格も良い。そう言えばこの旅で俺が金を使った事があっただろうか。


「ちゃん付けは辞めるのじゃ。まぁよい今日はもう疲れた。寝るから朝はよろしく頼むのじゃ……」


 エナベルは大きな欠伸をしながら自分に用意された部屋へと消えて行った。それを見送った後、俺とヘルメスも自らの部屋へと入る。部屋に入って大きめのベットを見つけた俺はそこに飛び込んだ。それを見たヘルメスは呆れながらも笑みを浮かべ近くの椅子に腰を掛ける。


「シーフ君、なんか言いたいことがあったんじゃないかい?僕が宿に入ろうとした時何か言いかけてたろ」

「なんだっけ。あー」


 ベットに沈み込んでいた身体を起こし胡坐を搔いた状態で向き直る。


「あれね。いやさ、エナベルの事なんだけどさ。なんか年齢秘密にしたい年頃なのかね。あれどう見ても黒髪ロリだろ」

「ろり……?は良く分からないけど十歳以下なのはそうだね。黒髪も珍しいしどこの子なんだろう」

「なら俺も珍しいのか?産まれてこの方ずっと黒髪だけど。てかあいつら三人組のルネーとかいう奴も偽名じゃねぇのか?何に隠してるだかな」


 事も無げに言った言葉にヘルメスが目を光らせる。


「偽名だったのかい?そんな気配あったかな。何でそう思うんだい」

「なんてゆーかな。口に馴染んでない。浮いてるっていうのか?自分の名前言う時に悩む奴なんて居るか?まぁだからあいつらは名前が知られちゃいけない感じの人たちなんだろうぜ」

「シーフ君って意外に切れ者だね。碌にワーゲンも操縦出来ないし方向音痴だし大して強くないけど頭は良いのか。誰でも秀でたものはあるんだねー」


ヘルメスはコップを持ちながら楽しそうな顔をして笑っていた。俺はハッと気づきヘルメスのコップを取り上げる。


「お前、何か毒舌だと思ったら酔っぱらってんのかよ。もう寝ろ。酒くせぇし」

「あはは、そうさせてもらおうかな。今日は少し疲れたしね……」


 ヘルメスは俺の横へと倒れ込みそのまま寝てしまう。夜とは言えどまだ時間は遅くない。夕飯も食べず二人は寝てしまったが俺は普通に腹が減った為階下の食堂へと足を運ぶ。ウェスト領でよく採れる野菜の料理を楽しみ他の卓の話を盗み聞きをし楽しんだ後今日は有意義だったと上の階へと戻り今日一日の疲れを癒すべくベットへと潜り込んだのだった。



「あいつずっと話聞いてるよな」

「離れた卓に行きましょうか…」

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