危険な邂逅
「あー疲れたぁ。そろそろ止めてくれ。もう限界だぜ」
小一時間も走っていると流石に息も上がりヘルメスに止めるように言う。するとヘルメスはワーゲンを急停止させワーゲンは慣性に従って横向きになって止まる。
「いや、そこまで急停止しなくても……」
「しっ……敵襲かも」
ヘルメスは真剣な表情をして横向きになったワーゲンの御者席から降り木が生い茂る森の方を注視する。すると木々の隙間から一人の少女が飛び出してきて俺にぶつかった。
「い、痛いのじゃ。そんな事より逃げねば。おぬし等も早く逃げねば危険じゃぞ」
尻もちをついて少女、いや幼女は慌てた様子で俺に伝える。明らかに様子がおかしい幼女に戸惑いながらも立ち上がりその幼女に手を差し伸べる。
「おいおい、敵襲ってこの可愛い幼女かい?面白いこと言うね、ヘルメス君」
乱れたツインテールを手直しする幼女を指しおどけて見せるがヘルメスは未だ真剣な表情で幼女が出て来た場所を見つめる。そのただならぬ気配に気を当てられ俺も少し身を引き締める。数秒でヘルメスが見つめていた場所から男女二人組が出て来る。
「ねーねーおばさん。早くしてよぉ。おばさんのせいで逃げられたんだからねぇ?」
ねっとりとした声で話す男はいつか見た白い仮面を被り隣の女に話し掛ける。
「殺すぞ、クソガキ。そもそも私のせいじゃないわ。あのクソ野郎が人質に構わず大魔法ぶっぱなすからよ」
スカルの言葉に背の高い女は怒りぶつける。二人は異様な雰囲気を辺りにまき散らし周囲を威圧する。誰も喋れない状態の中俺だけが行動に出た。
「おい、お前スカルだろ。指名手配犯のスカル。王都で会った事がある。こいつらやばいぞ、ヘルメス」
「知ってるのかい?シーフ君こいつらの事を。こいつらこれまでの盗賊とは違うよ。残念ながらいい意味ではないかな」
ヘルメスは緊張した様子で俺は実力差からか相手の圧力が分からずいつもの様な態度で対峙する。それを感じたのか相手もどこか抜けた様子で対応してくる。
「んーー?君どっかで会った事あったかなぁ。あーちょっと失礼。んーあー君あれかぁ。そうだね、王都であった事あるねぇ。女神の」
「ふん、力量も図れない雑魚相手に何時間使ってんのよ。まだそっちの青年の方が賢いじゃない。とっとと捕まえて帰るわよ」
「僕はさ、スカルは戦闘向きの天啓は持ってないんだぁ。手早く頼むよ、おばさん」
その言葉に女は怒りを露にし右手に作り出した真紅の炎をスカルに向けて撃つ。その炎は放たれた瞬間槍の形に姿を変えスカルの足元を吹き飛ばす。
「全くおばさんはこうも短気だから嫌だよね。ねぇバニティーおばさん」
爆発の煙の中から無傷のスカルが現れ相も変わらず女を挑発する。
「殺すって言ってんだろ。クソガキ」
そんないざこざを前にしてもヘルメスは冷静で敵二人を正面に据え俺と少女に下がる様に伝え腰の刀を抜き前に出る。
「へーえ。君が戦うんだぁ。てっきり口数ばっかの女神の子がヤるのかと思ったんだけどねぇ。まーあ、ヤった所でおばさんに瞬殺だろうけどねぇ」
スカルはそう言って高らかに笑い後ろの茂みに消えて行きバニティーは舌打ち交じりに戦闘態勢に入る。ヘルメスもそれに呼応し戦闘態勢を取る。
「あいつらは危険なのじゃ。お父様の攻撃にも耐えた。そのひょろい身体じゃ直ぐ吹き飛んでしまうぞ」
「そんなにひ弱に見えるかな。安心して結構僕は強いよ。強さに関してはそこのシーフ君に聞いてくれれば分かるよ」
そう言ってヘルメスは笑顔を見せる。不安しかないのだが俺に出来る事は何もない。
「頼むぜ……?マジで」
俺は得意げな顔を見せつけるヘルメスを頼るしか手段は無かったのだった。
バニティーの魔法は無詠唱です。
魔法には詠唱型と無詠唱型があり基本戦闘には無詠唱しか使いません。
詠唱は主に武器に付与を行う時に使います。