束の間の平穏
外気の寒さに身を震わせ身体を起こし寝袋から出てテントの外にある焚き木に火を点ける。水を温めスープを作っているとヘルメスがテントから眠そうに出て来る。ヘルメスの過去の話を聞いたあの夜以降話す機会は何度もあったが天啓の話を切り出す事は未だに出来ていなかった。
俺の旅の目的は自分の天啓を集める事だ。だがどうにもこれが上手くいかない。ヘルメスとの旅が始まって二カ月ぐらい経った時だろうか、食料の補給の為にある村に寄った事があった。俺はそこで天啓保持者を発見している。
だが回収は出来なかった。
彼はその村の守衛を一人で担っていた。村には若い男手は少なく彼以外の男は皆、猟師として村に貢献している。そんな中、近くには盗賊のアジトもあった。その為村一番の実力者剛腕の天啓を持つ彼を守衛に据えているという訳だ。
結果的にはヘルメスがアジトを壊滅させ村の脅威は過ぎ去った為守衛から天啓を回収しても良かったのだが俺にはどうにもそれをする事は出来なかった。こうも根付いたものを引き抜く事は大変なのかとほとほと嫌になる。あの時回収していればその流れでヘルメスの天啓も回収出来ていたかも知れない。ほんの少しの後悔を感じながらヘルメスに出来たばかりのスープを渡す。
「朝は一段と寒くなったね。シーフ君は大丈夫かい?風邪とか引いたら大変だよ」
無自覚に子ども扱いしてくるヘルメスに少しムッとした顔で
「朝は強いからな。てかいい加減ガキ扱いはやーめーろ。俺だって最近少しは強くなったんだ」
とドヤ顔で答える。
「それだって僕のおかげだろ……?この四ヶ月修行に付き合ってあげてるのにさ」
そういうヘルメスの言葉にこの四ヶ月を思い出す。ひたすら基礎練習と称されたワーゲンとの並走走り込み、打ち込みという名のリンチ、その見た目からは考えられない鬼修行の日々を。
「あんなのはお前のおかげとは言わねぇよ。俺のおかげだ」
「だけど初めて会った時よりは強くなったはずだろ?でもシーフ君は剣も魔法も才能ないみたいだね」
ヘルメスは笑いながらそんなことを言う。だがその通り残念ながら何も才能は無かった。剣は重いし刀は論外、魔法については火の一つも出す事が出来なかった。唯一使えるのはヘルメスの予備の武器である寸延短刀だけであった。朝食も済ませた俺らは後片付けをしてまた旅を続ける。
旅は続いてもうそろそろウェスト領に到着しようかという頃。御者席にはヘルメスが座り横で俺が並走をするいつもの光景。こう走るのにも慣れ会話しながらでも平気なくらいには鍛えられたと思う。
「なぁーこの前、後一ヶ月で着くとか言ってなかったっけ。そろそろ経つと思うんだけどまだ?いい加減木ばっかの風景なんて飽きたんですけどー」
「しょうがないなシーフ君は。今日中には森を抜けられると思うよ。そしたら一本道さ」
そんな緩やかに流れる時間のなか事件は起きた。
実はシーフは気づいてないですがステータスは結構上がってます。
ヘルメスの修業は効いたみたいですね。