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ヘルメスの成果

 爆風によりこちらへと飛散してくる粉塵が目に入らないように腕で顔を覆いながら隙間からどうなったか様子を窺う。


「やばすぎるだろ!」

「こんなのまだまだじゃ!」


 戦闘が始まる前まではやる気の無かったエナベルも始めてしまえばのりのりの前傾姿勢で魔法をぶちかます。エナベルが撒き起こした爆発により姿を隠していたヘルメスもその白い煙の中から後方に飛び次の攻撃に備える。

 エナベルはまたしても焔渦まく異形の口を量産しヘルメスへと攻撃する。そのひとつひとつに莫大な力が宿るエナベルの魔法はヘルメスの身体を爆散しようと襲い掛かった。だが、ヘルメスもこなれた様子で自慢の人切を使い丁寧にひとつずつ撃ち落としていく。

 そんな人間離れした攻防をシーフは唖然とした様子で見ているだけだった。


「……あれって、魔法ではあるんだよな」


 この世界で見られる魔法は魔力を集めて高火力にしただけものが多くを占める。才能がある者はその形を武器に見立て炎の槍など通常より殺傷力を高めた魔法を使う。そして魔法に対抗する手段は魔法しかないというのが通説である筈だ。


「もちろんそうじゃぞ。かっこいいじゃろ」

「かっこいいかどうかは判別不能としても魔法ってあんなに自由なもんなんだな」

「儂が天才じゃからな」

 

 いつも調子で言った戯言だとシーフは笑ったが実はそうでは無い。エナベルのように魔法を自由自在に自分が思うが儘の形に持って行きそこに自動追従や爆発する能力を付けるなど普通じゃ出来ない。そこは流石魔王の娘といったところだ。 

 そんなシーフとの会話の合間に再びヘルメスへと攻撃する為、灼熱の口を量産する。シーフには話の片手間にする様な作業とは思えなかったがエナベルはそれを難なくこなした。今度はヘルメスの周りを物量で囲い逃げ場を無くす。

 囲まれてしまったヘルメスは一方向だけに狙いを定めそこから逃げる算段を付ける。迫り来る灼熱の口を正確に斬り活路を見出したヘルメスは包囲の穴を抜け振り返る。包囲を抜け出したとはいえこの魔法には自動追従能力まで付いている。振り返ったヘルメスの目前まで灼熱の口は列を成し襲い掛かって来る。だが、こうなってしまえばヘルメスに死角は無い。ひとつひとつ丁寧に斬り裂き爆発をさせない。

 そんな単純作業を繰り返しヘルメスがエナベルの魔法から逃げ切ったと思った時、ひとつの灼熱の口がヘルメスから軌道を逸らし近くの地面に急降下した。ヘルメスは自分への攻撃では無いそれを斬る事は出来ずその場での爆発を許してしまった。

 爆発自体は直撃していない為、ヘルメスに傷を負わせるには至らない。だが、その爆発で視界不良となったヘルメスは灼熱の口を爆発前に撃ち落とす事が困難になりその身体に直撃する事を許してしまう。

 四苦八苦している中エナベルはこれぞ好機と言わんばかりに次なる魔法の構築を始めていた。


「可哀想……」

「そ、そんな事言ってもやれって言ったのはヘルメスじゃぞ?」

「相変わらず余裕あるんだな」

「だから天才じゃと言っとるじゃろ?」


 エナベルの手を離れた魔法がヘルメスを苦しめる中、次の手としてエナベルは四大加護のひとつである風の加護を用い風魔法を構築し始める。エナベルは天啓のエレメンタルから分かる通り四大加護全てを持つ幼女だ。魔法について不自由する事なく、もうひとつの天啓、魔帝から魔力の使役量も桁違いだ。正に魔法を極める為の天啓の布陣と言っても悪くない。

 そんなエナベルの次の攻撃として選ばれたのは風魔法。エナベルが両手で空を撫ぜるとそこには不可視の風の刃が生まれる。爆発の煙で周囲の様子が窺えないヘルメスには最悪の魔法だろう。

 声を出す事なく手を静かに振りその刃をヘルメスへと向かわせる。それは煙の中に入って行きヘルメスの身体を斬り裂こうとする。そんな様子を外野から見ていたシーフはおっかねぇと感想を漏らすのだった。


「大丈夫なのか、あれ」

「んー大丈夫じゃろ」


 あくまで楽観的なエナベルにシーフの顔が引き攣る。もしエナベルを怒らせる事があったらこの程度なら死なないだろうと笑顔で攻撃してくる可能性があるからだ。シーフはこんな攻撃を回避出来る気がしなかった。


「気を付けよ」

「何がじゃ?」

「何でもありません」

「なんで急にそんな堅苦しいのじゃ~んー?なんじゃなんじゃ」


 擦り寄って来るこの態度もいつもなら可愛いと思えるが今は普通に恐怖の感情が勝っていた。


「ほんと仲いいね。君たちは」

「うわっ、生きてた」

「それはどんな反応したらいいんだい」


 そこには全ての攻撃を何とか処理したヘルメスが立っていた。顔を爆発やら何やらで汚れ、服もこのままじゃいけないところが見えてしまいそうな破れ方をしていた。


「男のポロリは需要ねぇよ」

「あ、ほんとだ。ごめんごめん」


 そう言ってヘルメスは上着を腰に巻き防御力を上げる。今から王都に戻るのにその恰好は捕まるんじゃないかとシーフは思ったがヘルメスの事だしいっかとわざわざ言葉にしなかった。


「それじゃあ帰ろうか」

「ああ、そうだな。早く帰ろうぜ。俺の成果も見て欲しいしな」

「ああ、そうしよう」


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