手柄
「ビンゴ!」
「うわっ。なんだよお前」
「いや、まさに探したものがそこにって感じでな。内容はどんなんだ?」
セインはやれやれといった様子で頭を掻きながら翻訳を始める。
「えーと。あー要約するとだな地方領主のクリック伯爵が当時の王様に金を献上したって内容だな。こんなのを探してたのか?こんなのどこだってやってる事だろ」
セインが手紙をすらすらと訳すのを見て言語理解能力の高さにシーフは驚嘆する。
「いや、どこの伯爵かは知らないけどこれって王様に取り入ってる証拠だよな?」
「まぁそうとも言えるだろうけど、それの何がおかしいんだ?僕……アルザース王国でも今だって普通に行われるだろ?」
だが、それが重要なのだ。アルザース王国では王族派に属する者がこの様に献上物を送る事もあるだろう。だが、それは公にして行われるものでは無い。それが確かに行われている事は国民も周知の話だがそれをどこの領主が行っているかは分からないのだ。近衛騎士団団長のフォータでさえ完全に把握するには至らず現状手詰まりになっている。王様が王族派の情報を洩らさないのも理由に上がるのだが。そんな中、過去に献上が行われていた手紙があるのならばクリック伯爵が王族派なのは確実だろう。その要領で行けば──
「もしかしてこの手紙の中に同じ内容のってあったりするか?」
「んーありそうですよー。きちんと訳しては無いので分からないですけどー」
そう言うリオシィーの手に掴まれた手紙を軽く見ると先の手紙と同じ文字が多く使われるのが分かる。結局、手紙を全て確認すると八枚もの手紙が王族派の手掛かりになる様な物だった。中には先日のトーシエ領前領主の名前もあり昔からの繋がりが在った事がありありと分かる。
「これって持ち出す事って出来そう?」
シーフはダメ元でこの王立図書館の司書兼管理者であるリオシィーの顔色を窺った。だが、その反応はシーフが思い浮かべていたものとは違い穏やかなものだった。
「んー私の魔糸は手紙までには繋げてませんしねー。ここから持ち出す事くらい出来るんじゃないですかー」
「ほんとか。俺はてっきり『そんなの駄目ですよー』って言われるかと思ったぜ」
「その物まね流行ってるんですかー止めた方がいいですよー」
手紙の持ち出しを聞いた時より強い圧で静かに見つめられる。きっと眼鏡の奥に光は無いのだろう。
「うっ。分かったよ。でもまぁ、持ち出していいなら持ってくぜ?俺には分かんねぇけど団長なら分かるかも知れないしな」
「シーフさんが悪い事に使うようには見えませんしねー。私が許可しましょー」
「リオシィーさんの中での評価が高い事に驚きだけど遠慮なく持ってかせて貰うぜ?」
シーフは手に入れた情報を早く自慢してやりたいと急いで散らかした図書館の机の上を片付け外へと飛び出た。
「あれーお連れ様は行かないんですかー?」
「ん?僕か。僕は別にあれの仲間じゃないからな。僕が行く必要は無いだろう。それに本来僕はここに本を読みに来てたんだ。やっとこの作業から解放されていい気分さ。僕は読書に戻るよ」
そんなセインの様子を見てリオシィーは唸りながら頭を揺らす。
「ど、どうしたんだ。急に気味が悪いぞ」
「いやーそんな事言ってますけどーシーフさんが言ってからお連れ様が寂しそうなのはどうしてなのかなーって」
「う、うるさいな。そんなのお前の勘違いだろ!とにかく僕は読書に戻るからな」
「んー報告ありがとうございますー?」
情報を手に入れたシーフは急いで宿へと戻る。成果が出たお蔭でいつもより宿に戻る時間は早く、この時間だとヘルメスとエナベルは外出している様で宿で姿を見つける事が出来なかった。仕方なくシーフは手に入れた手紙を宿に置き外へと彼らを探しに出る事にした。
彼らはここ最近はずっと修業をしているらしくシーフは場所も聞いてはいたがちゃんと聞いていなかった為、王都をあっちに行ったりこっちに行ったりと無駄に時間を浪費してしまった。日も傾き始めた頃、ようやくその姿を捉える事が出来た。
「おーい。探したぜ。マジで」
「あぁ、シーフ君じゃ無いか。今日はもう良いのかい?」
「無事に情報収集完了だな。宿に帰ったら見せてやるよ。それでお前らはまだ帰らない感じか?」
シーフの問い掛けにエナベルは首を大きく横に振り今にも帰りたそうにしていた。
「儂はもう帰りたいのじゃ……」
「どんな辛い修業してたんだよ」
「前にも言った通り僕の修業に手伝って貰ってるだけだよ。対魔法に強くなりたくてね」
シーフの感覚でヘルメスの言ってる事と言えば生身で戦車を倒したいと言ってる様なものだがこの世界では自衛能力が高い事に越したことはない。シーフはヘルメスの言う事が分からなくも無かった。だからと言って自分も対魔法戦を修行しようとは思わないが。
「それで何でエナが嫌がってるんだよ」
「儂だって手伝う事はまぁ良いんじゃが限界まで魔力を使うと身体がだるくての、もう眠いのじゃ」
「なるほどなぁ」
「じゃあ次で最後にしよう。シーフ君もそこで見ててくれ」
「えーまだやるのかの。めんどいの~」
そうは言いながらもエナベルは重い腰を上げ戦闘態勢を取った。シーフが居ない間はずっとこんな感じでやっていたのだろう。
「それじゃあいつも通り追従型で火系統の魔法を主に後は自由にお願いするよ」
「その心は?」
「ん?心?あー戦争とか人の生き死に関わる戦いって火系統の魔法が使われることが多いんだ。シーフ君もあの平原での見たろ?」
思い返すと数多の魔法が入り乱れる戦場で一番記憶に残っている色は赤と青だ。あれは全部火系統の魔法だったのかと今更ながら理解した。
「じゃあ本番想定でやってるって事か」
「そうだね。修行だからって水系統の魔法なんかじゃ話にならないからね」
「あーまぁ、確かにな」
「じゃあ下がってて」
危ないからねとヘルメスに促されシーフはエナベルの後ろまで下がる。ヘルメスがエナベルに合図を送るとエナベルは手を胸の前に掲げ魔力を操作する。エナベルが閉じていた眼を開くと一瞬にして灼熱の口が百は下らない数で出現した。
「……火の口?」
「火の口じゃの。あれに噛まれるとシーフの柔い腕や脚のなど直ぐに爆散するぞ」
「こわ……」
そんな奇妙な光景を前にヘルメスは真剣でエナベルに声を掛ける。
「エナベルちゃん!いいよ!」
その声に合わせてエナベルは手を以て灼熱の口を操作する。一斉にヘルメスに飛び掛かったそれはヘルメスの元へ着弾するや否や辺りを爆風と熱で覆い尽くした。




