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地獄の作業

「おい、シーフ!」


 珍しく名前を呼ばれたと思い振り返ると眼前には後一秒でぶつかる分厚い本が迫って来ていた。当然回避する事も出来ず顔面に直撃してしまう。


「……痛てて」

「あ、悪い。つい興奮しちゃってな」

「お前がウインクしても気持ち悪いだけだよ。それでそんなにはしゃいでるって事は?」

「ああ、大体これで本は読めそうだ。全部とはいかないけどこれだけ分かれば穴あきでも簡単な本くらい読めるだろ?お前だって文脈からなんとなく読む事くらい出来るだろ?」

「まぁ、そのくらいなら出来るかな」


 セインから古語対応表を貰い話を聞く。文字だけで言うと五十文字は超える文字が解読されている。これがあれば確かに古語の書物を読む事は出来そうだ。


「さぁ、ここからが本番だぜ?」

「何の事だよ。僕は知らないぞ。僕はこれ以上は──」


 シーフは席を立ち上がるセインを無理やり座らせいい笑顔で肩を叩く。


「お前だって天才って言うならこれからやる事は分かるだろ?」

「僕は何も知らないからな。自分で言った仕事は完遂したからな」

「あ、俺もしかしてお前にこれで何するか言ってなかったけ?」

「やめろ。僕は聞かないからな」


 セインは両耳を自分の指で栓をしシーフの言葉は聞かないと強固な姿勢を取る。だが、セインの力はシーフよりも何ならそこら辺の少年より弱い。ゆっくりとセインの指を離し今回の件について説明を始める。


「なんで古語を解読する必要があったかと言うとだな」

「んーんーんーーんーーー」

「王族関連の書物ってのが古語の本ならあるかも知れないらしくてな」

「んーーーーんーんーー」

「だから翻訳出来れば王族関連の書物があった時内容が読めるだろ?」

「んーんんーーんんーーー」

「いや、もう聞こえてるだろ。諦めろって」


 シーフは満面の笑みでセインをこちら側へと引き込む。


「はぁ、聞こえてたよ。なんでお前は王族関連の書物を探してるんだ?国家転覆でもするのか?僕は止めはしないから、村への被害は止めてくれよ」

「なんでこの世界の奴らは王族の話すると国家転覆の話になるんだよ」

「普通、王族の事なんて触れる方がおかしいだろ」

「なるほどなぁ」


 こう考えると前世の世界では随分とそこら辺が緩かったのだと認識を改めた。


「まぁ、でも聞いたからにはよろしく頼むぜ?」

「本当にその内容を探してるのか」

「嘘なんか吐くかよ。ここまでして貰ったからには絶対探し出すからな」

「嘘であって欲しいんだよ。全く、仕方ないな。それをどう使うかは言わなくていい。僕は犯罪者の片棒を担ぎしたくないしな。ただ、お前がのろのろ読んでいても寿命の方が先に来そうだしな。僕が手伝ってやる」


 セインの了承を得たところで読書作業が始まった。翻訳を行いながら読書をする。最初の文を読めば確実に王族関連の物でないは読まなくて済む。だが、中には最後まで絶妙なラインを攻める書物もあり時間の掛かる作業となってしまった。作業は三日三晩続いたがその様子を見かねた司書のリオシィーが閉館時間の後も滞在を許してくれたおかげでそこからの作業速度は跳ね上がった。


「お、おい……これで最後じゃないか」

「俺もこれで最後だけど」

「もう古語の本はないですねー」

「シーフ、お前嘘だろ」

「俺だって絶対あるとは言ってないだろ」


 そう言うシーフも内心はかなり落胆していた。ここまでの労力はセインに及ばないまでも相当なものだった。フォータからの情報がまだ無い中、自分で情報を掴めれば少しはカルミネの策略にも近づけるかとも思ったがどうやら上手くいかない。


「あれーそう言えばあれ確認してないですよねー」

「あれって言われても分からねぇよ」

「そんな強く言わないで下さいよー」


 シーフはもう慣れてしまった圧にすんなりと対応するがセインはリオシィーの圧にビビっていた。


「で、なんだよ」

「あれですよー。手紙ですよー。あれも古語で書いてますよー」

「そんなものがあったのか」

「あれか。あれは流石に無いだろ」

「お前、手紙なんて重要な事が書かれてるかも知れないだろ。なんで早く言わなかったんだよ」

「それは──」


 完全に忘れていたからでなんの言い返しも思いつかない。一同は席を立ち本棚の森の奥にある手紙が飾られている場所へと向かった。


「王族関連じゃなきゃいいな」


 シーフがボソッと呟いた言葉をセインは聞き逃さない。


「それじゃ僕がここまでした意味が無いだろ。それより何で内容の変わらない手紙が置いてあるんだよ」

「それはーなんででしょうねー。前前前々任くらいの司書さんがーここら辺に手を加えてるって聞いてるんですけどー。もう亡くなってますから分かりませんねー」

「まぁ、そんな意味も分からず置かれてる物が大事な物な訳ねぇよな、セイン」


 シーフの言葉はしっかりとフラグとして活用された。複数枚ある手紙を三人で手分けして翻訳する。するとセインの作業の手が止まりやっちまったと言わんばかりに天を仰いだ。


「もしかして……?」

「やっちゃいましたかー」

「……多分これは地方領主から王様に宛てられた手紙だ」


 王族関連の中でもシーフが丁度探し求めていた物がセインの手によって見つかってしまった。


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