連日の成果
「あー今日はよく会うな……」
「ここの司書は私だけですからねー。それとさっきの五月蠅いお友達に次来るときは静かにするようにお願いして貰えますかー?図書館は静かにするものですよー」
シーフは無言でぺこぺこ頷きそそくさと図書館を後にした。
「生きた心地がしなかったぜ。何もんだよ。あの女」
ぶつぶつと文句を言いながら宿への帰り道へと就く。本日も成果が無かったと一応ヘルメスに告げる。ヘルメスは興味深そうにシーフの話に耳を傾けた。
「なるほどね。それじゃあ王立図書館には王族関連の書物は無かったのか。それもそうだよね。普通に考えたら機密事項を簡単に見れる所に置いたりしない。盗まれたりしたら国家の一大事になりかねないからね」
盗まれる事を無いと思うシーフだが前者については納得だ。シーフもその考えで落ち着いた。
「だからあそこに王族派がどこの貴族様かの情報は無いと見て良さそうだな。となるともう俺じゃ調べようがねぇけど」
「結局フォータさんからの情報を待つしか無さそうだね」
「そもそもあの団長が見つけられない情報を見つけられる訳無いんだよなぁ。もういっそ王様に直接聞きに行くか?」
「止めてくれよ……?」
そんな真剣に止められると本当に行ってしまうぞと考えてしまうが現実的じゃない。
「まぁ、明日も図書館に行く予定だから変な事をしようとは思わないぜ?安心しろって。それにわざわざ王城に侵入するくらいならグレイス王女誘拐するわ」
「それが冗談に聞こえないから怖いんだよ。それにカルミネの事もあるんだから軽率に誘拐なんてしたら後々面倒になるって言ったのはシーフ君だろ?」
「ま、そゆことよ。だから今はなんもしない。セイン坊ちゃんの為にあくせく働いてまいりますよ」
「今は、ね。まぁ、分かったよ。暫くはそんな感じで行こうか。僕は僕でエナベルちゃんと暇潰ししてるからさ」
ヘルメスは既にベットで寝ているエナベルを眺めそう呟く。
「ほんとに潰すなよ?」
「シーフ君は僕をなんだと思ってるんだい?女の子にそんな事する訳無いだろ?」
「いや、だって俺の修業の時は凄かったし」
「あれは、でも強くなっただろ?それにエナベルちゃんとの修行は僕が対魔法戦に対応出来るように練習相手になって貰ってるだけだよ。今はその魔力切れで疲れて寝てるだけさ」
「それならいーんだけど」
それからの数日はシーフはセインと共に王立図書館に通い過去の文献を漁り、ヘルメスはエナベルに修行の手伝いをさせる日々が続いていた。相変わらずフォータからの情報は無く現在フォータ自身もパーシヴァル邸には居らず足で情報を稼いでいる様だった。ヘルメスは修行の合間に行商仲間に他の街での変化について聞いて回ったが特段気に掛ける様な物は無く表面上は事態が収まった様に思えていた。
シーフは形骸化した図書館での作業に没頭し今日も一日終わろうとしていた。
「また今日も来てたんですねー。暇人なんですかー?」
「お客様に随分失礼な司書さんだな」
「王立図書館は入館料が無いのでーお客様かと言われたら微妙な位置ですよねー。それに毎日沢山の書物を適当に読んでを繰り返して何を探してるんですかー?」
傍から見たら変人と言われても仕方ないだろう。シーフは王族関連の書物を探す為に内容は最低限しか触れず次から次へと書物の山を積み上げて行った。それは事情を知らない人からしたら不思議な光景だったに違いない。
「んーまぁ、探し物だな。王族についての、ってこれってやばい感じか?」
「やばくは無いですけどーそんな本はここには無いですよー。ここの物は全て王城の検閲を通って来た物なのでーその重要度の書物が借りに存在するなら王城じゃ無いんですかねー。あー駄目ですよー。私から聞いたとか言ったらー」
「いや、王城から盗もうなんて考えてねぇよ。ただ、やっぱそうだよなぁ。こんだけ探して無いんだから気付いてはいるんだけど。もしかしたらってな」
シーフの言葉に司書は顎に手を当て唸り始める。んーんーと暫く頭を揺らしながら考えた末にシーフに次の言葉を与えた。
「あなたが悪い人なら私から聞いた事は伏せて欲しいんですけどー。そういう内容が読みたいなら古語で書かれた物を探すと良いんじゃないですねー。あれって検閲も読めないんでーそういう内容でも分からないと思うんですよねー」
シーフが悪い人だったら大戦犯な司書さんだが情報収集に煮詰まっていたシーフには目から鱗の着想だった。
「それは、ナイスアイデア過ぎるかも知れない……」
「ないす……?でもー古語が読めるの何て学者か超婆ちゃんくらいですからー」
「なんだよその強そうなババアは。じゃ無くて学者がどこにいるのか分かるか?」
「さぁーどこでしょうね。学者なんて酔狂な事をしている人は世界を放浪してる事が多いんじゃないんですかねー」
「ちっ。そう上手くはいかないか」
「それにー古語が読める人がいてもーここにある書物にそういう内容の物があるかは知りませんよー。あくまで可能性ですからー。そんな機密事項を書き残す事自体私には考えられませんしー」
そんなものなのだろうか。前世の世界では過去を知る為の情報元は紙だった。木板なんて事もある。地層から分かる事もあるが人類史を読み解く以上、過去の人類が残した書物が大部分を占める。これは前世の世界の特別な風習でこの世界には適応されないのだろうか。ここは前世には無い魔法がある世界だ。過去を投影する事が出来る魔法があったとする。そんな物があればわざわざ書き残し未来に託すなど面倒な事はしないのかも知れない。実際王城には未来を知る力を持つグレイス王女が居る。それならば過去を見る事が出来る能力があってもおかしくない。となれば王族関連の書物が無いのは作る必要が無いからというつまらない理由で解決してしまう。
「でも、現状手詰まりなのは変わらないしなんか方法考えてみるよ」
「それなら明日もご来館をお待ちしてますー」
「お客様じゃ無いんじゃないのか?」
「そんな事言いましたっけー」
司書はそんな調子ではぐらかしひらひらと手を振ってシーフを見送った。