国の施設
「何もないの~」
「暇だよなぁ」
王都に帰還した後三日間シーフ達は宿に待機していたが近衛騎士団から連絡は無くごろごろと宿で過ごす日々を送っていた。
「暇は好きなんじゃが何かを待っているこの感覚は嫌いじゃの」
「あー分かるわ。完全に休み切れない感じあるよな」
「そうなのじゃよ」
「だからって君たちは部屋を出なさすぎだけどね。食事以外で外に出てるかい?」
シーフはここ最近の行動を振り返ってみる。確かに外出していなかった。だが、これには理由がある。
「だって動くのってめんどくさいじゃン?」
「あぁ、シーフ君がどんどん駄目な男に……」
「儂も動くのは嫌いじゃの」
「エナベルちゃんもかい……」
「だって団長さんに呼ばれたらまた大変な事になりそうだしよ。休めるうちは休んでおきたいってな」
「まぁ、確かにそう言われたら無理に動けとは言えないけどなんか雲行きが怪しいらしいよ?」
「あー?」
ヘルメスが言うには近衛騎士団が今回の件を王城に報告。その後、暫定的に王都の中央貴族がトーシエ領の領主に据えて街の混乱は収めたらしい。だが、王城が動いたのはそこまでこれ以上は近衛騎士団に丸投げという怠慢さだった。フォータの話だと、
「この事件で王族派が狙われてるのは暗黙の了解なんだけどそれを私たちが知る事は無いからね。派閥というのはある程度表に出すものなんだけど隠す領主も居る。隠すって表現は可笑しいか。派閥なんてものは無いんだからね。いやいや、そうじゃない。だから結局言いたい事はこれだ。次に被害に遭うかも知れない王族派の領主が誰か教えてはくれなかったって事さ」
という事らしい。つまり現状では手詰まりになってしまった。仕方なくフォータは自らの人脈を伝って情報を集めるらしい。だが、これにはどうしても時間が掛かるらしく次の被害は抑えられない可能性がある。
「それはそれは王様は随分呑気なもんだな」
「まぁ、そうなんだよね。でも王都だから大声で言っちゃ駄目だよ。誰が聞いてるか分からないからね。そ、だから暫く僕たちが召集される事は無くなったって訳だ」
「なんだよ、その目は……」
「時間があるなら修業でもしないかい?この前だって自分の無力さを思い知っただろ?」
強い言葉を浴びせられシーフの顔が引きつる。だが、今シーフの心は割とメタメタなのだ。動きが起きないのもそのせい、という事にしよう。
「いーや、俺は王立図書館でも足を運んでみるかな。なんか古い本とかなら派閥系の話があるかも知れないだろ?」
「あぁ、あそこか。僕は行った事無いな。てゆうかシーフ君、身体動かしたくない理由の為に行くんじゃ無いだろうね。そんなんだから肝心な時に動けないんだよ?」
「ぐっ……反論しがたい、けど図書館に行きたかったのはほんとだぜ?まぁ、て事で俺は図書館に行ってきまーす。エナも来るか?」
先程から会話に参加せずベットで転げまわってるエナベルに同行の意志を問うが、
「儂は寝とるのじゃ。文字なんて読んでたら頭が爆発するのじゃ」
とシーフひとりでのお出掛けとなってしまった。
王立図書館は王都南西部にあり地域最大の建造物となってる。この国の書物という書物は全てここにあると言われるほどの蔵書数を誇り調べ物をするには持って来いな場所だ。ただ、ここに入るには国民証が必要でありシーフは門前払いを食らってしまった。
「いや、王都に入れてんだから国民証の提示とかいらないだろ」
街をぶらつきながら文句を垂れる。思い返すとシーフが初めて王都に来た時も駐屯所に詰められたものだ。あれはもう一年も前の事かと懐かしくなる。
「いや、そんないい思い出じゃねぇわ。あーどーすっかなぁ。そう言えばヤングが融通してくれるとか言ってたな。まだ王都に居んのかなぁ」
ヤング大尉とハル中尉、シーフが王都でお世話になった衛兵だ。彼らに頼めば王立図書館に入る事は可能だろう。
「だーでもどこに居るんだよ。てかパーシヴァル家の紋章借りたら行けたんじゃねぇか。くっそヘルメスの奴から貰っとけばな。いや、そもそもこんなに国に貢献してんだから寄越せよな」
よくよく思い出してみるとシーフは王都に入る際検問を全てヘルメスに任せていた。パーシヴァル家の紋章があれば碌に調べもせず王都内へ入る事は出来る。そんなこんなで国民証の重要性について忘れていた。
「今回も近衛騎士団と一緒に帰って来てたしな。そりゃ国民証なんて必要ねぇか。国民証って今からでも作れねぇかな」
案外そこら辺フォータに頼めば何とかしてくれそうな感じがある。それはそうとして今日、王立図書館に入れない事は確かだ。入口の近くでぼやくのもそろそろ止めて宿に帰ろう。帰ったらヘルメスに馬鹿にされるかも知れないがその時は本気で蹴りを食らわせてやるという強い気持ちで帰路に就く。
宿に向けてシーフが一歩踏み出した時、後方王立図書館の方向から怒り声が聞こえてきた。あぁ、さっきの俺みたいだなと感想を持ちながら振り返るといつぞやの生意気な少年が地団太を踏みながら衛兵に文句を言っていた。