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エナベル=シャイターン

 エナベル=シャイターンは産まれてからこの時まで魔王の子だった。友はおらず世界を知らぬただひとりの子供。呪いのせいで母親はエナベルを出産する事が躊躇われ漸く出産する頃にはもう年だった。産まれてから我が子を可愛がる事も少なく天寿を迎える。それでも腹の中に居た時から注がれた愛情にエナベルは母親の愛を確かに受け取っていた。

 父親は魔王。エナベルを城に閉じ込めその身の安全を確かな物にした。その愛は偏りがあれどエナベルにはしっかり伝わり城から見る世界が輝いて見えて外に出たいとこれをを煩わしく思えど邪険にはしなかった。約束はしっかり守り外に出る事は無かった。

 そんな生活もある出来事を境に大きく変わる。城に怪しい男と女の二人組がやって来たのだ。その二人は魔王に及ばないまでも強大な力で対抗した。その戦いの余波、実際のところは魔王の魔法の余波で怪しい二人と共にエナベルは下界に落ちてしまう。それ程まで力で飛ばされたエナベルはこのままい行けば落下死してしまう。それを救ったのは怪しい二人の女の方だった。

 魔王はエナベルが落ちた瞬間それを追い駆けようと動くがその場に居た王国の男に制止される。


「私が代わりに。ケイス様は今のが陽動の可能性もあります。魔人領全体の警戒を」


 この男は少し前から魔人領に度々来ては王国の現状などを話に来るおかしな奴だった。だが、魔王には気に入られており魔人領で家も持っていた。その男の助言を無碍にする事も出来ず魔王は魔人領の警戒に当たった。

 落下し記憶の少ない走馬灯を見て死を覚悟したエナベルだったが怪しい女に救われてしまう。もしかするといい人なのかもと淡い期待を抱くが次の言葉に打ち砕かれてしまう。


「このクソガキが。なんで洗脳を使わなかったのよ。この娘が生きてたから良い物の危うく私まで死ぬところだったわ」

「それじゃあ簡単すぎてつまらないだろぉ?僕はバニティーおばさんに最大限楽しんで貰えるように力を使わなかったのにさぁ。でも、これでこの娘をアンリに殺させれば大戦争だねぇ」


 期待などはしてはいけなかった。外は危険だと再三再四お父様に言われた事を今更ながら思い出す。こんな事なら興味本位で戦いを覗き見ず部屋に籠っていれば良かった。そう後悔した。だが、後悔しているだけじゃ生きてはいけない。その為にも必死でこの場から逃げだした。


「あれぇ、逃げちゃったよ?」

「あの体躯でそう離れる事は出来ないでしょ。ほら、捕まえに行くわよ」


 そうして逃げて逃げて逃げて──

 出会ったのがシーフとヘルメスだった。



△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼




「──なっ。エナ⁉」


 シーフとヘルメスの横を通り過ぎた数羽の鳥が高速で使用人へと向かう。勿論、この鳥はただの鳥では無い。魔法によって作り出された鳥だ。身体は淡く透き通り赤と緑が交互に飛行し使用人へと着弾すると内包された莫大な魔力が放出され廊下諸共吹き飛ばす。


「儂はどこぞの有象無象よりおぬしらの方が大事じゃ……おぬしらに決断出来ぬなら儂が手を汚す」


 その言葉を年端も行かない幼女に言わせてしまった事を後悔し覚悟を決める。


「いや、悪かった。もう大丈夫だ」

「僕たちもみんなが大事なのは一緒だからね」


 エナベルの魔法によって大幅に数を減らした敵を目の前に気合いを入れ直す。いつでもどこからでも掛かって来いと身構えど敵が攻撃して来る事は無かった。




△▼△▼△▼△▼△▼△▼


 敵の数は四人、半数を切った所でリッターは白い息を吐いた。その息と共に人間性まで飛んで行ってしまえば良いのにと自棄気味に空を見る。先まで共闘していた仲間は死に今はひとりだ。どうやら同僚を斬る事は剣を鈍らせる様で最後は元仲間に貫かれ安堵した表情で目を閉じた。これ以上仲間を斬らなくて済むといったところだろうか。リッターの同じ気持ちだった。これ以上仲間を斬らせないでくれ。そう願いながらも仲間の血に濡れていく。


「──ッ!」


 仲間の顔だと少し油断すれば致死性の攻撃が飛んでくる。対複数で戦闘する訓練を積んではいるが相手もその訓練を積んできた近衛騎士、こちらの動く手は見破られている様に感じた。それに加えいつ爆発するか分からない魔道具をぶら下げ休憩する暇も与えてくれない。統一された動きでリッターを翻弄しじわじわと追い詰めていく。


「いい加減にして下さい!」


 空いた左手で火球を出現させ牽制する。

 リッターは本来、近衛騎士団魔法部隊を纏めていた。そんなリッターはダブルの天啓を持ち火と土の加護を与えられている。得意な魔法は火魔法、フォータ団長直伝の技だ。団内では団長に次ぎ火魔法の扱いに長け実力も折り紙付き、近衛騎士団精鋭四人が相手と言えど負ける要素が無かった。しかし現状は追い詰められ劣勢に甘んじている。ここまで精神的な物で戦闘力が落ちるなどリッターにからして初体験の事だった。

 火魔法のお蔭で少し距離が出来たリッターは生まれた時間で魔力を練り火槍を作り出す。それを敵の頭目掛けて撃ち出す。火槍はその男の頭を貫き破裂される。首から上が無くなった身体は力なく倒れ込んだ。


「後、三人……」


 敵を殺す度に重くなる手を無理やり持ち上げ剣を構える。この地獄から誰か助け出してくれと心で喘ぐリッターの元に助けが来る事は無かった。




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