謀略
「それでグレイス王女は王城に居るのかい?」
「あー居るんじゃねぇか。でも、今すぐに実行しようなんて思ってないぜ?」
いくらシーフでも無策のままに特攻する程頭は悪くない。こんな提案するとすればエナベルくらいのものだろう。
「まぁ、それもそうだね。色々と準備が居る」
「そういう事だ。まぁ、グレイス王女が居るかどうかくらいは探知してもいいけどな」
シーフは目は閉じ集中する。これまでの探知では閉ざされた視界の中に淡い光が現れそれを認識する事で大体の場所が把握出来る物だった。だが、今は違う。解呪によって解放された新たな力。シーフが閉じた目を開け探知を発動すると視界の届く範囲を座標で感じそこで起こる事が自分の体の一部の様に把握出来るようになっていた。
「エナ、ベットで寝ようとしてるな」
「──なっ。寝て無いのじゃ」
エナベルはシーフの後ろで退屈な話に飽きねむねむモードに入っていた。勿論、シーフの背中で起こっていた事シーフに見えるはずが無かった。
「これが解呪で記憶以外に解けた天啓の力だぜ。あー後、グレイス王女は王城に居るみたいだな」
「そんな大事な事を……探知とは違うのかい?」
「いや、これも探知だ。周囲の様子がある程度正確に分かる。だからエナが注意したのにも関わらず目を閉じて寝ているもの分かる」
「──なっ。寝て無いのじゃ」
「それは中々便利なものだね。戦闘でも使えそうだ」
現段階で探知には発動が二段階がある。一つ目は目を閉じ天啓保持者を探すもの。二つ目はその後に目を開けると周囲の様子が手に取る様に分かるというものだ。つまり戦闘で使うとなるとここの切り替えの速度を上げなければならない。実践レベルになるまで暫く時間が掛かりそうだ。
「そもそも戦闘なんてもうこりごりだけどな」
「でもシーフ君がやろうとしてる事には付いて回るものになるんじゃないかな?」
その為にはどうにかしてこちら側に正当性を付けなければならない。例えば──
「その兄の悪事を暴く事が出来れば何とか出来るかも知れないんだよな」
「第二王子か。でもそれが何かは分からないんだろ?」
「ああ、あれ以上喋るとバレた時が…な。だからグレイス王女からこれ以上の情報は望めない。分かる事と言えば第二王子カルミネがグレイス王女の力を使って何かを企んでるって事だ」
「天啓:回帰だったね。その力のおかげでシーフ君は助かった訳だけどカルミネがどれだけの情報を握ってるのか怖いところだよ」
天啓:回帰。任意の点まで自分の魔力を消費し戻る事が出来る。ただし未来に行く事は川の流れに逆流する様なもの。グレイスの魔力では到底叶わない。
「一体そんだけの力を手に入れて何をする気なんだか」
「自分が王になるとか?」
「それなら何回もグレイス王女の力を使うか?グレイスは確か自分の魔力が切れるのが近いって言ってたんだよ。だからそろそろ本気で行動を起こす可能性があるってな」
「だったらもう捕まれられないかな?」
「仮にも王族だからな。第二王子が何かよからぬ事を企んでます、捕まえて下さい。何て言っても捕まるのはこっちだぜ?」
その為シーフはシーフひとりだけなら王城に忍び込みこっそりグレイスを誘拐し故郷の名も無い村に匿おうかとも考えていた。だが、今は頼れる仲間が二人もいる。無茶はせず確実な方法を模索していた。
「正直、ヘルメスとエナがいれば正面突破も現実的な方法なんだけどな」
だが、二人を危険に晒す事はシーフとして本意ではない。もうシーフの手を取った時点で危険な事は変わりが無いのだが、出来るだけ安全に事を済ませたいと思っていた。
「それは……案外ありかも知れないな」
「いや、なしなし。冗談だ。もっと安全に行こう。グレイスの話じゃ時間はまだ少しある感じだった。急ぐと失敗しかねないからな」
「それじゃあ当分は情報集めが行動方針って事でいいのかな?」
「それしか無いだろうなぁ。それと同時進行でエナの魔法の修業もしたい。俺らのどっちかで。どっちがいい?修行相手か情報収集か」
「んーそれなら僕は情報集めだね。パーシヴァル家の伝手を当たってみるよ。フォータさんも屋敷に帰って来てる筈だし顔も出しておきたかったからね」
拠点を王都南部の宿に定め互いに行動指針を決め合い安宿のベットに眠る。状況が一変したのはそれから二ヶ月後の事であった。




