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シーフの呪い

「知らないのじゃ」


 次の日、早くに起きたエナベルに叩き起こされたついでに聞いてみるとミーデンと言う名前には聞き覚えが無いと言った。


「後は隻眼で長髪だっけか」

「儂は見た事も無いの。実際呪いが掛けられた時は腹の中じゃからな。儂には見る事も出来ん。お母様ももう居ないしの」

「そうだったのか?」

「言っとらんかったかの?お母様は天寿を全うしたのじゃ。歳も歳じゃったからの。お父様みたいに悪魔族では無く普通の魔人族だったからの」

「種族の位が上がると寿命も上がるのか。それは人族でも同じなのか?」

「そんな事までは知らんのじゃ。じゃがまぁ、そうなるんじゃないのかの」


 結局、エナベルとその母親に呪いを掛けた者は特定する事が出来ずエナベルはお父様に聞いてみると言ってこの話は終わった。呪いを解呪されたエナベル自体は今まで使えなかった魔法が使えるようになって子供みたいに喜んでいた。皆がまだ起きぬ朝から村の外へと付き合わされエナベルの体力が尽きる頃には昼下がりとなっていた。


「それでこの時間まで外に居たのかい」

「ああ、大変だったぜ。エナの奴、魔力使役量が半端じゃ無かった」

 

 エナベルは天啓を二つ持っていた。それは封魔の呪いが掛かっている内は全くの役立たずだったが解呪された後だと話が違う。エナベルの持つ天啓は四大属性魔法全てが使える証のエレメンタル、そしてシーフも持つ魔帝だ。だがシーフと違う点がある。シーフは無の加護の為、エナベルの魔帝と持つ意味が変わって来るのだ。シーフの場合、自身の魔力保有量が莫大に増える。そうする事で身体能力向上、体外魔力との循環において多大なる効果を得る事が出来る。一方エナベルは魔法を使う為の魔力使役量が上がる。加護を持つと言うのは大気中にある魔力を使う事を許可されるという事だ。つまりエナベルの持つ魔帝は体内の魔力を増やす訳では無く魔力を使役する量が増えるというものになる。そんな魔法を使う為だけの天啓を持ち、親は魔王と来た。これで弱いと言う方が無理があるだろう。


「多分、山の地形が変わってるんじゃねぇか?」

「そこまではやって無いのじゃ」

「いいや、ヘルメスだって気付くぜ?あそこは俺らの狩場にしてたところだったからな」


 実際エナベルの魔法は技術、威力共に熟練者のそれに達していた。ひとつ足りないものを上げるとするならばそれは実戦経験だけ。そんなエナベルの初の魔法体験を共にしたシーフは疲れ切っていた。


「次はお前が行ってくれよ?俺はもう懲り懲りだぜ?」

「そんな大変なら僕も嫌だな……」

「儂はひとりでも構わんぞ?」

「じゃあ今日なんで俺を連れてったんだよ」

「そう言われると保護者は必要な感じがするね」


 そんな他愛もない話をしていると今日もタリートが来る時間となっていた。タリートは仮屋に入ると説明を割愛して解呪に入った。エナベルの時同様シーフの頭に手を乗せる。手から魔力が溢れ出しシーフを包み込んでいく。その内シーフの身体は透けて行きエナベルの身体にもあった呪いが姿を現す。だがそれはエナベルのとは異なり具現化した瞬間部屋を暗く覆い尽くしてしまう。それ程までに大きな呪いを解呪する事はタリートには出来ず、シーフの頭に乗せた手を放してしまった。


「……」

「……一体これは何なのじゃ。解呪師になって数十年こんなのは初めてじゃぞ」

「……分かんねぇよ」

「今のは呪いだよね。皆、身体に違和感とかは無いかい?シーフ君も大丈夫かい?」


 皆は一様に異常は無いと言った。張本人のシーフも体に変化は無くあるのは驚きだけ、これの意味する事を脳内で考えていた。


「これだけ大きな呪いって俺そんな恨まれてんのか」

「魔王の娘より強力な呪いを食らうとはの」


 エナベルはこの有り様にケタケタと笑う。


「笑い事か?これ……」

「シーフ君に心当たりは無いんだね」

「ないな。俺は人に恨まれる様な事が無いよう細心の注意を払って生きている」

「それは置いといて。僕が覚えてる限り怪しいのはスカル、バニティー、テーセラは死んでるか。敵対して生きてるのは──」

「帝国かだな」

「全くどれだけ敵を作っておるのじゃ」

「タリートさんは大丈夫ですか?」

「大丈夫じゃが今日はもう解呪は出来そうにないわい。明日、また同じ時間に解呪をしに来る。次は万全の準備来るからの。安心せい」


 そうして今日の解呪に失敗したタリートは仮屋を出て行った。


「これ解けるのか」

「タリートさんが言うには大丈夫なんじゃないかしら」

「どう考えてさっきのはヤバいやつだろ」

「それでも今はタリートさんに頼るしか無いだろ。シーフ君に心当たりが無いんだし」

「でもよ、呪術師なんて会った事ねぇぜ?そもそも呪いで何かを制限する物だろ?俺は何も制限されて無いと思うんだけど」

「確かにそうか。変だね」

「変じゃの。儂は封魔の呪い。魔法を使えさせなくする効果を持っておった」

「だったら俺はあんなやばい呪いで何を制限されてるんだ……」


 シーフは一抹の不安を抱えながら次の日を待つ。そして明朝、準備が出来たといつもより早い時間にタリートが仮屋に尋ねてきた。手には腕輪を嵌めている。これで魔力効率が上がるらしい。昨日と同じようにシーフの頭に手を乗せ解呪は始まった。シーフが透け呪いが可視化されたところでタリートがシーフに向けて手を伸ばす呪いの核心に触れた手は大きく弾かれ辺りを覆っていた暗闇を晴らす。視界が正常に戻り仮屋の中を確認するとシーフが倒れ込んでいた。

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