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家紋ホラー集

恐いアハムービー

作者: 家紋 武範

退屈しのぎのネットサーフィン。

最初はニュースから、ネット辞書。

その行く末は「アハムービー」というものだった。


短い動画で、最初と最後の結果が違う。

少しずつ少しずつ変わっていくので、どこが変わっているのかが分からない。

2つ、3つ見てすぐに飽きたが、どれか一つを当てたいという思いもどこかにあった。


分からないものは答えを見てみると、本当にくだらない。

そのくだらないものをもう一度視聴。

少しばかりイラッとする。

なぜこうも分からないものか。


時間とともに一通り見てしまったが、関連サイトのリンクがあった。

アダルトなアハムービーにも惹かれたが、「恐いアハムービー」というリンク。

この暑い夏にピッタリだと思い、覗いてみることにした。


そこにはたしかに恐そうなサムネイルが並んでいた。

結果が目が抜けているとか、一人の片足が消えているなど、たしかにゾッとするものばかり。


背筋をヒヤヒヤさせながら、この恐いアハムービーに熱中した。

だが結構な件数のあるアハムービーをいつしか見終わってしまったのだ。


物足りない感じだった。

最初はアダルトなアハムービーへ移動しようと思ったが、このサイトの一部分に違和感を感じた。

リンクが並ぶ中、一つだけ「×」と元リンク画像が外れているものがあったのだ。

サイト紹介の文言もない。

見過ごしてしまいそうな「×」。


「ははーん。これぞさらなるアダルトアハムービーかもしれないな。サイトごと削除されてしまったのかもしれない」


そう思って「×」の上にポイントを乗せると、ポイントが指マークに変わる。


リンクがある。


しかし、サイトを削除されてもリンクの情報が残る。

これをクリックすればただの「404エラー」があるだけだ。


そう思い、ボタンをクリックしてみた。

するとページが移動される。

ただの黒いページに、動画が一つ。


右向きの三角は動画を再生する意味だ。

これを押せば動画が再生されるのだろう。


少しばかり恐かった。

先ほど見てきた動画群が恐いものだったから、この黒いページもそうかもしれない。

最初と最後だけ見れば問題ない。


それがアハムービーならば、ビフォー、アフターが見れるだけ。

面白そうなら再生してみればいいのだ。



少しだけ躊躇して、再生ボタンを押す。





と数字が現れ、そこには湖の静止画がある。後ろには山。空はどんよりと曇っている。

しかしその湖の中央に、白い服を着た女性が背中を向けて立っているのだ。


これは静止画でもちょっと恐い。

あの女がこちらを見るようなそんなアハムービーだろうか?


下部にあるスライダーを思い切り結末まで引っ張ってみると、拍子抜け。

アハムービーであるにはあるが、ただどんよりと曇っていた空が青空に変わるだけだ。


「……なぁんだ」


動画はそこで終わる。

別に見直さなくてもいいが、今までもそうしてきたように、最初に戻り動画を再生し、空が青くなっていくさまを見ようと再度動画をスタートさせた。







と数字が現れた後に、例の湖に浮く女性。

なぜかその女性に目が行く。


「これが恐怖ムービーなら彼女になにかおきなきゃウソなんだけどなぁ」


動画の空に青みが射していく。

なんの変哲もない青空になる動画。


「ん?」


異変に気づいた。

湖に立つ女性が下降していくように感じる。

というか、すでに湖に膝あたりまで水の中に入っている。


「おいおい。そんなのなかったよな。あれ? 最後に女の人いたよな。いた。確かにいた。あれか? 最後はまた現れてスタートと同じ場所になるってことか。ああ。そういうことか。それなら恐怖かもなぁ〜」


と一人納得した。そして彼女が湖に消えるさまを見ていた。

少しずつ、少しずつ彼女は湖の中に消えて行く。


ふと異変に気付いた。

今まで見たアハムービーは長くても30秒ほどだった。

しかしこれはすでにそれを遥かに超えている。

下部の赤い線が増えて行くのはタイムラインを示す。

それによるとこの動画はまだ10分の1も経っていない。

これでは5時間ほど経っても終らないのではないだろうか?


それを見ていられない。

さっさとこのページを閉じてしまおうとコントロールとダブリューを押した。

閉じるのショートカットだ。

だが砂時計が表示されたままで閉じるが効かない。

動画の容量が大きすぎて、ストリーミングに時間がかかっているのかも。

だからといってそれが終るのを待っていられない。


そのうちに、彼女は完全に湖の中に消えた。

その消えた瞬間。


「トプン──」


今までこの動画に音などなかった。

だが、彼女が湖に消えると、大きな入水の音がスピーカーから聞こえて来た。


「は……?」


その音で鼓動が早くなる。


恐ろしい。恐ろしい。恐ろしい──。


嫌な空間に支配された感覚。

この動画を見るべきではなかった。

慌てて、パソコンのシャットダウンを選ぶ。

だが砂時計はさらに表示されたまま。

完全に動かなくなった。


しかし動画は動いたままだ。

さらに動画から風の音。さざ波の音。

なんだこの動画は。

アハムービーではないのか?

いや、元よりそんな注意書きも何も無い。

勝手に再生した動画だ。


進んで行く。タイムラインが進んで行く──。




時!


画面にウェーブのかかった髪の毛が一本、動画の枠内に現れた。

下から這い出るように一本。

続いて二本。

それが三本四本と増え、しまいには髪の毛の隙間から覗く湖は少なくなっていた。


「なんだよこれ。なんだよこれ!」


画面の下に何かがいる。

それはあの湖に消えた女なのだろうか?

しかし、この髪の毛の質感は妙にリアルだ。

あきらかに女性のもの──。


見ていられない。

いつまでも見ていられない。


慌てて、パソコンの起動ボタンを長押しする。

数秒押せば強制的にシャットダウンされるはずだ。

案の定、「プ」という音とともに、画面はブラックアウトした。


ホッとした。

全身汗でビッショリだ。


「はは……」


安堵の笑い。独り言でもいい。気を紛らわせたい。

先ほどの気味の悪い髪の毛が目に焼き付いている。

こんなときは寝てしまうのが一番だ。


すぐにパソコンから離れてベッドに入り、頭まで毛布をかけて寝た。








プ……。



サプ……。



──水の音。


水が押し寄せる音。

手探りでスマホを探し、電源ボタンを入れると時間はAM2:57。


「まだこんな時間……」


もう一度眠りにつこうと毛布をかけようと思ったが聞こえる水の音。

岸に静かに波が押し寄せる音だ。

頬に触る風。

なにかが変だ。


だがそんな音の方向を見たくない。




サプ……。



サプ……。



そのうちに、チャプチャプと障害物に波が当たる音。


嫌だ。


だ。


さきほどの女を思い出す。

この音はなんだ。

障害物はなんだ。


息が荒くなる。

鼓動も激しい。

目を固く閉じる。

だが音は消えない。



「クソ!」


これは夢だ。

さっきの動画を気にしていたから。

動画は動画だ。

誰かが作った。

撮影した人物がいる。

投稿した人物がいるんだ。


考えてみりゃなんてことない。

ネットには全て誰かがかかわっている。


だから怖いことなんて無い。

起きちまえ。

起きて確かめりゃいいだけの話だ。


思い切り体をねじってベッドの上に座る。

起きるという意思の表明。

これから水の音の方を見る。


水道を出しっぱなしにしてるとかそういうことだ。

つまらない事象なのだ。


ゆっくりと顔をそちらの方へ向ける。


そこには灯りは無い。

だが室内の雰囲気は無い。

異質な空間。部屋の壁がないように感じる。


広い広い空間。


目が慣れる。

室内なのに月の明かりが見える。


それは水面。


やはり夢だ。

怖い夢。


部屋の中に湖がある。

いや湖の近くに部屋があるのか?



サプ

 サプ

  サプ


月明かりに照らされた女の遺体が水に揺れている。

あの動画で見た髪の質感。


背筋が凍る。

息が止まる。

夢なら覚めろ。




『代わってぇぇぇええええーーーッ!!』


女の遺体は顔を上げて大きく叫んだ。




だ──。







◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





退屈しのぎのネットサーフィン──。

リンクが並ぶ中、一つだけ「×」と元リンク画像が外れているものがあったのだ。

サイト紹介の文言もない。

見過ごしてしまいそうな「×」。


そのリンク先には湖の静止画がある。後ろには山。空はどんよりと曇っている。

しかしその湖の中央に、パジャマを着た『男性』が背中を向けて立っていた──。

挿絵(By みてみん)


このFAは秋の桜子さまより頂戴しました!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 1度目は見逃されるけれど2度目を見たらもう逃げられない、好奇心は猫を殺すといいますが主人公も。 最後のイラストを見て一気にゾクゾクがきました。 [気になる点] もし、この男性が寝るときは裸…
[一言]  素直にヒヤリとしました。  作者の頭の中にあるイメージ、それも、その速度感まで、なんとか伝えられないかという情熱を文から感じました。  楽しませていただきました。
[良い点] 結末がすごく良かったです。 世にも奇妙な物語で映像化してもらいたいです。 でも、子供の頃は怖いもの見たさがけっこう強くて、心霊写真の本とかを友達と一緒に読んだりしていましたが、大人になっ…
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