傘地蔵 ~穴、開いています~
むかしむかし、とある山奥におじいさんとおばあさんが住んでいました。
もうすぐ正月を迎えるというのに、おもちすら買うことのできない状況だったので、おじいさんは自家製のシャンプーハットを売りに町へ出かけました。
町についたおじいさんはシャンプーハットを売り歩きましたが、全く売れませんでした。シャンプーハットはブームが去り、既に皆が持っていたからです。
何とか売りたいおじいさんは懸命に声を掛けますが、やがて雪が降り出し積もり始めました。仕方がないのでおじいさんはシャンプーハットを持って家に帰ることにしました。
吹雪の中の帰り道、おじいさんは地蔵峠に並んだお地蔵さまを見かけると、春になったら雪解け水が目に染みるだろうと、売れ残りのシャンプーハットを差し上げることにした。
おじいさんはお地蔵さまの頭に降り積もった雪を払い、一つまた一つとシャンプーハットをかぶせていきましたが、しかし手持ちのシャンプーハットは二つ足りません。
そこでおじいさんは、自分の被っていた古びたシャンプーハットを外し、最後のお地蔵さまには手持ちの手拭の真ん中に穴を開けてお被せし、何も持たずに我が家へ帰っていきました。
その夜、おじいさんとおばあさんが寝ていると何やら物音が聞こえました。慌てて外へ出てみると、そこには大量の格好良いシャンプーハットが置いてありました。
どうやらSNSでお地蔵さまの頭にシャンプーハットを大量に被せる遊びが流行ってしまったようです。発端はおじいさんです。町中の人達が手持ちのシャンプーハットをお地蔵さまに被せて写真を撮り、町ではシャンプーハットを求める声が挙がってます。
これを契機に元日早々からおじいさんたちはシャンプーハットをフル稼働で増産。巨万の富を得たおじいさんは町の貧しい人々に穴の開いた餅を配ったそうです。
すると今度は穴の開いた餅が流行りだし、シャンプーハットは瞬く間に売れなくなりましたとさ…………