表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嘘と真の恋のゆくえ  作者: 海老茶
7/10

7.お姑さん

ピッカピカに磨かれたこの大理石は、どこまで続いているんだろうな。

ーーって真剣に考えるくらい長い長い廊下だった。天井は高いし、部屋はいっぱいあるし。先に進む騎士さんが居なければ、私は絶対に迷子になる。


騎士さん、格好いいなぁ。ついうっとり見ちゃう。ナトンが剣術のお稽古をしてるのを見て、すっごく憧れたなぁ…。こう、ズバッ!と剣を振りかざす姿とか、本当に素敵。

私もやりたい!って言ったら、お父様に本気の説教をくらったな。なぜに。


「ご令嬢、殿下がこちらでお待ちです」


はう!この騎士さん、お声まで格好いい~!


「ありがとうごさいました」


私は家庭教師に「50点」と言われるお辞儀(カーテシー)をした。心をこめてしたのに、騎士さんにはクスリと笑われてしまった。なぜに。


「ルシィ!」

「わあ!」


扉が勢いよく開いて、笑顔のマリユスが私を出迎えてくれた。……あービックリした……。


「よく来てくれたね。さあ、こっちだよ」

「う、うん」


嬉しそうなマリユスに手を引かれて、案内された(テーブル)につく。先に着座しているこの人って…。


「紹介するね、ルシィ。私の母上だよ。ーー母上、こちらは私の婚約者のルシィ・ド・アルトワ嬢です」

「は、初めまして。ルシィでございます」

「……まあ、小猿のようですね」

「母上!」


マリユスが大きな声を出す。王妃様は、私の50点のお辞儀を見て、小猿と言ったのだ。おお…鋭い洞察力。さすがはマリユスのお母様だ。


「鬱陶しいから、早く座りなさい、小猿」

「はい。では失礼します」

「母上…」


早々に座っていいと言ってくれたので、私は遠慮なく座る。ん?マリユスが泣きそうな顔をしている。どうしたのかな?お腹が痛いのかな?


これ(・・)が、貴方の選んだ子なの?マリユス」

「はい、母上」

「小猿、貴女は王子の妃になる覚悟は、ありますか?」

「ありません」


キッパリ言うと、部屋の空気が凍りついた。あれ?私、マズいこと言ったかな?でも、嘘はつけないよね。お妃様になる覚悟なんて、ないもん。


「……………………」

「こ、これから妃になる心構えを身につければ良いでしょう。ですね、母上」

「……これは、鍛えがいのある小猿だこと…!」


ゴゴゴ…と背後から音が聞こえる(気がする)。王妃様になんかスイッチが入った。ま、マズい予感…!


「まったく、侯爵家ではどのような教育をしたのかしら。マリユス、婚約者を変えた方がよろしいですよ」

「お断りします。絶対に変えません」

「……貴方が苦労するのですよ」

「苦労だなんて。ルシィに関する全ては、私の喜びです」

「…つまらない男になったこと。貴方は、兄を支える優秀な補佐にさえなれば、よろしいのです」

「王妃様、それは違うと思います」


あ、思わず口を挟んでしまった。でも、このお母様、あまりにも息子を抑えようとするんだもん。


「マリユスは、マリユスです。兄を支えるだけの存在ではないと思います。今だって、もう優秀だもの。いつも一生懸命頑張っているもの」

「ルシィ…」

「だから、そんなに追いつめないであげてください」

「…小猿が、小賢しいことを…!」


王妃様が、扇を握りしめて怒っている。……ちょっと違う。怒っているフリをしている?

それに、王妃様の言うことって、私のことに関しては、本当にその通りなんだよね。覚悟はないし、教育も真面目に受けていないし、何といっても小猿だし。

マリユスが苦労するの、目に見えるよね。お母様としては、心配するよね。


「でも、私に対する王妃様のご心配は、もっともです。私も、婚約者を変えた方がいいと…」

「ルシィ」


途中で遮られた。なぜに。


「…母上。ルシィはこのように素晴らしい女性です。私は生涯、ルシィ以外の女性を好きになることはありません。ですから、絶対に婚約者を変えたりしませんので」

「……そうですか」


フイと横を向いて、王妃様はマリユスから目をそらす。あ、分かった。この二人、お互いすれ違っちゃってるんだ。


「マリユス。王妃様はね、マリユスをとっても心配しているんだよ」

「……え?」

「そして、王妃様は、私をも心配してくれているの。だって、お妃様になる覚悟がないと、お妃教育が辛いでしょう?」

「……………」

「そしたら、マリユスも辛いし苦労するから。王妃様って、ちょっと表現が意地悪だけど、本当は皆を心配しているんだよ」

「……そうなのですか?母上……」


マリユスは、王妃様を見つめる。その視線を受けて、王妃様は顔を少し赤らめて、横を向いたまま、「表現が意地悪、は余計です」と言った。


「母上…!ありがとうございます。私はルシィさえいれば、どんなことも出来ます。もちろん、兄上を支える立派な王子になります」

「……よろしくお願いしますよ」

「母上には、ルシィのお妃教育を是非お願いいたします」

「げげ!」

「何ですか!淑女が、その口の利き方は!」

「ひええ…済みません…!」

「……良いでしょう、マリユス。この小猿は、私が!徹底的に!鍛え上げてあげましょう!」


う、嘘!?マリユスったらひどい!王妃様の瞳が、ランランと輝き出した!お、お妃教育なんて、絶対に無理だよう~!


「いえ、あの、ですから婚約者を変えた方が…」

「いいえ!王妃の名にかけて、小猿を淑女にしてみせますわ!」


ああ…王妃様に火が付いちゃった…。どうしてこうなってしまったんだろう…。

王妃様は立ち上がり、「小猿、明日から王宮に来るように」と強い目力で私に命令した。…はい逃げられません断れません。





王妃様が退出したあと、私たちはソファに移動して、なんでかマリユスに抱きしめられた。


「マリユス、ちょっと、離れない?」

「駄目、まだ、無理」


マリユスは私を膝の上にのせて、背後からぎゅっとする。あの、重くないですか?


「マリユス、重くないの?」

「全然。僕だって、結構鍛えているんだよ」

「え、すごいね、マリユス」


王子としていっぱい勉強しているのに、さらに体まで鍛えているなんて!一体いつ寝るのさ!


「ルシィ、ありがとうね」

「?なにが?」

「僕のこと、分かってくれて。……母上との誤解を、解いてくれて…」

「ううん。私は何もしてないよ」

「でも、母上の言い方が、キツいでしょう?ルシィは、何で分かったの?」

「え?王妃様、優しいよ。表現がちょっと意地…独特だけど。きっと、強くなろうと頑張っちゃったんだよ」

「ルシィ…!」


マリユスが、私の肩に顔をうずめる。ーー泣いてる?うーん、泣かす要素、あったかなぁ。言い過ぎてたら、ごめんなさい。


「好きだよ、ルシィ。もう好きすぎて、どうにかなりそうだよ…!」

「えっと、ほどほどでお願いします」

「ねえ、ルシィ。明日から王宮に来るなら、もう家に帰らないで、王宮(ここ)に居ればいいよ。ね、そうしよう!」

「マリユスってば。それはだめだよ」

「ええ~」


不満そうにマリユスが揺れる。もう、わがままだなぁ。


「ね、マリユス。私やっぱりお妃様なんて無理だよ。いまから、婚約者を変えた方がよくない?」

「……ルシィ。今度同じこといったら、監禁するからね…!」


ゴゴゴ…と背後から音が聞こえる(気がする)。やばい、やっぱりこの二人、親子っ!


「監禁して、いかに僕がルシィを好きか、こんこんと教えてあげるからね…!」

「はいすみませんもう言いません」

「ルシィ。僕は君と一緒に居たいだけなんだ。お妃教育が嫌なら、僕が王子を降りたっていいんだ」

「え…マリユス、それは…」

「本気だよ。だから、ルシィは無理しないでね」

「うん…」

「ルシィは、僕が王子じゃなかったら、いや?」

「ええ?!そんなこと、考えたことないや」


ふふ、そうだよね。だからルシィが大好きなんだ!と嬉しそうに抱きしめるマリユス。

うーん、マリユスのことは嫌いじゃないけど、好きだとは言い切れないのに、良いのかな…?


「そうそう、僕、いま騎士団長に稽古をつけてもらっているんだ」

「騎士団長!」

「うん。僕、きっと強くなるよ。騎士よりも」

「騎士よりも、強く?!」

「そしたら、僕を好きになる…?」

「騎士より強い、マリユス…?それってすっごく格好いい…」


うっとりとマリユスを見つめる。ただでさえ美形なのに、そんな、騎士みたいに強くなったら…。それって最高に格好いいんじゃない?!

想像したら、ちょっと胸が高鳴った。マリユスは、そんな私を愛おしそうに抱きしめ直した。



◇◇◇◇◇



なぜか王宮でお妃教育を受けることになった、とお父様に話したら、諸手を上げてよろこんだ。「王妃様自らお教え下さるとは!なんたる栄誉!」と大喜びだ。ーーそこまでは良かったのだが、それまでの経緯を話したら、すっごく怒られた。ゲンコツを2回ほどくらう。なぜに。


そんなわけで、売られた子牛は、売られ先の王宮にて、お妃教育を受ける。私が言うのもなんだけど、これは猫に小判、豚に真珠だ。

マリィに代わってもらおうとも考えたけれど、とりあえず、マリユスには即バレる。ううん、奥の手にすらならない。


「よく来ましたね、小猿」

「よ、よろしくお願いいたします…」


姿勢が悪い!角度が悪い!口調が悪い!……とにかく、ダメ出しばかり。おう…今までさぼっていたツケだな、これは。


でも、王妃様は、うちの家庭教師よりも丁寧に教えてくれる。……ものすごく口が悪いけど。そしてちっとも甘くないけど。だから、私は逃げ出さず放り出さず頑張っていた。


勉強もよく分からない私に、王妃様は自ら教えてくれた。これまた丁寧で分かりやすい。


「あっ!こういうことですね!」

「そうです。正解ですよ」

「なるほど。よく分かりました。王妃様は、教えるのがとても上手ですね!」

「……おだてるものではありません」


あ、照れてる。この数ヶ月で、王妃様のことがだんだん分かってきた。優しいのにそれを隠し、褒められると、照れ隠しにむっつりする。

ふふ、とっても素敵な女性だ。


「私も、王妃様のように素敵な女性になりたいです」

「……いいえ、私のようになっては駄目」

「なぜですか?」

「私のように、感情を押し殺す必要はないのですよ。周囲に誤解されますから」

「王妃様は、とっても親切で優しいです。私、すぐに分かりましたよ?王妃様の厳しさは、全部、自分以外の誰かのためだもの。それって、本当に素敵です」


私も、王妃様みたいに格好いい女性になりたいな。そう思ってニッコリ笑った。

そしたら、王妃様は涙目で私を抱きしめる。


「いいえ…。貴女は今のままで大きくなりなさい。……ルシィ」

「…!はいっ!」


王妃様が、私を名前で呼んだ!わあ、嬉しいな!



ーーと、想定外に王妃様からも気に入られてしまった。なぜに…。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ