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嘘と真の恋のゆくえ  作者: 海老茶
2/10

2.王子様に釣られてお茶会へ

夕食のあとに、私だけお父様に呼ばれた。いつもはルシィを呼んで、お説教するお父様だから、ルシィには「珍しいね」と言われる。ーー悪いことなんて、していないもの。きっと、ルシィに聞かれたくない話なんだわ、と私は思った。


コンコンとドアをノックすると、「入りなさい」と優しい声がした。


「さあ、マリィ。このソファに座りなさい」

「はい」


言われた通りに座ると、お父様が真剣な顔つきで私に言った。


「明日のお茶会には、第2王子が出席する。そこで、マリィには第2王子と仲良くなってほしい」

「えっ!」


お茶会。ちょっと気が重かった。誰とでも仲良くなれるルシィとは違い、私は人見知りだから。普通に話せるお友達なんて、幼なじみくらい。

そんな私に、お父様はすごいことを言っている。王子様と仲良くですって?


「お父様…私には無理です」

「何を言う、マリィ。マリィほど美しく愛らしい淑女はいないよ」

「でも…。ルシィならすぐにお友達になるわ」

「あれは淑女ではない」


キッパリハッキリお父様は言う。そんなこと…無いとは私も言い切れないけれど。


「マリィだって、王子様に会いたいだろう?第2王子はとても美しい男の子だよ」

「………」


確かに、肖像画の王子様は、物語に出てくる『王子様』のように、本当に本当に格好いい。ちょっと会いたいかも…。


「第2王子と会うだけでも良いのだよ」

「お父様…。分かりました。会うだけでしたら…」


うんうん。一目見れば、王子もマリィの美しさに惚れてしまうよ、とお父様は嬉しそうだった。『一目見るだけで惚れる』のなら、ルシィだって同じでしょうに。


ーーでも、あの素敵な王子様なら、仲良くしたいな…。


私の中で、大きな欲が芽生えた。



◇◇◇◇◇



お茶会は大規模で、私たちくらいの年齢の男女が、大勢集まっていた。


ーーみんな、可愛いわ…!


お父様に王子様と仲良くするよう言われたけれど、こんな綺麗なご令嬢方の中では、私なんてちっとも目立たない。


「いっぱいいるね、ルシィ」

「私たちは来なくても、大丈夫だったんじゃない?マリィ」


ルシィは隣でそんなことを言っている。私は首を振って、「お父様の頼みだもの」と言った。

そういえば、お父様はルシィをどう言って説得したのかしら。お茶会なんて行きたくない!って言っていたルシィを。


「それじゃ、お菓子をいっぱい食べて帰ろっと」

「ルシィったら。今日は何しにここに来たか、知らないの?」

「え?お菓子を食べに来たんじゃないの?」


あ、これはお父様、お菓子でルシィを釣ったのね。もう、お菓子で釣られてしまうなんて、ルシィったら!


「王子様が、来るんですって」

「王子様?」

「そう。この国の第2王子様。私たちと同じ年なのよ」

「へえ。物知りだね、マリィは」

「ルシィったら…」


呆れた。毎日、家庭教師から何を教わっているのかしら?ルシィは、あんなに素敵な王子様の肖像画を見て、憧れたりしなかったのかしら…?


「…私は王子様と、お話ししてみたいな…」

「マリィは可愛いから、きっとお話し出来るよ」

「ふふ、ルシィったら。私たち、そっくりじゃない」

「でも、私はマリィみたいに本とかよく分からないから、お話ししたくないなぁ」

「このお茶会で、そんなこと言ってるのって、きっとルシィだけだと思うわ」


そう。何となく分かったわ。このお茶会は、王子様と(・・・・)仲良くなりたい(・・・・・・・)男の子と女の子の集まりなのよ。ーーそう、お父様に言われている子たちなのよ…。


「でも、王子様、中々来ないね、ルシィ…」


返事がない。振り向くと、ルシィはもう居なかった。


「うそでしょ、ルシィ…」


大勢の中に、一人取り残された。どうしよう…。


「や、マリィ」

「あ…ナトン…!よ、良かったぁ…」

「?どうしたの?」


私はホッとした。幼なじみのナトンが一緒なら、怖くない。


「ナトンも、来ていたのね」

「そりゃあね。父上が、王子様と仲良くしなさいってさ」

「そっか。でも心強いわ。そばにいてくれる?ナトン」

「マリィ…」


ナトンが顔を赤らめる。緊張してるのかな?そうよね、王子様だものね。良かった、私だけじゃないのね。


「もちろん、僕がそばにいるよ、マリィ。ずっと…」

「ありがとう、ナトン。ルシィったら、どこかへ行ってしまって…」

「どうせ、食べるのに飽きて、他へ遊びに行ったんだろ。アイツは大丈夫だ」

「…迷子になってないと良いけれど…」


やっぱりマリィは優しいな、とナトンが言っている。ううん、私は優しいんじゃない。私の片翼がそばに居ないと、私が不安なだけなの…。


「そうだ、マリィが好きな『月の王女』の続きが出たよ」

「まあ!本当に?!」

「うん。今度家に見においでよ」

「ありがとう、ナトン!もちろん行くわ!」


真面目な本なら買ってもらえるけれど、恋愛小説になると、中々買ってもらえなくて。こうしてこっそりナトンに読ませてもらったりしている。

ナトンは、いつも私に寄り添ってくれる、優しい男の子だ。父親同士が仲良くて、お互いの家をよく行き来している。同い年ということもあり、私たちはすぐに仲良くなった。

そして、私が唯一普通に話せる男の子だ。


「やあ、ナトン」

「ああ、君か…」


ナトンが男の子に話しかけられる。知らない子。私の肩に力が入る。


「うわ!可愛い子~!ナトン、紹介してくれよ」

「いやだね」


ナトンが、私を背中にかばう。思わずナトンの洋服をつかむ。


「彼女は、僕の大切な人だよ。ほら、向こうの(テーブル)に行きなよ」

「ちぇっ。またな、ナトン」


男の子はすぐに別のテーブルに行った。良かった…。

ーーでも、いつまでもこんな引っ込み思案ではだめよね…。


「ありがとう、ナトン」

「いや…」


あ、これは全然伝わってないな、とナトンはため息をつく。ーーううん、大切な人って言ってくれて嬉しいよ。私も、大切な友達だと思っているもの。


そういえば、王子様はまだなのかな?と思っていると、急に大人がバタバタし始めた。私もお父様に呼ばれて、早足で向かう。


「お父様、急にどうしたのですか?」

「殿下がいらっしゃったのだが…」

「えっ!」


急なことに、私の心臓がはねる。ど、どうしよう。ついに、あの麗しい王子様が…。

お父様に手を引かれ、行き着いた先には、王子様とルシィがいた。


「え?ルシィ?!」


どこいっていたの?どうして王子様と一緒にいるの?と疑問ばかり頭に浮かぶ。


「殿下、私の娘が失礼を…」

「いえ、アルトワ侯。とても素敵なご令嬢ですよ」

「殿下、私にはもう一人娘がおりまして。その、山猿(ルシィ)を解放してもらえますかな?」


山猿って。お父様、ひどい。


「もう一人?」

「は、初めまして、殿下」


やだ!お父様ったら。急に振るから、どもってしまったわ。お辞儀(カーテシー)は、美しく出来たかしら?


「すごい。見た目はそっくりだね、ルシィ」

「うん、双子だもの…っていたあっ!」


あ、お父様がルシィを殴った。もう、ルシィったら、王子様にそんな口のききかたを…!


「殿下にそんな口をきくんじゃない!早くこちらへ来ないか!」

「良いんだ、侯。ルシィは、自然なままで魅力的だから」

「え?殿下、マリィの方が可愛いよ…っていたたた!」 


ルシィったら。今度は耳を引っ張られたわ。お父様がルシィを無理やりはがし、代わりに私を押しつける。


「…君の妹さんは、大丈夫かな…?」

「多分、大丈夫だと思います、殿下。改めて(ルシィ)の無礼をお詫び申し上げます」


ペコリと頭を下げた。ーー私、王子様と普通にお話し出来ているわ!


「無礼だなんて。君の妹さんは、とても、とても素敵ですよ」

「寛大なお言葉、ありがとうございます」

「それにしても、そっくりですね。双子とは、これほど似るものなのですか?」

「どうでしょうか。でも、確かに私たちはよく似ています。取り替えごっこをすると、周りはよくだまされるくらいですから」

「取り替えごっこか。なるほど」


ニコリと優しく笑う王子様。すっごく、すっごく素敵!


「君も、生き物とか好きなのですか?」

「あ…いえ、私は、本が好きで…。外遊びが好きなのは、妹の方です」

「そうですか」


王子様は少しガッカリした様だった。王子様も、外遊びが好きなのかしら…。私ったら、答えを間違えてしまったかしら…。


「本なら、私も好きですよ。最近では、『夢の扉』という冒険活劇を読みました」

「まあ、殿下も?私も読みました!主人公があちこち旅をしては事件を解決する内容が、とても好きで」

「ええ、面白いですよね」


殿下も本を好きだった!嬉しい!今まで本の話が出来る人は、幼なじみだけだったのに。


「こんにちは、殿下」

「やあ、ナトン。君も来ていたのか」

「父上の命令で。ーー殿下、彼女は私の幼なじみです」

「幼なじみ…。というと、ルシィとも?」

「ええ」


突然割って入ってきた幼なじみ。私の肩を抱いて、かばってくれている。心配してくれて、ありがとうナトン。でも、大丈夫よ。殿下とは、普通にお話し出来るもの。

ーーいいえ、正直、殿下と二人きりでお話ししたいわ…!


「そうか…。アルトワ侯の友人だったね。君の父上は」

「はい。幼少の頃からの付き合いです」

「ふふ、そんなに威嚇しなくても。では、私は挨拶に回るから失礼します、レディ」


頭を下げて、王子様は遠くに行ってしまった。ああ…。至福の時が終わってしまったわ…。


「大丈夫だった?マリィ」

「……ええ、もちろん。殿下と楽しくお話ししたわ」


ほんの少し、嫌味を込めて言ってしまった。王子様は、私のことを、どう思ったのかしら。良い印象を持ってくれたかしら。

そのことばかり気になってしまう。この時はルシィのことなど、頭からすっかり消えていた。



ーー後日、つらい現実を突きつけられることになるなんて、この時は夢にも思わなかった。

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