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第29話 選択2


「魔王へ戦いを挑むなら、私たちも参加しますよ」


 扉が開く音とともに、凛々しく響く声。

 そこにはヘレナの姿があった。


「お前……! 一体どうしてここに?」

「どうしても何も、あなたが救出されたときに私も一緒に戻って来たんですよ」


 なんてことない風に肩をすくめる。

 アイザックは知らない。彼が拷問に苦しめられていた時、彼女がそれを止めようと賢明に説得を試みていたことを。


「いいのか? お前は教会の人間だろ」

「免罪珠の件もありますし、責任を取って辞職ということで辻褄は合うでしょう。私も体制に縛られるのはやめて、自由に行動することにします」


 ヘレナは別に教会に失望したわけではない。アンデッドという脅威の中で、人々が団結できたのは価値があることだ。

 だが人のつながりは時としてしがらみにもなる。足の引っ張り合いや、排他的な空気を作ることもあるだろう。

 だから誰かが、そこから一歩先へ進まなければならない。団結という楔を引き抜いて、また新たな結束をもたらすために。


「……まったく、立ち聞きなんて褒められたことじゃないよ? 魔王討伐はアイザック君が一人で決断したことだ」

「分かってます。でも別に一人で行かせる気なんてなかったでしょう? なら私たちが加わってもいいはずです。……大体アイザックさんも水臭いですよ。彼女が一番、あなたのことを心配してたのに」

「彼女?」


 ヘレナが少し、立っている場所を移動する。

 ヘレナと扉の影になるところから、やや申し訳なさそうな顔のカタリナが姿を現した。


「えーっと……ごめんね、全部聞いちゃった」

「カタリナ、お前まで――」

「カタリナさんは、ずっとあなたの看病してたんですよ? 起きたらすぐ彼女を残して部屋を出るとか、ちょっとよくないと思います」


 彼女に言葉をかけるより速くヘレナに咎められ、アイザックはやや口ごもった。


「う……いや、悪かったよ。ないがしろにするつもりはなかった」

「あ、ううん、分かってるから大丈夫。私もちゃんと部屋で待ってるつもりだったんだけど、ヘレナさんに連れてこられちゃって」

「私もあなた方には詳しく聞きたいことがあったもので。まあさっきの会話で大体察しましたけど」


 少々堂々とし過ぎているぐらいのヘレナに比べ、カタリナは引け目を感じているようだった。

 アイザックは今まで、自分の生い立ちについて誰かに語ったことはない。しかしさっきの会話を聞いたなら、概ね理解できてしまうだろう。


「アイザックって、結構大変な立場だったんだね。私、全然気づかなかった」

「別に――大変なのは俺の師匠のほうで、俺自身はただ空回りを続けてただけだ」

「でも、その空回りは全部お師匠さんのためなんだよね。ずっとそのルカって人を探してて、やっと手掛かりを見つけた」


「ああ」

「私もね、アイザックに出会うまでずっと行き詰っていた。家を飛び出してまでアンデッド退治をやってたけど、自分の無力さを実感して何やってんだろうって思ってたの。でもアイザックが戦い方を教えてくれて、初めて私は自分なりの道を見つけたんだって思えた」


「聖水魔法は、液体の性質を薄めることなく増やすカタリナの魔法体系だからこそ使える力だ。それがあれば、きっとどこででも人の役に立てる」

「私は、アイザックの役に立ちたいよ」


 彼女の瞳はまっすぐこちらを向いている。

 その眩しさに思わず目をそらしたくなった。だがそれは彼女の真摯さに泥を塗る行為だ。

 アイザックは改めて問いかける。


「俺は多分、無謀な戦いに挑もうとしている。他のやつを巻き込みたくない」

「無謀なら勝算を高めなきゃ。私が力になるわ」


「お前は死んでアンデッドになるのは嫌だって言ってただろ。負けたら魔王の配下にさせられるかもしれないぞ」

「でも、勝てばアンデッドの生まれる魔法そのものを解除できるかもしれない」


「……プラスの面ばかり考えるなよ。全部ダメになる確率のほうが高いんだ」

「あははっ、戦う前に負ける心配するのは三流よ。勝てると思い込むことだって強さの秘訣なんだから」


 どんなセリフも快活な笑顔で一蹴される。傍らのヘレナも、全然動じた様子はない。


「私たちを言い包めてようとしても意味がないですよ。あなた自身が無茶を承知で選択したように、私たちの決断も理屈じゃないんです」

「いやはや、女は強しって感じだね。どうだろう、一度組んだ相手のほうがアイザック君も連携が取りやすいだろうし、ここは自分の気持ちに素直になったほうがいいんじゃないかな?」

「……素直に、ね」


 見透かしたようなことを言うロレンズに、それでも言い返すことはできなかった。

 思うところはあれど、図星をつかれたのは否定できない。


「俺は……やっぱり人を巻き込みたくない。でも一緒に戦ってくれるなら、お前らが一番心強い」

「アイザック……!」


 カタリナがぱあっと笑顔になり、ヘレナが力強くうなずく。

 アイザックは覚悟を決めて宣言した。


「俺たち三人で、魔王ガルラ・ヴァーナを討伐しよう」

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