夢
短いです。
ーーーま
ーーーーーとーま…
あれ…?だれの声だっけ??
斗真…だめよ……
ああ…母さんの声だ…
まどろみの中斗真はぼんやりとその声の主を認識する。
幼い頃に亡くなった母の声ーーかすかに覚えている
斗真、そこに近づいてはだめ…あなたまでのみこまれるわ…
―――?
母の声とともに視界がひらける。
そこは明桜学園で、上から俯瞰しているようだった。
正門の正面にある本校舎。
裏手にあるのは2つの建物ーー男子寮と女子寮だ。
斗真が行ったのはそこまでだが、不思議なことにその奥のーーグラウンドや2つの巨大な建物もまるで実際見たかのようにリアルにみえた。
斗真は学園を見下ろす形で宙に浮かんでいる。
ふと、同じように宙を漂っている人影がみえる。
霞んではっきりと見えないが、母だと斗真は直感した。
「母さん…?」
だめよーーあそこには近づいてはだめ…
斗真は疑問を浮かべながらも学園をまじまじとみつめる。
建物が透けて見えてきたーー1番奥の灰色の建物ーーこの建物だけ異様に年季が入っている上本校舎よりも大きい。一体なんの施設だろうか??
じっと直視していると、その灰色の建物が、透けてみえた。
「あれはーー門??」
だめよ
「母さん?」
あれはーーあれに近づいてはだめよ斗真
「門に近づくなってこと??」
灰色の建物の中にある巨大な両開きの門ーー神社の鳥居のように大きくそびえたっており、黒く、鈍い光を放っている。鉄とは違う、なにかの鉱石で作られているようだった。
門の後ろや左右は灰色のコンクリートの壁、下の部分はむき出しの地面で、正面にはテニスコート2面分ぐらいの空間が広がっていた。
ーーーー!?
不意に背筋に悪寒が走る。
なんとも言えない不気味な気配に斗真は息を呑んだ。
不意に扉が、音を立てて開きはじめた。
内開きの隙間から闇が溢れ出す。
見た目の通りだと、後ろのコンクリートの壁がみえるはずなのに、門の隙間から見える空間はただただ、黒かった。
「なにーーあれ…」
邪悪な気配を感じて、斗真は言葉を失う。
だめよーー斗真ーー
「母さん!あれはなにー!?」
狼狽する斗真に、彼女はただ繰り返した。
近づいてはだめよーーあそこはーー
魔物が跋扈する異界の扉なのだからーーー!
斗真はそこで目が覚めた。
そこはいつもの自分の部屋で、いつものように朝日が窓から優しく室内を照らしていた。
いつもと同じ朝の光景に、斗真は安堵して胸をなでおろした。
春陽に衝撃なことを言われて丸2日。
よほどショックだったのか、斗真は家にたどり着いてから高熱を出し、寝込んでしまった。
学園内での謎の倦怠感や肌を刺すような刺激は門の外に出ると不思議なくらいびたりと止まった。
不思議な感覚だったが、熱を出した原因の一つはこれかもしれない。
「母さんが夢にでてくるなんてーー」
珍しい。
幼い頃ーー1番甘えたい盛りの時に母親を亡くした斗真は毎晩のように母親の腕の中で眠る、心地よい夢をみていた。
だが、朝目が覚めては、母親のいない現実に打ちのめされるーー
それが虚しくてーー悲しくてたまらなかった。
毎日それらを繰り返すうちに、斗真は母親のことを忘れようと思いついた。
忘れてしまえば、こんな感情は抱かずにすむとーー
そう思いついてからーー小学校に上がってからまばらになり、最近は全くといっていいほどみなかったのだがーー
妙にリアルな上に話しかけてきたーー初めての夢だった。
しかも内容は忠告。
死者からのメッセージと思うと、当たってそうな気がしてーー怖い。
夢の内容を思い出して悪寒が走る。
もう二度とこないでーーー!!
すくむ体に沈黙していると、ふと、春陽の声が蘇る。
「春陽……」
君はあの時ーーどんな気持ちだったの??