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親愛なるこの世界で  作者: 桜夏光
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異変


春陽は女子寮の一室で、一枚の写真を思いつめたように、みつめていた。

同室の茶色の髪の少女は今朝から姿が見えない。


()()()から様子がおかしい――――


そういう春陽も側から見たら同様なのだが、指摘するものはいない。


春陽は彼女の胸中を察していたが、どう声をかけたらいいのかわからなかった。

ここ数日、必要最低限の会話しかしていない。


入寮した時はとても気が合い、これからの学園生活を想像してはお互い笑った。胸が高鳴った。


だがーーー


入学式で初めて魔法を見た時、春陽はとてつもない衝撃を受けた。

まるでファンタジーゲームのような、現実には起こりえないことを自分達が実現させる。


まるで自分達が特別にーー実際そうなのだがーー誰よりも価値があるように感じて、春陽はなんとも言えない喜びと興奮を覚えた。


早く魔法を使えるようになりたい!そんな好奇心でいっぱいだったのだが…


あの日ーー


ーー()()()()()()()()()()それをしった時、春陽はーー春陽だけでない他の生徒たちも言葉を失っていた。


春陽は手に持った写真を見つめる。

そこには幼い春陽と母、そして今はいない父が写っていた。


「助けてよ…斗真」


絞り出すよなか細い声で春陽は呟く。



そんな時だったーープルルルル!と電子音が部屋に響く。ドアのすぐ横にある内線電話からだった。壁に取り付けられたその受話器をとると、正門の守衛室からだった。



「佐倉春陽さんですか??」


「そうですが…」


「星野斗真さんが面会にお見えです」


春陽は息を飲むーー同時に心が温かくなるのを感じた。





寮に入るとシャンデリアのある2階吹き抜けのエントランス。そのすぐそばに事務所があり、中年の女の人がこちらを見ていた。


「面会の人ですね?食堂はすぐそこです」


女性が手で示した先には両開きの扉があり、斗真は片側を恐る恐る押した。

隙間から体を滑り込むように入ると広々とした空間が広がり、四角いテーブルと座り心地の良さそうなクッション製の椅子が何組も整然と配列されていて、面会に来たらしい家族で賑わっていた。


BGMが流れてさながらどこかのお洒落なカフェテリアのようだった。


斗真はざっと見渡してまだ春陽が来てないことを察すると、中庭が一望できる窓際の席に腰を下ろす。

そこは、片側一面ガラス張りでそこから差す陽の光が優しく室内をてらしている。


逆側は厨房となっており、腰上ぐらいのカウンター席で仕切られている。

今は昼前なので、昼食の準備で忙しそうだ。

希望すれば寮生以外も食事ができるらしい。


ホテル並みの雰囲気を醸し出している食堂で食事をしてみたい。


(どこもすごいなーーこんな所に入れるなんて春陽が羨ましい)


それは、なにも知らない斗真の率直な感想だったのだがーーー


「斗真」


好奇心に駆られてキョロキョロと落ち着きのない斗真は、いつのまにか春陽がすぐそばまで来ていたというのに声をかけられるまで気がつかなかった。


春陽は白の七分袖のロングカーディガンの下に赤いキャミソール、ジーンズ生地の短パン、サンダルというラフな格好だった。


「面会、来てくれてありがとうーー一人できたの?」


「うん、おばさんは?」


「午後ーー仕事終わってからくるって」


斗真は春陽を、じっと見つめる。


ーーー?なんだろう?


「ここのね、ご飯本当においしいの!是非たべてってよ!奢るからさ」


奢るっていっても200円だけどーー春陽はそういって笑顔を浮かべる。


寮生である春陽自身は無料で、外から来た人間は食材費のみの値段で食べられるらしい。


斗真は、春陽の笑顔に形容しがたい違和感を覚えるが、追求する間も無く春陽はまくし立てる。


「みんな気があうし、先生たちは優しいし!いい学校だよーー」


春陽はそう言って楽しそうに話す。

斗真はそれを黙ってただ聞いていた。


そして、ふと思った。


「ーーどんな勉強しているの?」


「ーーーえ?」


何気なく斗真が聞いた質問に春陽は一瞬で顔を曇らせた。


そんな変なこと聞いただろうか?


「ふ、普通だよ、普通の勉強」


斗真はその答えに内心首を傾げた。


「ふーーん、国立の学校だからなんかすごいのやってるかと思った」


率直な感想を述べると春陽は少し困ったようだった。


「あーーもう昼ごはんやってるみたい、取りに行こう」


春陽が調理場なら方に視線をやると何人かの生徒が列を作り始めていた。

春陽は立ち上がると斗真の手を取る。


ばちっ!



「きゃっ!」

「うわ!」


その、瞬間電気が走った。


「せ、静電気??」

「冬でもないのにーー?」


斗真の言葉に春陽が唖然としながら応える。


もう一度恐る恐る手を掴んで見る。

今度は平気だった。


2人は首を傾げた後顔を合わせるとーー笑った。


気がつかなかったが、久しぶりで緊張していたらしい。

それがほぐれたのかなんだかおかしかった。




それから談笑しながら昼食を頂く。

この一か月間、新学年になって起こったこと、新しい担任の先生が春陽の前の担任だったことなどー色々話す。

そしてもうすぐ春陽の母親が来るということなので、斗真は帰ることにした。



「来てくれてありがとう」


そういって寮の外まで見送ってくれた春陽の、長いカーディガンの裾が風でめくれ、太ももに赤い、手のひらサイズの、花のような模様があることに気がついた。


「あれ?春陽ーーそんな痣?とかあったっけ?」


斗真が軽い気持ちで口にすると、春陽は愕然とした。

まるで時が止まったのではないかというくらい制止して、半開きの口元は震えていた。


「はるーー」


「斗真!!」


春陽は突然声を荒げて顔を寄せてきた。


斗真は驚きたじろく。


「そ、そのことは誰にもいっちゃだめ!」


春陽の必死の表情に斗真はおし黙る。


「ーーーないで」


「え?」


「もうーーこないでーー」


想像もしなかった言葉に斗真は鋭く息を呑む。


春陽は踵を返し、冷たく言い放った。


「はるー」


斗真は戸惑いながら春陽に手を伸ばす。


「もう二度とこないで!!」


その手を振り切るように、春陽は寮の中に駆け込んでいった。


斗真は行き場を失った手をどうしたらいいのかわからず、しばらく呆然としていた。







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