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親愛なるこの世界で  作者: 桜夏光
16/21

呑まれる声


就寝前に斗真は家で星空をみながら、ここ最近、毎日見る不思議な夢をおもいだしていた。


『魔物が跋扈する異世界なのだからーー』


それは以前、明桜学園の奥にある門を開けてはならないという、亡くなった母親の警告の夢の続きなのだが


つい先日、夢の中のせいか、恐怖に慄きながらもうずく好奇心に負けてしまい、斗真はとうとう門を潜ってしまった。


そこには古代の森を彷彿とさせる巨大な木々、夜空には三つの月が浮かぶ世界が広がっていたーー


まるで鳥になったかのように、斗真は上から森を見下ろしながら視点は移ろいでいく。


森の先に広がる砂漠ーーその奥には断崖絶壁というにふさわしい谷があり、三角に尖った崖の上に黒い巨大な塔が見える。


なんだーー思ったよりも怖くないじゃないかーー


斗真が恐怖心を忘れて、母親の警告も杞憂だったのだと安堵しかけた時だったーー


()()()を目にしたのはーー


まるで暗黒から生まれ、漆黒を纏ったかのような化け物、怪物、悪鬼ーー


そう言った言葉がふさわしいとも思える異形の物どもーー


斗真は言葉を失い、しばらく震えが止まらなかった。幸い彼らはこちらに気づかない。


塔から出てきた彼らはゆっくりとした足取りで森の中に入ると拡散していった。


恐怖や怒り、憎悪ーーこの世のありとあらゆる恐ろしいことや負の感情の塊かのように感じた。


まさに()()とよぶにふさわしいーー


それから斗真は、彼らに会いたくない一心で塔の方にはいかないようにしている。


塔がある方角とは逆の方向にいってみると、そこには黒い海が広がっていたり、枯れ草の目立つ草原が広がっていたりと、みたことのない景色が広がっていた。


それらを一種のアトラクションのようだと斗真は楽しんでいた。


「門の奥には違う世界が広がってるーーか」


まるでファンタジーゲームのようだと斗真は胸を躍らせているが、恐ろしい化け物も出てくるので夢で良かったと毎回目が覚めては思う。


「夢だから怖いことも、起きたら大丈夫なんだよね」


斗真はつぶやく。


夢だからーー夢だから大丈夫


斗真は星空を眺めながら繰り返し唱える。


()()が実際にいたら怖いなーーそうおもいながら。




食糧の調達は予定から一キロ南に行ったところで実行することになった。


それは新入生二人が大声を出したため、魔物が寄ってくることを懸念してのことだった。


「ここらで別れよう」


姫島班の班長、姫島郁美が静かに伝え、一同はうなづく。

可愛らしい名前だが筋骨隆々といった大柄の男を最初見たとき、春陽はゴリラを連想したのだがそれは内緒だ。


どう人を振り分け食糧集めをするかは各班に任せられたので、各々広げた地図を中心に輪になって話し合う。


「一年と上級生とで別れよう」


飯島菜緒がそう提案すると、東総司がすかさず口を開いた。


「じゃあ、菜緒と昴と泡沫さん、美智佳と勇大と坂本くん、僕はーー佐倉さんとで、別れようか」


菜緒は総司の振り分けに一考してからうなづいた。


「そうだな、昴と勇大は食べられる食材の見分けつかないし、(おまけに見張っとかないとすぐさぼる)総司なら一人でも後輩の面倒を見られるだろう」


「三年生にもなって食べられるものの区別がつかないなんてーー猿以下ですわね」


「あんだと、こらぁ」


(しかも美智佳と昴はすぐ喧嘩するし)


菜緒は心の中でため息をつく。


「じゃあ三十分後にーー」


総司の言葉を皮切りに一同は解散する。


春陽は総司の後に続いて走りだす。

あれだけ移動しても魔法をうまく制御できているおかげなのか、疲れはない。

不思議な感覚に春陽はつくづく魔法って便利だなと再認識する。


因みに二人は川辺で魚を獲る予定だ。


解散前に見た地図だと、真っ直ぐいくとすぐに川にたどり着くはずだ。


少しすると、春陽は違和感を覚え始める。


もう川にたどり着いてもいいはずなのにーー


木々の先にひらけているばしょも見えないし、水の流れる音もしない。

方向を間違えたのだろうか?


不安を覚えながらも、あの総司先輩が間違えるはずがないと、春陽は彼を信用しきっていた。


「そういえば、先ほどはありがとうございました」


「ああ、蛇のこと?ちゃんと毒のないのを選んだんだけど優しすぎたかな」


「はは……」


可愛い顔して恐ろしいな、春陽は苦笑しながら乾いた声をあげた。


「礼なんていいのにーーだって」


総司が急に立ち止まる。反射的に春陽も立ち止まった。


「先輩?」


川なんてどこもーーという春陽の言葉は鋭い息とともに飲み込まれた。


「今から君を消そうとしているんだから」


にわか、総司の背後に二体の魔物が現れたのだ。は


頭は日本の巻かれた角が左右に生えた雄ヤギに似、上半身はガタイのいい人間の男、下半身は牛のように黒く短い毛で覆われて、二足歩行で歩き、身長は二メートル程はあるだろうか。


まるで西洋の悪魔が本から飛び出してきたようだった。


学園では総じて魔物と呼んでいるが、それには今までで四つのタイプが確認されている。


動物の姿に似た獣型。


虫の姿に似た蟲型。


人の姿に似た人型。


そしてこれらの型が、二つ以上合わさった混合型。


中でも、混合型に出会った時は逃げることだけを考えろと教わった。


スピードと強靭な肉体も併せ持つ上ーー非常に残忍な知性をもつーー恐ろしい魔物だと。


遭遇率は年に片手の指で数える程度だといっていた。


判断さえ間違わなければ煙幕と閃光弾で投げ切れる可能性はあるとーー


だが、春陽たちが食糧調達にきたエリアである南の森では確認されたことがないとも言っていた。


だから春陽はこの状況を想像してなかった。


故に行動するのも遅くなった。


春陽が回避行動をとるより先に総司が混合型の魔物に指示を出す。


「捕らえろ」


春陽は瞠目したまま凍りつく。


「な、なんで先輩!?」


混乱と動揺で、春陽は抵抗する術すら浮かばず、魔物が発した蔓のような触手に捕らえられる。

その時頭に浮かんだのは、なぜ総司が魔物に指示を出しているのか、なぜ自分を消そうとしているのかという疑問だった。


全身が凍りつくような恐怖が春陽を襲う。そのことを知ってか知らずか、総司は震える春陽を冷たく見下ろす。


とっさに触手に、噛み付いたが少し食い込む程度でビクともしない。

必死の抵抗も混合型の魔物は沈黙する一方でで、微動だにしなかった。


「大丈夫だ」


不意に総司の瞳に影が指す。まるで人形のように虚で、機械が話しているかのような感情のない、無機質な声だった。


「お前はいなくなるが、『佐倉春陽』は存在する」


その言葉が、春陽が聞いた最後の言葉だった。


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