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親愛なるこの世界で  作者: 桜夏光
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星の下で

暗い暗い夜空に散りばめられた、大小様々な輝きを放つ星々。

そんな夜空を見上げ、1人の少年はベッドの上で毛布にくるまりながらぼんやりと考え事をしていた。

開け放った窓からくる夜風が白い吐息をさらい、代わりにひんやりとした空気が肺を満たした。


どうしてこのこの地球にだけ、生命が溢れているのだろうーーー


青い、碧い美しい地球。


銀河には、宇宙には数え切れないほどの星々が存在するのに未だに人間のような知的生命体はおろか、生物が生きられる環境をもった星はみつかっていない。


広大な宇宙にたったひとつーーそう考えると急になんともいえない寂しさがこみ上げてきた。


「なーにひとりでとじこもってるの!?」


急に部屋のドアが開いて、我が物顔で1人の少女がずかすがとはいってくる。

両手にもったトレーには湯気の上がったマグカップを2つのせている。


春陽ハルヒーー急にはいってこないでよ」


驚いた表情を浮かべながら軽く抗議する。


「一人だけ部屋にこもってるんだもん。なにしてんの?寝るにはまだはやいわよ!」


ふと時計をみると針は、まだ19時前だった。

冬は日が落ちるのがはやいためもっと遅い時間のように感じる。

春陽はもっていたトレーをベッド脇の学習机の上に置いてマグカップの1つをこちらへと差し出してきた。


「ココアだ、、、」


湯気の上がったマグカップの中身は春陽が大好きなミルクココアだった。

自分は嫌いではないが好きでもなくとりあえず短く礼を言って受け取る。

春陽もマグカップを片手に少年の隣、ベッドの脇に座り込んだ。勝気な黒い瞳が少年の視線と混ざり合う。


「っていうか、さむっ!なんで真冬に窓なんかあけてるのよ!」

「なんとなく」


間髪入れずこたえる。


「あんたほんと変わってるわね、そんなんだから友達できないのよーーとーま!」


痛いところを突かれ少年ー斗真は眉をひそめる。

春陽は斗真の学年の1つ上だ。だが年齢は春陽が3月生まれで、斗真が4月生まれ、1ヶ月しか差がない。なのにこうして姉のように接してくる春陽がすこし鬱陶しかった。


「そういう春陽は友達いっぱいいるのになんで僕にかまうのさ」


春陽は少し間をおいてこう答えた。


「私、今度の春で中学生でしょ?」

「うん、だね」


ココアを飲みながら、春陽は視線を遠く、夜空に向けた。その白い頬が少し赤みがかって見える。


「あんたとまた離れるなーって」

「うん、そうだね」


それから長い沈黙が空間を支配した。

2人は視線を空へと向けたまま熱々のココアに息を吹きかけながらゆっくりと飲んでいく。


彼女が中学に上がればこんな時間はきえるのだろうか?

遠い思い出と化してしまうのだろうか?

春陽がこうして、自分ちのように上がり込んでくるのももうなくなるのだろうか?


「そういえば星をみながらなにを考えてたの」

「へ!?」


突然話が切り替わり思わず声を上げる。

聞かれた内容も内容だ。幼い子供のようなーー寂しいーー事を考えていたなんて口が裂けてもいえない。

返答に困っていると先に春陽が口を開いた。


「さびしいなー」


そこに行き着くまでの思考は違うだろうが結果的に同じ感情を言葉にされ斗真は静かにおどろいた。


「中学に上がるともうあえないだよね」

「?春陽が行くのは小学校のとなりの中学でしょ?」


斗真の疑問の声に春陽は寂しそうに、笑った。


「実はね、K県N市の全寮制の学校にはいることになったんだ」

「はぁ!?」


自分でもびっくりするぐらい大きな声が上がる。

それも仕方ない。予想だにしなかった答えが返ってきたのだから。


「なんかね、国立の中高一貫校で、教育全般を研究している特殊な学校があって、毎年全国から、無作為に生徒を選んでるんだって」


斗真が言葉をなくしている間、春陽は平坦な声音で淡々と話をつづける。


「入ったら卒業するまで出られないけど、卒業するまでにただで色んな資格とれて、エリート街道まっしぐらなんだって。よくわかんないけど」


入ったら卒業まで会えない?

ーーってことは最低でも6年間会えない!?

そんな学校が存在するなんて初めて聞いた。


「ほら、私んちって母子家庭でしょ?学費も寮費も無料だからお母さんに負担かけなくてよくなる。こんないい話私には勿体無いくらいだよ」


ベッドから立ち上がり、春陽は飲み終わったマグカップをトレーの上に戻した。髪が顔を隠して表情がうかがえない。


「月に一回、面会に来てくれたら会えるらしいけど」


その言葉に斗真はしがみつくように反応した。


「ーーいく」


「え?」


「ぜ、絶対に会いに行くよ!」


絞り出すように斗真は言った。その顔は真っ赤に染まっていた。恥ずかしそうな斗真を見て春陽は頰を紅潮させてクスッと笑った。


「待ってる」



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