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マーヤ、自分が本当に別人になったことを理解する。

 アネッサに案内されたのは、小さな脱衣所。

 奥に広い浴室があるので、一緒に入ろうと言ってくれた。




 アネッサは、元々男社会の教会の中でも珍しい女性の枢機卿で、同性である前の聖女とは険悪な仲だったらしい。

 マーヤとどれほど違うのかと聞いたら、しばらくこちらをみて、


「外面は可愛い子猫だけど、本性は盛りのついた猫の皮を被った獣と、おもちゃを見つけて尻尾を振ったり、遊んで〜と走り回る子犬がマーヤ」


と答えた。




 ちょっと待って!

 神さま一応、聖女は馬鹿にいじめられて自殺したって……。




 おずおず……。


「あ、あのね。アネッサ。この聖女は虐められて自殺したって……聞いたんだけど……」

「あぁ、そういう風に言われているが、本当はこの隣の国の馬鹿でブサイクな元王子が、権力にモノ言わせて聖女をくれと言ったらしい。私は馬鹿と似合いと思っていたんだが、ワガママ聖女が『私は、あんたみたいなブサイクなのと結婚しないわ!結婚相手はジークフリードよ!』と言って『それに、私より落ちるけど、アネッサもいるでしょ!この女にしなさいよ!』と言ってくれたお陰で、私達の両親、兄弟達が激怒して隣国に攻め入り降伏させ……元王子は幽閉暗殺。で、表向きはちやほやされて自惚れてた聖女は、自殺じゃなく、毒をあおった……我が父の命令で。父がこの世界の最大の国、ランバザルグエン帝国の帝王で兄弟が次期帝王だ」


 ……言ってたことと、全然違うじゃん!

 神さま!隠してたな〜!

 もしかしてあのブヨブヨってその王子だったとか?

 聞いてたら、私、こんなとこに蘇りたくなかった!

 聞けば聞く程、馬鹿だし、絶対私はしないよ!


「でも、オーラも違うし、マーヤはジークフリードに媚びもしなかった。衛兵に立ち向かう姿は伝説の聖戦の乙女のようだった。だから、着替えをしよう。この格好はマーヤに合わない」


 数人のシスターを呼び、濡れた薄いスケスケのドレスを脱がせて貰い、そして、浴室に向かうと絶句する。

 壁が、反射ガラスかもしくは金属なのか、磨かれ、それに自分の姿がしっかり映った。


 黒髪と珍しい漆黒の目だったはずなのに、髪はオパールのように乳白色でキラキラとしたラメの入ったものに、瞳はアンモライトストーンや玉虫のような緑から黄色、そして赤に変わっていく不思議な色。

 ちなみにアンモライトストーンというのは、化石のアンモナイトが宝石化して呼ばれる名前。

 7000万年という時間をかけて作り出された化石宝石なのだ。

 綺麗なあの、ぐるぐるの形に発掘されたものは、ものすごい値段で取引されるけれど、途中で壊れてしまったものは、最近まで安価で取引されていた。

 それが最近、磨かれて宝石として販売されている。


「うわぁ……なんかもう、私じゃないわ……」

「私も驚いた。前の聖女は銀髪で吊り上がった真紅の目だった。けれど、中にいるのがマーヤのせいか、お人形みたいだな」


 服を脱ぎ、後ろから入ってきたアネッサは感心したようにいう。

 アネッサはほっそりとしてはいるが、美しい肢体を晒している。

 色白で美しい。

 私の身体は、肩をこるだけあって、立派な二つのものがあり、だがありがたいことにウエストはちゃんとくびれ、細い。

 昔はすっとん体型だったので、憧れだったが……。


「胸だけあって、頭が悪いの嫌だなぁ……」


 ボソッと呟く。


「アネッサ。お願いがあるんだけれど、色々勉強したいから、教えて貰えるかな?私は、見た目からもう聖女として失格かもしれない……でも、何か出来たらって思うの。早目に、ランバザルグエン帝国の帝王陛下方にきちんと謝罪しなければならないわ」

「仕出かした本人はいないだろう?」

「でも、私がいるわ」

「……身体はそうだが、中身は違う。謝罪などしたら、マーヤに罪が及ぶ。もう一度死ねと言われるかもしれない」


 アネッサは心配そうになる。


「大丈夫よ……」

「帝王はこの世界で最も強い独裁者だ。この教会なんて潰すのわけない。それでも?」


 マーヤはアネッサに微笑むと、風呂場を見て顔をしかめる。


「このお風呂場……臭うのね」

「あ、そうね……でもこんなものよ」

「違うわよ。アネッサ。この臭いは、排水設備が良くないの。身体を洗ったりした後の水はどうなってるの?」


 かがんで床のぬめりを確認する。


「それは……えと、下級神官の仕事だから……」

「あ、あぁ、そうよね。じゃぁ、先に入ってから確認するわ」


 浴槽に浸かる前に、足元を特に清め、そして、身体を温めると、髪を洗う段になり、


「えっ?石鹸ないの?何で洗ってるの?」

「お湯だけよ」

「えぇぇぇ!フケが出て頭がかゆくなるわ。それに、清潔にしてないと頭皮からも身体からも臭うのよ」


マーヤは青ざめる。


「えっと……卵の白身で洗って、黄身でリンスもあったわよね。他にはお米のとぎ汁。あぁ、オリーブオイルでリンス保湿っていうのも。他に何かあったかな……」


 記憶を必死に呼び起こす。


 確か平安時代にお米のとぎ汁は『ゆする』と呼ばれ、それで髪を洗っていた。

 で、真葛さねかずらというつる草のツルを水に浸し、取り出した粘液でトリートメントもしくは艶出しし、その上にもっと椿油、丁子油ちょうじあぶらを使っていたとか……これは歴史教師で、研究家だったおじいちゃんに聞いた。

 真葛は特に男性用の整髪料だったとかで、別名、美男葛びなんかずらというらしい。

 実際、おじいちゃんとおばあちゃんは、なるべく自然のものがいいと、髪を整えるのに椿油を愛用していた。

 固めるのではなく自然にながす、そして艶が綺麗で、真彩まあやも髪に無駄なものはつけず、椿油にしていた。


「油……えっと、料理に使うサーナ油ならあるわ」

「えっと、それは植物?動物性?」

「神官は基本植物だけよ。祝い事の時には肉が食べられるわ」

「へぇ……魚は?」

「えっ!ちょっと待って頂戴!魚は魔の一種で、貧しい国でしか食べない食べ物よ!」


 硬直する。




 魚が魔物……マーヤは元日本人で、日本人は昔は肉はあまり食べなかった。

 海の魚、川や湖、池の魚を食べていたのである。

 家でも、肉より魚だった。

 お寿司も煮魚、焼き魚、お刺身も食べられないのか……。




「代わりに、昆虫は食べるけど」

「いやぁぁぁ!」


 虫嫌いのマーヤは叫ぶ。


「む、無理!絶対嫌!」

「美味しいわよ?足をむしって……」

「聞きたくない〜!」

「じゃぁ、トカゲの丸焼き」

「いやぁぁぁ!もっと無理!」


 耳を押さえて叫ぶ。


「何を騒いでいるんだ?」


 低い声が響き、ハッとすると、自分達が入ってきた扉とは違うところから入ってくる……。


「あら、ジークフリード」

「え、え、ななな、何で?ぎゃぁぁ!チカン!スケベ、変態!」


 置いていた桶を投げつけ、マーヤは逃げ出したのだった。




 顔面に当たる寸前に避けたジークフリードは、むすっとした顔で、双子の姉を見る。


「アネッサ。あの女を嫌いだと言っただろ?」

「あの子はマーヤ。あの馬鹿女じゃない。ものすごく知識がある。……私はね?性別が違うだけで、差別されるこの世界が大嫌いなの。それに、同じ日に生まれても、恵まれてる貴方が大嫌い。会いたくもないのに、何故ここにきたのかしら?ランバザルグエン帝国次期帝王陛下」

「アネッサ!」

「帰って頂戴。同じ顔、同じ瞳、髪の色……ほとんど一緒なのに、性別だけ違うだけで、こんなにも立場が違う……双子になんて生まれるんじゃなかった!」


 風呂の中に桶を突っ込み、お湯を弟にぶっかけたアネッサは、後ろも振り向かず足早に立ち去ったのだった。

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