こんなことになるなんて……
住宅デザイナーは、お客様が何を求めているかを尋ね、考え提案し、建築家は自分が何を作りたいかを考える。
私は甲斐真彩、建築家の父と、ファッションデザイナーの母、ファッションモデルの姉がいる。
私は父のようになりたかった。
けれど、成長するにつれて自分で設計するのは巨大な施設よりも、身近で自分の生活に密接した住宅がいいと思った。
海外に拠点を置いている家族は反対したけれど、私は日本に残り、母方の祖父母……おじいちゃんとおばあちゃんと一緒に暮らして専門学校に通っていた。
父方のおじいさまとおばあさまは、首都圏の広い敷地に洋風の大邸宅に、庭師が日々手入れする広大な庭。
おばあさまの愛馬も暮らし、お手伝いさんもいる現代でも恐ろしいお金持ち……大財閥だもんね。
でも、おじいちゃんたちは、首都圏から少し郊外にいったのどかな町の少し山際に、純和風の家を建てて住んでいた。
けれど、次第に二人は、年齢もあり段を登り降りが辛そうになり、私は色々調べて、廊下や階段にDIYのお店で探した手すり、滑り止めや玄関にスロープをつけたり、ちょっとした段差を無くしたりと色々手を尽くしてみることにした。
二人が楽に過ごせるように……。
それは業者に頼んでもいいけれど、学校の友人達やそのツテを頼った大工さんに頼んだ。
その方が安いし、友人達も私もまだまだ勉強中だもんね。
二人には温泉旅行をプレゼントして、いない間に工事をしてもらった。
一応設計図を作って、お願いしたのだがそうすると、大工さんが赤鉛筆で付け加えながら色々教えてくれた。
「このスロープは急すぎる。逆に大変だぞ。押す方にも負担がかかる」
とか、
「段が低い階段にして、手すりをつける方が、いい場合もあるんだぞ。じいちゃん達はまだ車椅子じゃないだろ?」
「スロープよりもですか?」
「スロープっても、坂だからな。膝に負担があるときもあるのさ。それより、二人が登る助けになる両側に手すりで低い階段を登る方が楽だろう」
「で、でも、いつか車椅子……」
「まぁ、そうだよな。今のうちに作っておくのも手だな。あんたが決めたこの場所に」
と教えてもらう。
現場ならではのなるほど……と思う意見が多かった。
そうして、大工さんと友人と何度も相談し、車椅子が余裕のスロープと、階段に手すりをつけてもらった。
すると、大工さんは、倉庫に保管していた新品だが、間違った寸法で切ってしまったとかと言う廃材を集めて運んで使ってくれたのだが、予定の材料より、いいものになり焦る。
「その木材、いい値段しますよね?」
「本当はな。でも、寸法間違いで廃材だ。いいものを使う方がいいだろう?元々の木材と同じ値段にしとくな」
と、破格の安値でいいと言ってくれた。
「ほ、本当ですか!でもそれじゃ……」
「いやぁ、倉庫の掃除になったしな」
「それに、うちの息子と仲良くしてくれてありがとうな。嬢ちゃん……じゃねえな。真彩ちゃん」
まだまだデザイナーとしてはひよっこ……殻から出てもいない私に笑いかける。
涙が出そうになり頭を下げる。
「ありがとうございます!」
そして、全部の改修を終え、お金を払い、お礼を言って見送った私は、祖父母を迎えに行った。
「おじいちゃん、おばあちゃん。迎えにきたよ!」
従業員さんに旅館の玄関に誘導され、車を止めた。
旅館の中で待っている二人を迎えに行こうと運転席を出た私は、自分の方を見る従業員の男性の顔に振り返った。
「……えっ……ありえない……」
呟いたかどうかも今になってはわからないが、フロントガラスに運転席側がグシャッとひしゃげた軽トラックが私の目の前にいた。
扉を閉めてない、それに、逃げる場所もない私は愛車とトラックに挟まれ、激痛と共に意識を飛ばした。