プロローグ
疑問を知った人形は捨てられた
全てを捨てたいと願い、嘆いた人形は自ら舞台を捨てた
そんな、2人の人形が出逢あったのは偶然だったのか、必然だったのか…
全てを捨てたい、ただそれだけを思い国を出た人形は自分の立場や背負うものなど何も考えず、ただ逃げだした。
ひたすら人目を避け、慣れない独り旅でようやく国境近くの森まで来たのは逃げ出してから半年以上も立っていた。
―――――――この国、「エルドラ王国」は近隣諸国のどの国よりも広大な国だ。そして、1年を通し穏やかな気候故にどの国よりも栄えていた。エルドラ王国は、絶対王政であり建国以来の純血を保つ数少ない国でもある。
すべての国民は、王を絶対と崇め、神のごとく信仰もしていた。それに驕ることなく、現国王はひたすらに国民のことを思い、国民第一の政務を行っている。
そんな広大な国の為、国のほぼ中心部にある首都から国境まで普通に向かっても数カ月は掛かる。それを人目を避けて向かうとなれば半年以上もかかるのも道理である。
「ようやく国境か…」
誰に喋りかける訳でもなく、思わずこぼれた言葉に男は苦笑したが、それはもとより休憩をしようと、鬱蒼と茂る森の中で休憩出来る場所を探す事にした。
暫く歩くと、突然拓けた花畑の様な場所にでた。
鬱蒼と茂る森の中は日中でもやや薄暗いにも関わらず、そこは木が途切れているからか、目が痛くなる程明るかった。
足元には、色とりどりの花が咲き乱れ、花を食べるのであろう小動物や小鳥も多々いる。まるで、楽園の様な光景に息を飲んだ。
何はともあれ休憩を取ろう。そう思い、奥へ足を運んでいくと、ひと際小鳥達が集まっている場所がある。
「何かあるのか…?」そう思い、小鳥達が集まっている場所に向かう。
――――――息を呑んだ…そこには今まで見た事の無い様な美しい何かが居た。
瞳を閉じて寝ているのだろうか、それでも尚、美しいと思われるものをすべて注ぎ込んだと言われても納得してしまう、そんな美しさだった。
日の光を浴びキラキラと光る長い髪は、乳白色で一本一本が水晶で出来てると言われても不思議ではない程。
髪に負けぬ程白い肌。浅く開いた唇は朝露に濡れた薔薇色。
桜貝のような薄ピンク色の形よい爪。
正に人の形をした、見た事のない程の美しい生き物だった。
この国は広い故に肌の色から、髪色まで様々だ。そんな国に居るにも関わらず、こんな髪色は見たことは無かった。
「人……か?」思わず口に出てしまった言葉はあまりにも間抜けだった。
「―――っん……誰か居るの……?」
鈴が鳴る様な声とはこんな声だろうか?などどアホな事を考えてしまう始末だ。
美しい何かは、身動ぎして上肢を上げた。
そして、軽く伸びをしながら固くなったのであろう身体を解し、キョロキョロと辺りを見回し始めた。
「あ、人。やっぱり人居たんだねぇ〜。」
髪と同じく乳白色の長い睫毛に、晴れ渡った空色の瞳を向けて間の抜けた言葉を掛けられ、ポカンとアホ面を披露してしまった。
「君は、人間なのか…?」
アホ面にアホな台詞。何も考えず口から出て来た言葉はあまりにも間抜けだった。
「人間…?私は、人間なのかな?分らないけど、感情を持った人形は要らないって此処に捨てられたから人形では無いんじゃないかな〜?多分?」
キョトンとした表情でそう答える美しい何かは、人間よりも人形と言われた方が納得はした。だが、本人が人間だと言うなら人間なのだろう。
「捨てられた?君は捨てられたのか?ここに?こんな何もない森の中で?」
段々と大きくなってしまった問に、目を丸くして驚く美しい何か。
「びっくりしたぁ、捨てられたよ?要らないんだって言ってたからね」
そう淡々と答えると、立ち上がった美しい何かは側によってきた。その背は、やや高くスラっとしており、乳白色の髪は腰の辺りまであった。
「君はどうしたの?こんな何もない森?の中に何しに来たの?」
そう問われると、ウグッと詰ってしまう。
何と答えていいか分からず、視線を泳がせてしまう。
全てを捨てたいが為に逃げ出したなどと、捨てられたと言った彼女に対して失礼ではないか。
そんな考えが頭によぎる。
「私は、12番」
「…12番?」
彼女は、12番と突然言い出した。
訳も分からず聞き返してしまった。
「私の名前?いつも12番って呼ばれてたのよ」
なんて事もない様に笑いながら、そう言う12番と呼ばれていた彼女。
人形と言われてたとも言っていたと思い返す。本当に人形として扱われてたのかもしれない。
「わ…俺は、ラ…ルークと呼んでくれ」
そう言えば、薔薇が咲き誇る様に満面の笑みで微笑み返してきた12番。
「ルーク?ね。素敵な名前。ルーク、ルーク!」
初めて人の名を呼ぶかの様に繰り返し呼び始める12番を眺めて居た。嬉しそうに名前を呼ぶ彼女は、少女とも言えるような純真さで、鬱蒼とした森の中、光溢れる楽園の様な花畑の中心でキラキラと光り輝いていた。
思わず、自身の名を偽って伝えた等と言えるはずもなく、ただただ見惚れているばかりであった。
それが、激動の時代を創り出し、新しい時代を担っていく2人の出会いだった。
「ねぇ、私ね________________」




