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悪役令嬢の妹ですけどなにか?  作者: トマッティ
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ウォールの過去



「私は元々侯爵家の者なんです。」


ポツリ、ポツリとウォールは一言一言を噛み締めるように話す。

ウォールが侯爵家のものだったなんて・・・当たり前だが初めて知った。




「・・・クリフォード、という家名はご存知ですか?」


極めて優しい声音でウォールは私に問いかけた。




「ええと、確か、ファルナー王国北部をおさめている所よね・・・?

王から絶大な信頼を得ていて、ファルナー王国の歴史でも有数の広大な広さをおさめることを命じられている・・・ところなはずだけど・・・。」


「よく知ってらっしゃいますね。

その通りです。

クリフォード家は北部に位置する領地を全て統括しています。山々に囲まれているので自然に富んでいるんです。とても、良い土地なんですよ。」


懐かしむように目を細めるウォール。

それを見て、悟らないほど馬鹿な私ではなかった。



「・・・それじゃあ、ウォールはそのクリフォード侯爵家の者だっていうのね?」


「ええ。そうです。

私は、クリフォード侯爵家の長男としてこの世に生まれました。」


「・・・へぇ。あ、だから貴族社会の教育もあんなりスラスラできたのね・・・?

なるほどなぁ・・・。」


「はは・・・それは私の努力の賜物ですよ、ライネお嬢様。」


少し口角を上げて私の額を強くデコピンするウォールに憤慨してしまう。

こいつ、かなり勢いよくやりおった!!!!



「ちょっと!?!?痛いんだけど!?!?」


「あれ、軽くやったはずなんですけれどね・・・おかしいなぁ・・・。」


「ニヤけてるぞ!?!?絶対強くやったねあんた!!!このクソ野郎!!!!」


「こらこら、公爵令嬢がクソだなんて言っちゃいけませんよ(笑)」


「うっさい!!!!余計なお世話だよ!!!

・・・んで?その続きは・・・?」




話が脱線してしまったので戻す。




「・・・侯爵家の長男として生まれた私は、父や母に愛されて育つことができました。

逞しい父の背中を見て、「あぁ、僕もこんな風に領民のために政策をしたい」と思ったり、したんです。」


「・・・ウォールのお父さん、いい人だったんだね。」


「ええ、それはもう。

領民のことを第一に考えて行動するような素晴らしい人でした。」


強くそう言い切るウォールには強い意志があった。

相当いい人だったんだろう。

・・・まぁでも、実の父親だから実際よりも美化されている可能性はあると思うけどね。






「・・・でも・・・。」



そう区切ってウォールはとても辛そうな顔をした。

段々と顔が青白くなって、息が荒れてきている。



「・・・ウォール、そんなに辛いなら無理に話さなくてもいいよ。

話さないでいた方が楽なことってきっとある。

絶対に話して楽になるだなんてことはないよ。」


背中をさすってやると、ウォールはふるふると首を振って私の腕を縋るように掴んだ。




「・・・いいえ、私は、僕は話したい。

貴方に、話したいんです。聞いてもらいたいんです。」




つぅっと彼の頬を涙が伝った。

・・・なんで、こんなにも彼は私に自分の過去を伝えたいんだろうか。

そんなに苦しいのなら話さなければいいのに、と心の底から思う。



「・・・わかった。

聞く!聞くよ。聞くから。

でも、無理のない範囲で!!ゆっくりでいいからね!!」


「・・・はい。ありがとう、ございます。」


「いいんだよ。」



ポンポンと肩を叩いてやると、へにゃりとウォールは微笑んだ。



♢♢♢



コクリ、とお茶を飲んで一息つく。

時計を見ると、深夜の1時になっていた。

・・・時間って、あっという間だな。


「続き、話してもいいですか・・・?」


「うん。ウォールの好きなタイミングでどうぞ。」


「ふ、ふふふ・・・タイミングって・・・。」


「ちょ、何笑ってんのさ・・・。」


「ふふ、すみません。

では、話させていただきますね。」


ウォールは、背筋を伸ばしてこちらを見た。

そんなウォールにつられて、私も背筋が伸びる。


「・・・その日は、そうですね。まさしく今日のような日でした。

激しい雷雨が朝から続いていて、雨で1メートル先の風景が見えないような・・・そんな日でした。

けれど、運が悪いことに私たち一家はその日に家族旅行の一環として劇場に行くつもりだったんです。」


「なるほど。劇場ね。

・・・ちなみになんだけど、ウォールって一人っ子だったの?弟さんとか妹さんは・・・いなかった感じ?」


「ええ。私1人だけです。」


「そうなんだね・・・。」


ちなみにだが・・・この世界の劇場は、映画を見るとかそういうものではなくて、宝塚の二番煎じを見るようなものだ。

大きな舞台があって、そこで役者さんが演じる物語を客席から見る・・・というような感じだよ。


「劇場に行く時は運良く少し晴れていて、すんなりと行けたのですが、帰宅する時には激しいどしゃ降りになっていたことをよく覚えています。」


そう言って、ウォールは少し遠い目をした。



「そう、それは、あと少しで家に帰れる・・・そんな時に起こったんです。」


ぎゅうっと手を握りしめ、顔を真っ青にしながら彼は話し続ける。


「一際大きい雷が響いたと思ったら・・・私たちが乗っていた馬車の馬の真ん前に雷が落ちて、馬が暴れたんです。

その勢いで私達は車外に投げ出されました。

馬が動転して暴れ回って・・・投げ出された私達に襲い掛かりました。

私は、咄嗟に母が私を遠くへ突き飛ばしたので助かりましたが・・・両親、は・・・。」


強く強く握りしめられた彼の手からはあまりに固く握りしめたために爪が皮膚を裂いたのか、血が出ている。




ぶるぶると激情を堪えるように下を向いて震えるウォールにそっと寄り添う。

手をゆっくりと開けさせ、近くにあったティッシュペーパーを取って血を抑える。


くそ、だから・・・!!!私は心にそっと寄り添えるようなヒロインじゃないからこんな時上手く言葉が言えないんだよっっ!!!!!




「・・・ウォール。 大丈夫、大丈夫だよ。」



上手く言葉が見つからないが、努めて優しい声音でそう言って血を抑えていない方の手で頭を撫でると・・・ウォールは静かに涙を流した。


サラサラとした茶髪が指の間に流れる。

彼の形のいい頬を伝って涙が次から次へと落ちた。


ズズっと鼻をすすったので、すかさずティッシュを2枚取って差し出すとぺこりと頭を下げウォールは鼻をかんだ。



「・・・ちょっとは、落ち着けた?」


「・・・はい。ありがとうございます。」


「いいんだよ。今1番辛いのはウォールなんだから。」


私がそう言うと、ウォールは頭をぐりぐりと私の肩に押し付けた。


「ライネお嬢様、かっこよすぎます。」


「ふふふん、惚れるなよ・・・?」


「はは、善処します。」


「おう。善処しとけ。」



軽口を叩けるぐらいには回復したようだった。


・・・ちょっと疑問なのだが、クリフォード侯爵家の長男だったのならどうして今ここにいるのだろうか。

そのまま、少し早いが侯爵家を継げば良かったのに・・・どうして今ファルベルン家で執事なんてやってるのだろうか・・・。



「ねぇ、ウォール。」


「はい。」


「ちょっと質問いいかな?」


「・・・ライネお嬢様なら、なんでもお聞きください。」


「・・・あのさ、こう言っちゃなんだけど・・・両親が亡くなったのなら、その後を継ぐという選択肢はなかったの・・・?

ほら、ここで執事なんてやらなくても・・・。

確かにその時は幼かっただろうけど、前例はなくはなかったはずだよ・・・?」


「そうですね・・・確かにそれは一理あります。

ですけれど・・・当時、それは難しかったんです。」


「・・・何故?」


「私には、少し・・・いや、かなり性格が悪い叔父がいたんです。

両親が亡くなった瞬間、クリフォード侯爵家を継ぐのはこの俺だと言って聞かなくてですね・・・血縁者として最有力者なのは本当でしたから・・・だれも反論出来ず・・・。

私は当時6歳ですから。

・・・小さい子供のことなんて誰も考えてくれなかったんです。

祖父と祖母はもう他界してますしね・・・。

・・・その叔父が最初は引き取ってくれたのですが、金がないとか訳の分からないことを抜かして私は孤児院に入れられたんです。」


「え、何その叔父。くそじゃん。なにそれ。処すしかなくね??????」


「ええ。本当に、本当にクソだったんです。

・・・ですが、そんな私を救ってくださったのがライネお嬢様のお父様であるジーク様なんです。」


「・・・ほぉ・・・お父様やるじゃん・・・。」


「両親と友人だったらしくて。

孤児院に追い込まれた私を救い、両親が私に遺してくれた財産も叔父から取り返してくれたんです。

「君は、今幸せかい?もし、君がよければ僕が君の父親代わりになろう。僕には2人の可愛い娘がいてね。君が友人になってくれると嬉しいよ。」と、言って頭を撫でて下さったんです。

・・・私はこれから先、どんな事があってもきっとあの瞬間を忘れないと誓えます。」


そう言って彼はふわりと微笑んだ。

微笑んだ彼は、美形を見慣れている私でも見惚れるほどの美しさだった。



「・・・なるほどなぁ・・・それがあの、私の誕生日でもあった大雪の日ってことね。」


「はい、そうです。

あの日に私はファルベルン家に一生仕えようと決めましたし、初めてライネお嬢様とローゼお嬢様にお会い出来た日でもあります。」


「ほぉ~。全てが繋がった気がするわ。なるほどね。

・・・ちなみにだけど、今クリフォード侯爵家の領地はそのクソみたいな叔父がおさめてるの?」


「いえ、ジーク様の取り計らいで遠縁の老夫婦がおさめていると聞きました。」


「そうなんだ。じゃあ・・・良かった・・・のかな?」


「はい、良かったです。」


そこまで話すと、ウォールは一息ついた。

そして、私の目よりも薄い茶色の綺麗な目が私を射抜く。


「ライネお嬢様・・・私は、貴女と会えて本当に良かった。

引き取られてから寂しい時もありましたが、貴女が私を巻き込んで騒いで下さったおかげで今まで寂しい思いをすることなく過ごすことができました。

本当に、ありがとうございます。」


そう言い切ると、彼は私に向かって頭を下げた。




・・・え。私、そんなに感謝されるようなことしてないんだけど。




「いやいやいや、そんな感謝されるようなことしてないし。

こっちこそ、いつも面倒みてくれてありがとう。感謝してる。

ウォールと話せてとっても楽しいし、飽きる気がしない。ありがとう。

・・・これからも、仲良くして欲しいな。」


「・・・こんなに、迷惑をかけてしまったのにそう言って下さるとは・・・ライネお嬢様はお優しすぎます・・・。

こちらこそ、改めてよろしくお願いします。」


「うん!よろしく!」


どこからともなく二人とも笑顔になって、握手をした。

・・・やっぱ、ウォールには笑顔が似合いますね!!!


♢♢♢


それから、ウォールと少し話した。

・・・話が途切れて時計を見ると、深夜の3時になっていたのでそろそろお開きすることになった。


「ウォール、さっき言ってたけど・・・雷雨がトラウマなんでしょ?

部屋戻れる?大丈夫?寝れる?」


「ええ、なんだか、大丈夫です。

なんででしょうね。まだ、雷が鳴っているのに・・・あんまり、怖いと感じないんです。

・・・もし、私が怖いと言ったら・・・ライネお嬢様は一緒に寝てくださるのですか?」


「え、うん。いいよ。寝れるよ。

一緒に寝る?」


そう問うと、ウォールは、はぁ~とクソでかいため息をついた。なんでだよ。


「あのですねぇ、ライネお嬢様?

一応私は男なんですよ。

一緒に寝るだなんて安易なこと言っちゃいけません!気持ちは嬉しいですけれど!!

わかりましたか!?!?!?!?」


「はい。さーせんでした。」


「さーせんじゃありません!!!!!

ったく、もう・・・。じゃあ、私は部屋に戻ります。

深夜まで居座ってしまってすみませんでした。ありがとうございます。

おやすみなさいませ。」


綺麗に一礼して、ウォールはそう言った。


なぁんか、堅苦しいんだよなぁ・・・。


「うん。

まぁ、いつでもおいで。

ウォールは私の大切な人だからね!

そんなに堅苦しくしなくていいし、気にしなくていいよ。

・・・おやすみ。」


ニコリ、と笑ってやると、ウォールは少し目を見開いて微笑んだ。





「・・・はい。おやすみなさい。」






なんだか、今夜はよく眠れそうだ。



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