王子の回想 1
僕の名前は「アルフレッド・ファルンツ」
ファルナー王国の第1王子で、
父上譲りの金髪と隣国の姫である美しい母と同じ蒼い目を持っている、列記とした王位第1継承者だ。
僕は小さい頃から「良き王」となるための英才教育を受けてきた。
人に優しくなさい、臣下を慈しみなさい、そんな言葉ばかりの「いい子」になるために。
時には年相応ではないとても難しいことを習ったりしたが・・・
それを受け、モノにすることは第1王子として当たり前のことだと思っていたから不思議と辛くはなかった。
でも、だからなのか。
僕は、「完璧」を求めている。
「完璧」な第1王子でいなくては。
全てそつなくこなせなくては。
弟と妹の手本にならなくては。
そんな思いがずっとあって。
その汚いプライドが僕を構成していた。
いつも「完璧」でいることは確かに疲れるが、それと同時に僕に成長をもたらしてくれた。
ドロドロとした人の欲と願望にまみれた貴族社会の頂点に君臨することは決して楽ではないと、この身をもって体感することができる。
話が逸れるが、
そんな僕には、婚約者がいる。
「ローゼ・ファルベルン」という代々宰相として国王を支え続けている名門 ファルベルン家の御令嬢だ。
彼女は茶色がかったブロンドに茶目を持つ少しキツめの顔立ちをしているが、とても美しいと思う。
・・・あの「親バカ宰相」と呼ばれる、ローゼの父のジーク・ファルベルンはよくこの子を手放したな、と思う。
そんな彼女はいずれの国母として英才教育を受けて、僕のために必死に頑張ってくれていることは知っている。
彼女の頑張りは賞賛に値いすべきだとも思っている。
・・・・・・だが。
彼女には致命的な欠点があった。
それは・・・・・・「僕の顔を見れないこと」だ。
・・・は???何言ってんだこいつ。ノロケか?
とお思いだろうが、笑い事ではない。
彼女は僕の婚約者になって、顔合わせをして僕の顔を見て顔を真っ赤にしながらぶっ倒れた時から僕のことを見れてない。
いや、まぁ、最初は良かったんだよ?
僕も「いじらしい子だな」と思っていたし、政略結婚ではあるけど、大切にしようとした。
だけど、何年経っても彼女は僕と目すら合わせようとしない。
慣れてもらおうと、頑張って近寄るも・・・「やめて!」と顔を真っ赤にして差し出した手を叩き落とされ逃げられる始末。
・・・僕は別にローゼのことをそれほど好きでもなんでもないし特別な感情なんてない。
むしろ、単なる「婚約者」という・・・それだけの関係だ。
だから、理不尽な扱いを受けると傷つくことだってある。
仲良くなろうと近寄っても・・・さんざん逃げられる。
・・・ほんとーに、全くもって面白くない。
他の人から見たら微笑ましいだろうが、足蹴にされ逃げられる身にもなってくれ。
ローゼは涙目になって逃げるが、僕の方が泣きたい。
というか何故そんなに涙目になるのかが分からない。
男女の適切な距離だって取ってるし、決して小っ恥ずかしい歯の浮くようなセリフなんて言ってないのに。どうして涙目になってるんだ。訳が分からない。
理由を聞こうにも話しかける前に逃げてしまう。
そんなに僕が嫌いなのだろうか。
・・・・・・いや、もう沢山だ。
これ以上これが続くようなら婚約者から外して違う婚約者を据えた方がお互いにいいのではないだろうか。
そう思い始めていた時、
弟であるオーガが、「兄上の婚約者が兄上に相応しいか見てみたいです」と言ってきた。
僕は、「良いきっかけ」だと思った。
会った時、まだ僕のことを嫌っているようだったらもう僕の婚約者をやめさせようと思った。
♢♢♢
久しぶりに会ったファルベルン姉妹は少しだけ利発的になっていた。特に妹の方が。
女性は精神的な成長が早いと言うが、これがそうなのだろうか。
ローゼの方は相変わらず僕の方を見ようとしない。
出会い頭に固まっていたくらいだ。
・・・やっぱり、彼女には荷が重すぎるのだろうか。僕のことが気に食わないのだろうか。
・・・なぜだか、それが少し残念だった。
続きます