ウォールとの出会い
そして本日ライネ5歳の誕生日でございます。
なんとかしなければと言っていたのに対策が全くできなかった。
教師の先生の件はすでにお父さんに了承してもらってます。
あー、本当にどうしよう。
今日は起きてからすぐお姉様に
「お誕生日おめでとう、ライネ。あなたのこれからの人生に幸あらんことを。」
と言われたのでテンションが上がりまくってます。
私の誕生日はお母さんの命日でもあるのでお姉様の誕生日のように屋敷は派手な飾り付けはしていない。
・・・いや、別に寂しいとかはないよ?
だってお姉様が昨日私の部屋に来て「お母様の命日でもあるから屋敷を派手に飾り付けすることは出来ないけどあなたの部屋なら問題ないでしょう!」と笑って私の部屋をめちゃくちゃ豪勢に飾り付けして下さったので、もうそれで満足しております。
あの時のお姉様のお茶目なお顔といったら・・・もうまじ天使。大好きすぎて心臓破裂する。
お父さんは朝に「誕生日おめでとう、ライネ。先日の教師の件だが、目処はたっている。教える先生は追って紹介する。」といって仕事しに王宮へ行った。
ちなみに、お父さんはこの国の宰相だ。
仕事帰りにウォールのいる孤児院に寄って帰ってくるんだろうけど・・・今日酷い雪だからなぁ・・・多分雪のせいで帰って来るのが遅れるだろうなと思う。
今の時間帯は夕方だ。
朝から降り続いている雪は積もりに積もってかなりの高さになっている。
降雪量はしんしんと増えるばかりで減ることはなさそうだ。まぁ、手続きもそうだろうけど、帰りが遅れることの一因として雪のせいもあるだろうなと思う。
これは帰るの遅くなるわ・・・。
当たり前のようにお父さんはパーティに間に合わなかった。
こじんまりとした私の誕生日パーティでは、使用人の人とお姉様がお父様の分まで盛大に祝ってくれた。
今回、お母さんのことで私に対し距離を置いていた侍女さんとも少しお話できて、仲が深まったような気がする。
誕生日パーティが終わって、もうすぐ21時になる、というくらいの時間にお父さんはウォールと共に帰ってきた。
お父さんもウォールも馬車で帰ってきたはずなのに頭や肩に雪が積もっていた。
お父さんは帰ってきて一息つくと同時に、
お姉様と私を呼んでウォールを紹介した。
「両親が亡くなってしまって孤児院にいたところを引き取った。この子の両親は私の親戚でね・・・仲もよかったんだ。本当はこの子を養子として引き取ろうと思ったんだが、この子自身が執事としてファルベルン家に貢献したいと言うものでね。大きくなったら執事として働いてもらうことになる。まだ幼いから執事として修行し始めるのはまだ先になると思うが・・・是非とも仲良くしてやって欲しい。」
そう言い切るとお父様は1歩下がっていたウォールを前に出して「自己紹介しなさい」と言った。
「ウォールです。迷惑をかけてしまうとおもいますが、よろしくお願いします。」
と言い、ウォールはぺこりと頭を下げた。
お父さんはそれを見て満足げに頷いた。
・・・多分ここでライネはウォールに対して憎しみを抱いたんだろうけど、私は事情を知っているのでなんとも思わない。
お父さんに引き取られたウォールは茶髪に茶目で
瞳の色が私によく似ている。
私はどちらかというと焦げ茶だけれど、ウォールは綺麗な茶色だ。
さすが乙女ゲームの攻略対象というだけあって5歳なのにイケメンみが溢れている。
「わたくし、ローゼ・ファルベルンと申します。よろしくお願いしますわ、ウォール。」
そんなこと考えているうちに、お姉様がにこやかに笑ってウォールと握手した。
それに続いて・・・
「私はライネ・ファルベルン。よろしく、ウォール。」
私はウォールと握手した。
お父さんはうむ、と私たちのやり取りに満足したように頷く。
「それでは、今日はこれで終わりだ。おやすみ」
「・・・お待ちになって、お父様。」
そう言って解散しようとしたお父さんに、お姉様が声をかける。
お父さんは「?」というように立ち止まって首を傾げた。
お姉様は、そんなお父さんに向かってにっこり笑った。
「お父様、ライネになにか言うことはないかしら?」
「・・・?・・・・・・!!あぁ、ライネ。誕生日パーティに出れなくてすまなかった。」
とお父さんはほんの少しだけ眉を下げた。
「大丈夫ですよ、お父様。ウォールのことで色々あったと思いますし、それにこの雪です。来ていただけなかったのは本当に、残念ですが・・・今回はしょうがなかったのではないでしょうか。」
と淡々と告げるとお父さんは、そうだよな、というようにまた頷いた。
・・・お父さん、なんか娘の誕生日パーティに全く来れなかったっていうのに全然申し訳なさそうじゃないな・・・・・・まぁ、いいけどさ・・・。
はぁ、とバレないようにため息をつく。
しかし、それをお姉様は見逃さなかったらしい。
「・・・お父様・・・・・何故、お父様はそんなに鷹揚に頷いているのですか?信じられません。
どんな理由があったにせよ、お父様は実の娘の、いえ、ライネの誕生日パーティに来なかった事実は変わらないのですよ?
パーティの中、ライネがどんな気持ちでお父様をお待ちしていたと思っているのですか・・・!!ライネの気持ちが全く分からないのですか!?
・・・これは、大人としてどうかと思います。お父様はライネの気持ちを1ミリたりともわかっておりません!!最低ですわ!!お母様のこともありますので、ライネへの対応を見過ごすことも多々ありましたが・・・今回はもう我慢なりません!!あまりにも酷すぎますわ!!
・・・お父様!!私のお部屋にいらっしゃい!!その腐った思考を叩きのめして差し上げます!!拒否権はありません!」
そう言ってお姉様はめちゃくちゃキレた。
だんだんヒートアップして最後は怒鳴ったお姉様はとってもかっこよかったです。
お姉様の部屋に連行されたお父様は、翌朝、1番に私の部屋に来て
「すまない、ライネ。私が間違っていた。お前がそんなに苦しんでいたとは思っていなかった。本当にすまない。謝っても謝りきれないよ。
ミランのこともお前のせいではないと頭ではわかっていたはずなのに、実際にお前を見るとあの日のことが頭に浮かんで苦しくなってしまっていた。お前は何も悪くないというのに寂しい思いをさせてしまっていた。
・・・これまで私の事で泣かせてしまって本当にすまないと思っている。
ローゼの言葉で目が覚めた。これからはちゃんと父親としてライネを支えていきたい。どうか、もう一度私に父親となるチャンスをくれないか・・・?」
懇願するように膝をつかれて手を取られた。
いや、私お父さんのことで泣いたこと1度もないから・・・お姉様絶対話盛ったでしょ・・・。
「お父様、大丈夫ですよ。これまで少し寂しかったのは本当ですけれど、ローゼお姉様がその寂しさを埋めてくださいました。ですので、私は本当に大丈夫なのです。
許します、お父様。
お父様はたった1人の私のお父様です。
チャンスもなにも、貴方は私のお父様ですよ。」
と告げるとお父さんは号泣して「ありがとう」を繰り返しながら抱きついてきた。
めんどくさ・・・と思いながらもお父さんの背中を撫でると咽び泣きながらもっと力を込めて抱きついてきた。うぜぇなぁ、このお父さん・・・。
朝食では、お姉様が朝のお父さんのことを聞いてきて、そっくりそのまま話したらとても満足げに笑って「よかったわね」と、私の頭を撫でた。
「お姉様、ありがとうございました。」と返すと「いいえ、私は何もしてないわ。」と綺麗に微笑まれた。
・・・うん、めっちゃしてたけどな!!!!
あの時のお姉様は般若の顔をしてた・・・。
お姉様を怒らせないよう気をつけようっと・・・。