第八話:友達
キーンコーンカーンコーン…
やっと、地獄が終わった…。
私はトイレから出た。
あの後私は、ずっとトイレの中にいた。
教室に戻るのが恐かったんだ…。
葵「…大丈夫?」
え……?
柴咲…葵…さん……?
葵「福山…。椎名達に、ハブにされてるん…だろ…?」
樹里「……。」
葵「つらいんだろ…。」
樹里「…うん……。」
葵「つらいなら、誰かに相談しな…。」
樹里「相談なんか、出来ない…。誰も、沙紀が私をいじめるなんて、信じない…。」
そうだよ…。誰も、信じないよ…。
葵「それなら、あたしに相談しな。」
え……?柴咲さん…。
葵「いつでも…呼んでくれたら…行くから…。」
柴咲さんは、私に一枚の紙を渡して、教室から出て行った。
紙には、柴咲さんのメールアドレスと携帯番号が書かれていた。
樹里「柴咲さん…。」
私は、初めて話を聞いてくれる人が出来たことが嬉しくてたまらなかった。
ポロ…
ふいに涙がこぼれる…。
樹里「どうしてなんだろ…?どうして私がいじめられなくちゃいけないんだろ…?」
沙紀なら、いい友達になれるって…思ってたのに…。
そう思いながら、私はずっと泣いていた。
* * *
樹里「ただいまー…。」
……留守なのかな…?まぁ、いつも返事なんてないけど…。
由梨絵「あら、帰ってたの?」
樹里「うん。今帰って来たとこ…。」
由梨絵「そう。今日は随分と帰りが遅かったじゃない?」
樹里「……。いろいろあって…。」
由梨絵「あ、ちょっと!待ちなさい…!」
バタンッ
私は、わざと音を立ててドアを閉めた。
何も分かってない…。分かろうとも、してない…。
そんな親、いらない。
あの人は、私の本当のお母さんじゃない。
前のお母さんが交通事故で死んで、お父さんが再婚したんだ。
でも、お母さん……由梨絵さんは、子連れだった。
だから、由梨絵さんは由紀子ちゃんだけを可愛がって、私のことなんか構ってもくれない。
樹里「私の居場所なんて…。」
ひらり…
一枚の紙が落ちた。
これ…柴咲さんの…。
樹里「メール…してみようかな…。」
『柴咲さん…今から会える?』
ピリリリリリリリリ…
柴咲さんからだ…。
『いいよ、福山。ザビエル像の前に、5時でいい?』
…柴咲さん…。
『…ありがと。 分かった。ザビエル像の前に5時ね。』