第五話:標的
4月24日
私は教室のドアを開けた。
「おはよう!」
……。
え…無視…?
ピリリリリリリリ…
携帯が鳴った。沙紀からメールだ。
『おはよ、樹里。
会って話したいことがある。
理科準備室に来て。』
…どうしたんだろ…?
いきなり会って話したいだなんて…。
ガラッ…
「沙紀ー…?」
「…樹里?」
「あ…沙紀、どしたの?いきなり会って話したいだなんて…。」
「……。」
「沙紀…?」
「樹里、親友を自殺まで追い詰めたんだってね…。」
自殺…?なんのこと…?李子は自殺なんて…。
「昨日森田李子と一緒にいた男が言ってた。」
「そ、そんなの嘘に決まってるじゃない!あの男は、嘘をついたのよ!」
「ウソつきにウソつき呼ばわりされたくないでしょうね…。」
どうしたら信じてもらえるの…?
「どうせ、沙紀と仲良くなったのも、沙紀が金持ちだから とか、そういう理由なんでしょ?」
「そんなっ…。」
沙紀は、スカートのポケットからカッターナイフを取り出した。
「友達を自殺に追い込むような卑怯者は、この世に生きてる意味なんてないのよ…。」
「沙紀っ…やめて…!」
「そんな奴、いなくなっても誰も悲しまないわ…。いっそのこと、樹里もここで自殺しちゃえば?」
沙紀は私の頬にカッターを押し当てた。
「それとも、沙紀が殺してあげた方がいい?」
ゾクッ…
「いやっ…!死にたくないよ…!」
「…そうよ…。仁香だって、死にたくなかった…。」
仁香…?仁香って…関根仁香…?
「樹里も知ってるわよね?仁香のこと…。宮田中だって言ってたものね…。」
「う、うん…。」
そりゃあ、知ってるよ…。だって、仁香は…。
「樹里…仁香は…あんたにいじめられて自殺したのよ…。」
え…?
「仁香は…私にだけ言ってくれたの…。福山樹里にいじめられてるって…。」
…なんで…?
「…あんたも、同じ思いをすれば分かるわ…。」
「……どういう意味…?」
「あんたも、自分がいじめられれば仁香の気持ちが分かるはずよ…。」
「ちょっと待ってよ…!私は、仁香のことをいじめてなんかいない…!」
「嘘ついたって無駄よ…。」
「嘘なんかじゃない!」
「いじめられていたのは、私なの…!」
「え…?」
「私は、仁香にいじめられてて…。それを…助けてくれたのが李子なの…。」
「そんな嘘…。」
なんで信じてくれないの…?
「あんたは標的よ…。もう沙紀の親友なんかじゃないわ…。」