第十一話:光
葵「福山…。」
樹里「あっ。柴咲さん…。あのさ…。」
葵「ダメじゃん…。家出なんて…。お母さん、心配するじゃん…。」
樹里「…言ったじゃん……。由梨絵さんは、私のことなんて何とも思ってないって…。私がいなくなったって、どうせひとつ手間が減ったぐらいのことにしか思わない…。」
葵「……福山って、なんか見ててかわいそうになってくる…。…まぁ、しばらくうちにいればいい。そのかわり、家に帰る決心がついたら、ちゃんと帰りな。」
樹里「うん…。分かってる……。」
* * *
葵「ただいまー。」
玲子「おかえり〜。…あら!あなたが福山樹里ちゃんね!うちの葵がお世話になってます〜!さ、どうぞ!中入って!」
樹里「あっ、はい。お邪魔します。」
葵「もう、お母さん!福山はこういう環境に慣れてないんだから、もうちょっと静かにしゃべってよ!」
玲子「あ、ごめんなさい〜。散らかってる家だけど、ごめんなさいね。」
樹里「いえ、いいんです。こういう雰囲気の家のほうが、落ち着きますから。」
玲子「そう?なら良かったわ。ゆっくりしてってね。」
樹里「はい。」
葵「福山。あおいの部屋、こっち。ついてきて。」
樹里「あっ、うん。」
なんか…温かい感じだな…。
私の家には無い、温かさ…。
優しくて、私を福山樹里として見てくれる、いいお母さん…。
柴咲さんは、こんな優しくて温かい家庭で育ったんだ…。
なんか…うらやましいな…。
葵「福山?どうかした?」
樹里「あ、ううん。何でもない。」
葵「そう。まあ、いいけど。ここが、あおいの部屋。散らかってるけど、適当に座って。」
樹里「……。」
葵「…何?」
樹里「いや…。柴咲さん、いい家庭で育ったんだね。玲子さん、すっごいいい人だもん。」
葵「…。いいお母さんがいることが、幸せじゃないんじゃないかな…。」
樹里「え…?」
葵「あおい、お父さんいないから…。」
樹里「え……。」
葵「あおいが3歳の頃に、事故で死んだ。」
柴咲さん…。
そうだったんだ…。
葵「…さ、福山!あんたの部屋は明日のうちに用意しておくから、今日はここで一緒に寝よ。」
樹里「…うん!」
葵「ねーぇ♪福山ってさ、好きな人いる?」
樹里「えっ……!?」
葵「ふ〜ん♪いるんだ♪」
樹里「いっ…いないしっ。っていうか、そういう柴咲さんは?」
葵「あおいは…いないよ。」
樹里「へぇ〜♪」
葵「…何か文句ある?」
樹里「べっつに〜♪」
葵「……。ねぇ福山…。」
樹里「ん?」
葵「明日、一緒に学校行こうね。」
樹里「…もちろんだよっ!」
明日から、楽しい学校生活になるかもしれない…。
そう思っていた。
でも、この先に、どんなに恐ろしい沙紀の復讐が待っていたかなんて、この時の私には知る由もなかった。