第十話:家出
樹里「ただいまー…」
………。
やっぱり、返事はない…。
由梨絵「ほら、由紀子。由紀子の大好きなアップルパイよ。いっぱい食べなさい。」
由紀子「わーい!ありがとう、ママ!」
樹里「由梨絵さん…。」
由梨絵「あら、樹里。一体どこに行っていたの?いきなり出て行っちゃったから、家出かと思ったわ。」
樹里「………。」
由梨絵「何とか言ったらどうなの?」
………。やっぱり、由梨絵さんは私の本当のお母さんになんかなれない…。
樹里「…アップルパイ………。」
由梨絵「は!?」
樹里「由梨絵さんは…この家に来てから、一度でも私にアップルパイを作ってくれたことがありましたか…?」
由梨絵「は?そんなこと…。」
樹里「そうですよね。あるわけないですよね。私の話を聞いてくれたこともない人なんですから。」
由梨絵「…何が言いたいって言うの?アップルパイが食べたいの?」
由紀子「樹里さん。あたし、アップルパイ分けてなんかあげないから!」
樹里「違う。私が欲しいのは…望んでるのは…そんなことじゃない…!」
由梨絵「じゃあ、何だって言うの?」
樹里「私の話をちゃんと聞いてくれる家族よ…。差別しないで…私を…福山樹里として…ちゃんと見てくれる家族よ…。」
由梨絵「何よ。単に優しくしてほしいってわけなのね。そんな回りくどい言い方しないで、そうと言ってくれれば…」
樹里「どうして…?どうして…分かろうともしてくれないの…?」
由梨絵「は?何なの?意味が分からないわ。」
私は悲しくなって、そのまま家を飛び出した。
由梨絵「ちょっと…何よ!?何なの!?今すぐ戻って来なさいっ…!」
どうしよう…。
家飛び出したって、行くところなんかないのに…。
…そうだ。柴咲さん…。
私は、柴咲さんに電話した。
葵「もしもし…。」
樹里「柴咲さん…?ごめん…。こんな時間に…。」
葵「福山?どうかした?何かあった?」
樹里「家…飛び出して来ちゃった…。」
葵「…福山…。それなら、うちに来な。待ってて。すぐ行くから。今どこ?」
樹里「港北商店街の前…。」
葵「分かった。絶対、待ってろよ。」
樹里「…うん。」
柴咲さんは…由梨絵さんよりも、いや、誰よりも優しくて、親切…。
もう、家になんか帰りたくない…。