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マーズ皇国  作者: 中島 遼
3/8

隻眼の石像のある神殿1(ナイト)

 神殿に入った途端、しばらく目が慣れるまで三人は立ち止まって様子をうかがった。

中はそれほどまでに暗い。

「あれだね」

やがて目が慣れた頃、ソーラが部屋の遙か向こう側、真っ正面にある大扉を指さした。

「多分」

エルデも頷く。

神殿を通り抜けることが今回のテーマだとすると、当然あそこにたどり着くことが勝利の条件だ。

しかし、部屋の中は荒れ果て、地震か何かで倒れたと思われる装飾用の太い柱が数本折り重なるように倒れており、一階をそのまま突っ切るわけにはいかなかった。

「階段があるよ」

ソーラの指さした右手の階段を見て、エルデとナイトは頷く。

「どうやら二階を通って向こう側に下りなければならないようだな」

三人は進んだ。

と、突然戦闘モードに入る。

「腐った死体だ!」

エルデが声を上げたときには、ナイトは自分の目の前の鎧姿の亡霊に向かって剣を抜きはなっていた。

ここからはなるべくMPは温存しようと打合せをしていたため、LP、すなわちライフポイントの高い「腐った死体」や、防御力の高い鎧姿の亡霊などは倒すのにやたら時間がかかる。

(……腐った死体の「生命」値が大きいというのも妙な気はするが……)

思いながら、ナイトは白い鎧に斬りつけた。

硬い。

ソーラのレイビアではダメージは与えられないほどかもしれない。

「ちょっと、なにこれっ!」

と、隣でソーラの悲鳴が聞こえた。

どうやら腐った死体が口から何やら汚いものを吐き出して、それがソーラの足下に落ちたらしい。

「このっ!」

テンションの上がったソーラが華麗なほどのレイビアさばきで腐った死体を崩壊させた。

ナイトもまた、エルデと共同で鎧姿の亡霊をようやく倒す。

「……ソーラ」

エルデが目を見開いてソーラを見た。

「今の技は?」

「半月切りだけど?」

エルデは更に目を見開き、そしてありえない、と二度つぶやいた。

「初めて聞く技名だ。だが、折角の技なのに野菜の切り方みたいで残念な気がする……あと、腐った死体相手にテンションが上がるというのも珍しいことだ。これは俺の常識からは逸脱して……」

ソーラが可愛く小首をかしげる。

「……それで?」

「いやつまり、ひょっとして……」

ナイトはエルデを睨む。

こんな物騒なところで何を雑談しているのだ?

「余計なことを話す暇があるのなら行くぞ」

仲間を見渡し、階段を一段上ったナイトだったが、

「!」

こんどは、顔のついた大きな袋が大挙して押し寄せてきた。

「なんだこいつらはっ!」

袋たちは、へらへらしている。

その隙にエルデが槍を繰った。ナイトも二連斬で敵を断つ。

ソーラはと見ると、複数の袋とにらめっこをしていた。

「こらっ! 邪魔だ!」

怒号に驚いたソーラが後に下がると、ソーラの周りでぼおっとしていた袋たちが我に返ったようにナイトに攻撃を仕掛ける。

「ナイト、あいつらはソーラに見とれていたんだ。そういうのはそのままにしておいて、一気に倒すのがセオリーだぞ」

実戦経験が少ないくせに、やたらエルデはセオリーを説きたがる。

「『見とれる』、というのは色香に迷わせる技だ。ソーラは単ににらめっこをしていたにすぎない」

「いずれにせよ、お前がやったことは無駄を増やすことだ」

「このレベルのモンスターで、もう泣き言か?」

言いながらナイトは袋を三つ倒した。

残ったあと二つを、エルデとソーラがそれぞれ武器で突く。

「……ふう」

何かしら、いらいらする。

「敵、すごく多いね」

「ああ」

小さく頷き、ナイトは階段を上がる。

上りきるとそこは廊下になっており、廊下の左右に全部で5つほどの扉があった。

「この中のどこかに降りる階段があるのか」

仕方なしに三人は手前から順番に扉を開けて中を確かめた。

そして、そのたびに敵の来襲を受ける。

「……一度にこれほどのモンスターデータが取れるとは」

エルデの言葉も、力がこもらないが故に虚勢に聞こえる。

「あ、ツボだ」

それに引き替え、ソーラからは疲労は感じられない。

ツボや樽を見つけてはとりあえず割ってみて、中に何もないかを確認している。

そして割と頻繁に30Gばかりの小金や、薬草などを見つけてきた。

「せーの」

ところがソーラがくだんのツボを割ろうとしたとたん、ツボから大きな舌がでた。

「わっ!」

ソーラを食おうとしたのか、ツボは下に落とされながらもバランスを取りつつソーラの方に寄っていく。

「モンスターのカモフラージュかっ!」

ナイトは剣を、エルデは槍を構えてツボに対峙する。

「!」

と、ツボは突然呪文を唱えた。

それはソーラがいつだったか唱えたことのある睡魔の呪文だ。

「あ……」

ソーラとナイトには効かなかったが、エルデは昏倒した。

そして、それを狙ってかツボがエルデに体当たりする。

それでもエルデは眠りこけたままだ。

「しまった」

宝箱やツボに化けているモンスターは強い。

三人がかりでも、相当攻撃しないとなかなか倒すことはできない。

「くそっ!」

ナイトが斬りつけると、ツボから強烈な冷気が沸いた。

「!」

氷の刃がソーラに向かって飛んでいく。

冷気の呪文だ。

「姫っ、危ない!」

レイビアを構えていたソーラに、その氷の刃が突き刺さる……と、ナイトが思った途端、

「!!」

何故かソーラの前に透明なバリアでもあるように氷がそのまま砕け散った。

驚きつつも、ナイトは機を外さずにツボに多段攻撃をかける。

ソーラもまた、レイビアで相手のツボを突きまくった。

(……身の軽い奴だ)

ナイトはその跳躍力に少し感心する。

深窓の姫君とは思えないほどソーラは身軽であり、攻撃をかわしつつ驚くほどの距離を跳ねた。

「あ!」

ツボがエルデに再び体当たりをする。

すると、その衝撃でエルデは目を覚ました。

「……俺は寝ていたのか?」

エルデが眼鏡を外して目を腕でこすったとき、ナイトの一撃でようやくツボは砕け散った。

「……最初から最後までね」

笑うソーラに、ナイトはふと眉をひそめた。

「さっき、お前の前で冷気の呪文が無効化されたような気がしたが」

「そうだっけ?」

ソーラは首をかしげた。

「僕はてっきり……」

しかし、言いかけたソーラは壊れたツボの側に何か見つけたらしく、話をやめて突然走った。

そして、きらきら光る小さなメダルを拾い上げる。

「なーんだ」

ソーラはメダルを見て、がっかりしたように地面に置いた。

「お金じゃなかった」

気持ちはわかる。

小銭だと思って近寄って、どこかのパチンコ屋のスロットのメダルだったりしたとき、がっかりするアレだ。

だが、だからと言って、やって良いことと悪いことはある。ナイトはソーラの捨てたそれを拾い上げた。

「姫、こんなところにゴミを捨ててはなりません」

「元々ここにあったんだよ?」

「それでも一度拾ったのなら最後まで責任を持って、ゴミ箱まで運んでください」

「……はーい」

「もっと歯切れ良く!」

「はい!」

少しふくれっ面をしたまま、ソーラは向かいのドアを開けた。

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