エピソードⅠ
『宇宙大戦 エピソードⅠ
〜宇宙・哀戦士たち〜』
製作 TOM's film
「あはは」
冬が終わり、生命の息吹に満ちる初春の午後、彼方の笑い声が山間の丘に響き渡った
「兄さん!笑い事じゃないよ!」
宇宙は至って真面目に言った
「そりゃ、俺はまだ高校生だから、仕方ないことはわかってるよ!けど、父さんから渡されたのが『ライトセイバー・ミニ』だよ!「お前はこれで十分だ」だってさ!こんなのカッターナイフだよ…父さんはひどいよ」
宇宙はライトセイバー・ミニを投げ捨てた
ライトセイバー・ミニは「カシャン」と軽い音を立てて地面に転がった
「お前だって、高校を卒業して、宇宙警察に入ればこの光線銃を持たせてくれるよ」
彼方は銀色に光る光線銃をホルダーから自慢げに取り出し、構えた
「見てろよ」
そう言うと、50mほどむこうにある大木に狙いを定め、引き金を引いた
バキバキと割れる音と同時に大爆音が辺りに響き渡り、大木はこっぱ微塵に砕け散った。根元には深さ2メートルほどの穴が空いた
「すげえ〜!」
「だろ?最新型の光線銃だぜ」
彼方は得意げに言った
「あ〜ぁ、早く兄さんや父さんのように宇宙警察官になりたい。そしてあいつらを駆逐し、地球を平和にしたいんだ」
銀河宇宙は18歳
銀河警察高校の3年生
兄の彼方は2歳上で宇宙警察官
父、一徹。宇宙警察官である。役職は宇宙警察署刑事課強行犯係警視であり、また宇宙警察第一大隊の隊長でもある
宇宙の通う「銀河警察学校」は宇宙警察署署長でもある祖父・銀河英雄が作った学校である
祖父の活躍は今や伝説となるほどであり、宇宙も祖父のようになりたいと憧れている
地球は度重なる「列島崩壊獣」による侵略に悩まされていた
列島崩壊獣たちはほぼ定期的に地球に現れ、町や工場を破壊。口からはガスを撒き散らし、体液を垂れ流す。建物はことごとく破壊され、去ったあとは瓦礫の山だけが残った
その列島崩壊獣のボスであった通称「マッド」を倒したのが祖父である
マッドがいなくなった後、列島崩壊獣たちの出現は減り、一時は平和になったと思われた。まれに「はぐれ崩壊獣」が現れることがあるが、宇宙警察により、すぐさま撃退され、平和は維持されている。しかし、いつ奴らが大挙してやってくるかわからない。いつでも戦えるよう、備えは万全である。その主力部隊である第一大隊の隊長が父の一徹である。マッドを撃ち倒した祖父の光線銃は全身が赤色で、取手部分には金が施されている。その銃は「GK」とゆう名で呼ばれ、勇気の証として第一大隊隊長に代々受け継がれている。今は一徹がそのGKを所持している。
「大体さ、父さんは俺に厳し過ぎるんだよ!昔からあれはダメこれはダメと…俺、もう18だよ?立派に戦えるさ」
宇宙はそこに生えていた樹木の枝を折り、ライトセイバーのように振り回した。
「父さんは俺のことが嫌いなんだ。宇宙警察官なりたいと言った時にも猛反対されたしね」
「それはないな。父さんはお前が心配なだけだよ。来月の試験に受かればお前だって立派な宇宙警察官になれるさ。まぁ受かればだけど」
「受かるさ!受かるに決まってる」
宇宙は華麗な剣さばきを見せた
「あはは。どうかな?試験には剣技もあるんだぜ?」
彼方は地面に落ちている木の棒を拾い上げると、八相に構えた
「いざ、勝負!」
二人の棒が激しくぶつかる。宇宙は剣技にはそこそこ自信があった。しかし、彼方も相当な剣の使い手である。過去の対戦では圧倒的に彼方が勝っていた。
二人は互いに譲らず、勝負は一進一退。互いの棒が何度もぶつかり激しい音が響く
「今回は俺が勝つ!」
宇宙の気迫に押され、彼方の攻撃が一瞬緩んだ。
「もらった!」
一瞬の隙を逃さなかった宇宙の鋭い突きが彼方の喉元を狙った。
その瞬間、彼方の姿が一瞬消え、宇宙の棒は空を突いた
「しまった!」
と同時に彼方の体が宇宙の脇をすり抜け、棒が胴を打ち抜いた
宇宙はバタッと倒れた
「くそっ!勝ったと思ったのになぁ」
宇宙は棒をへし折り、天を仰いだ
「お前は『勝った』と思った一瞬に隙が出来る。本当に倒すまでは油断しないことだな。だけどな…」
そう言って彼方は棒を地面に置くと、右手を差し出した。親指の付け根が腫れ上がっている。
「お前の一撃が入っていた。これがライトセイバーなら俺の親指は無くなってたな」
「なんだよ!偉そうに!俺が勝ってたんじゃないか!」
「お前には才能がある。がんばれ」
二人は声を出して笑った
その時である
けたたましい爆音と共に森が動いた
いやっ、森ではない
突如、列島崩壊獣が現れた
宇宙たちとの距離、わずか70m
「!!いつの間に!?」
宇宙と彼方はまだ体制すら保てない
列島崩壊獣は宇宙たちを見つけ、雷鳴とでも地鳴りとでもいうような甲高い声で咆哮し、地響きをあげて突進してきた
「やばい!宇宙!逃げるぞ!」
一足早く、彼方が動いた
宇宙は足がすくんで動けない
宇宙が初めて見る列島崩壊獣であった
体長25m、全身を緑色の鱗のようなものに覆われている。恐竜にも似たキバを持ち、頭には2本のツノらしきものがある。手足は長く、背中から太い尻尾にかけてピンク色のヒレのようなものが付いている。動きは異様なほど早く、あっとゆう間に追いつかれそうだ。
「宇宙!しっかりしろ!」
彼方の呼びかけにようやく宇宙は我に返った。とにかく今は戦える状態ではない。どこか体制を立て直せる場所へ移動しなければならない
「こっちだ!」
彼方の呼ぶ方にひたすら走った
列島崩壊獣は不快な金切声をあげながら尚もスピードを上げて追ってくる。
宇宙はひたすら走った。が、追いつかれた。
「兄さん!光線銃!」
彼方も焦っていたが、警察官としての自覚が一瞬冷静を取り戻した
クルッと体を翻し、列島崩壊獣と向き合うとホルダーから光線銃を取り出した
「っ!!」
取り出した光線銃は彼方の手から滑り落ちた。先ほどの負傷により、右手がしびれていた。
「宇宙!」
緑の巨体が宇宙を踏み潰そうと足を上げた
「…もぉダメだ…」
宇宙が死を覚悟した瞬間だった
誰かが宇宙の背中を突き飛ばした
5mほと吹っ飛んだ宇宙は振り返った
「父さん!?」
父、一徹だった
「宇宙、逃げろ!」
一徹は叫んだ
『グシャッ!』
同時に列島崩壊獣の足が一徹を踏み潰した
「…父さん…?」
よく状況が読み込めない
すると誰かが宇宙の腕を引っ張る
「宇宙君、逃げるぞ!」
腕を引かれるがまま、宇宙はその場から逃げた
列島崩壊獣は尚も叫び続け、宇宙達を追いかけてくる
「ちっ!まだくるか!」
そう言うと男は煙幕弾を放った
あたり一面に煙幕が立ち込める
「こっちだ」
男に連れられるまま、宇宙達は必死で逃げた
列島崩壊獣の鳴き声が遠ざかっていく
どうやら逃げ切れたようだ
宇宙達はペタンと座り込んだ
「大丈夫か?」
男は尋ねた
「…彼方君と宇宙君だね?私は宇宙警察第一大隊参謀タジマだ。お父さんとは同期でね。君たちが小さかった頃に会ったことがあるが…覚えてないだろな」
「…父さんは?」
彼方が尋ねた
タジマは悔しそうに下を向いた
「…住民からの列島崩壊獣目撃の情報があってね。現場に一番近い所にいた私と銀河が確認に向かったんだ。山に逃げたとゆう列島崩壊獣を追ってここまできたんだが…そこに君たちがいたんだ」
「父さんを助けないと!」
宇宙はヨロヨロと立ち上がった
「待て!今はまだ動くな!まもなく援軍が来る。それまで待つんだ」
「だけど、父さんが!」
そう言った宇宙が…あの状況を一番近くで目の当たりにした宇宙が…父が死んだであろう事を一番理解していた
…父が死んだ
2日後、一徹の葬儀が行われた
宇宙は黙り込んでいた。涙はなかった
列島崩壊獣を前に、何も出来なかった。ただ逃げるしか出来なかった。己の無力さを恨み、また己の命にかえてまで自分を守ってくれた父に対し、何も言えなかった。いつも宇宙に対しては厳しい態度であった父、父との最後の会話が喧嘩別れであった事…父が嫌いではない。ただ認めてもらいたかった。人として、男として、息子として…立派に成長出来る事を分かって欲しかった。結局、父の期待に応えることは出来なかった
あのあと、宇宙警察隊が駆けつけたが、列島崩壊獣の姿は既になかった
「君の話はお父さんからたくさん聞かされたよ」
気がつくとタジマが宇宙の側まできていた
「お父さんね、宇宙君が『宇宙警察官になりたい』と言った時、もの凄く喜んでたんだ。『あいつには宇宙警察としての素質がある。ただ、俺によく似て無鉄砲なところがあるのだが…さすが、俺の息子だ。いつか一緒に仕事をしたい』と言ってたよ」
『!?』
宇宙は耳を疑った
あの父が?警察官になりたいと言ったら猛反対したあの父が?
さらにタジマは続ける
「お父さんにとって君は自慢の息子だったと思う。君が警察官になる日を楽しみしていたよ」
こらえていた涙が堰を切ったように流れ出た
「兄さん、俺、どうしたらいい?」
葬儀後、宇宙は彼方に尋ねた
「父さんは俺のせいで死んだ…列島崩壊獣を前にして何も出来なかった…考えが甘かったよ…俺が地球を救うなんて…できない…父さんの期待にも応えれそうにない…」
彼方はスッと手を伸ばした
手には光線銃が握られている
「これは?…父さんのGK?どうしてここに?」
赤い光線銃、GKだった
「あの日…父さんが死んだ日の前日だよ」
彼方は話し始めた
「父さんは俺を書斎に呼んだんだ」
…
「彼方、宇宙をどう思う?」
一徹はいきなりそう尋ねた
「あいつは素質があります。まだまだだけど、ちゃんとした訓練を受ければ…」
それを聞いた一徹は引き出しからGKを取り出すと、彼方の前に置いた
「GK…これは?」
「来月にはあいつも警察官になる。その時にこれを渡してやってくれないか。お前には『知将』としての、あいつには『武将』としての才がある。二人が力を合わせれば素晴らしいチームになる」
彼方はなにか異変を感じた
「確かにあいつは将としての器であるように感じます。しかし、それは父さんから渡すべきでは?」
「私に何かあれば…いやっ、お前から渡してやってくれ。あいつは必ずいい警察官になる。頼んだぞ」
…何か違う…
そう感じながらも、彼方はGKを受け取った
…
「思えば父さんにはこうなる予感があったのかもしれないな…」
彼方は手の中のGKを見つめながら言った。
「お前は警察官になるんじゃなかったのか?それが父さんの願いでもあるんじゃないのか?」
そうゆうと彼方はGKを宇宙に手渡した
…GKって…こんなに重いのか…
GKを受け取った宇宙の目から自然に涙が溢れた
「…兄さん、俺は宇宙警察官になる。兄さんや…父さんにも負けない立派な警察官になる!!」
宇宙はGKを固く握り締めた
翌月の4月、宇宙の胸には宇宙警察のバッジがあった
「会議室に来てくれ」
宇宙と彼方はタジマに呼ばれた
会議室にはタジマ1人がテーブルに座っていた。タジマは二人を席に着くよう促し、話し始めた
「あの日…銀河が死んだ日に現れた列島崩壊獣なんだが…彼方君、あのタイプの列島崩壊獣は見たことあるかね?」
「いえっ、初めてみるタイプの列島崩壊獣でした」
いつもの列島崩壊獣とは何か違っていた
「『マッド』は知っているかい?」
祖父が倒した、列島崩壊獣のボス「マッド」である
二人とも話には聞いているが、実際には見たことはない。
更にタジマは続けた
「私は昔、君達のおじいさんである署長と戦場にいたことがあってね。マッドとは2.3回対峙したことがあるんだが…あいつは『マッド』だ」
「マッドはおじいちゃんが倒したのでは?」
と宇宙は尋ねた
「マッドが死んだのは当時私も確認した。間違いない。しかし、あの大きさやツノ、背中のヒレはマッドの特徴でもあったんだ」
確かにあのパワー、あのスピードは並の列島崩壊獣にはないように感じた
「あの威嚇するような金切声も、やつの攻撃色であるピンク色の背ビレも、1日たりとて忘れたことはない」
タジマは拳を握り締め、語気を強めた
「ひょっとしたら、マッドの息子かもしれない。マッドを殺された怨みを晴らしに来たのだろう」
…マッドの息子…マッドJr.…
宇宙は何か因縁めいたものを感じた
祖父・英雄に父を殺されたマッドJr.…そして、その怨みを晴らしに地球にやってきたJr.は父一徹を殺した…しかも息子達の目の前で…
宇宙は胸の中に不快感を伴った怒りが沸き起こるのを感じた
「マッドはやつらのリーダーだった。もしそうだとすれば、マッドJr.率いる列島崩壊獣どもが再び大挙して地球に攻めてくるかもしれない」
「タジマさん!」
宇宙は拳でテーブルを叩き、立ち上がった。宇宙の中にあったモヤモヤが今晴れた
「俺、絶対にやります!絶対に強くなります!やつらを全部駆逐してやる!地球のため、みんなのため、そして父さんのためにも絶対に『ジュニア』を倒す!」
宇宙の顔が「漢の顔」に変わった
20年後、宇宙警察第一大隊隊長となり、宇宙警察史上最強の軍団を作り上げることを、宇宙はまだ知らない
「レーダー反応!敵数不明!ものすごい数です!」
いよいよ、ジュニア率いる列島崩壊獣が地球に攻めてきた
「総員、戦闘配置!やるぞ!」
銀河宇宙率いる最強宇宙警察軍30万
絶対に負けない
…父さん、見ていてください…
宇宙はGKをホルダーにしまい指令室に向かった
その年、宇宙39歳の夏の事であった
宇宙大戦 エピソードⅠ
〜宇宙・哀戦士たち〜完