6・開けてはいけなかった
千詩楼での事から数日経った、そして私の友人である「稲葉紀子」は取調べ中に亡くなったそうだ。
私達が分かれた後、刑務所に着いた彼女はぶつぶつと何かを言ったと思ったら、天井を見上げ泡を吹き、口から血飛沫を巻き散らし、死んだ。
そう、千詩楼に居た探偵に電話で聞いた。
「あの時、彼女が暗い表情だったのには意味があるんだ」
その声は焦っていた。
「たぶん、私もそうなるだろう」
その声には怒りもあった。
「あの部屋は……本物だ」
そう言って、切れてしまった。
※
「数々の事件を解決してきたとして有名な、金田一次さんが亡くなっているのを知人が発見しました」
そのニュースを見たのは、私が警察から電話を受け取った時。
「本来なら、あなたに告げる事ではないのですが、金田一次さんの履歴の最後が貴方だったので、連絡をさせて頂きました」
その声は、淡々と質問してくる。あの時、金田さんと何を話したのかを。
「分かりました、ご協力ありがとうございます」
電話を切った後もテレビのニュースは、金田さんの話をしていた。
「金田さんが解決した最後の事件の犯人である、山田寿敏と野々宮さやかが現場の近くの山で遺体になって見つかったそうですが……」
※
私が彼等を、そうだと理解したのは小学生の頃。
それからは周りの人にその事を言う事は無くなったが、その興味が尽きる事は無かった。
そんな時、オカルト研究会に誘われたのは渡りに船だったのだが本当に信じている人なんて、あの場所に居ないのはすぐに分かった。
(所詮、私の気持ちを分かる人なんていないんだ……)
そう思い気にしない様にして日々を過ごしていた時に、法子に会い『千詩楼』の話を耳にする。
私の好奇心は再熱し、そして宿に入った瞬間、私の好奇心は爆発した。
あそこには彼等が闊歩していた、あんなにたくさんいるのを初めて見た。その全ては部屋に向かう私達と一緒に歩き、その奥にある『呪いの部屋』に向かって行く。
部屋への侵入が失敗した次の日、法子の後ろには黒い影の様になった人の塊があった。
怒り、悲しみ、困惑、まるで負の感情の集合体。
彼女が『呪いの部屋』に入ったのはすぐ分かった。
※
「あれ? あなたは確か……」
着物姿の女性が私を見て驚いてる
「友達の追悼で……」
それだけ告げると、女将は部屋に案内してくれる。その表情は終始、陰鬱だった。
「では」
そう言って千詩楼の女将は、東海の間から去った。
※
前より頑丈になっていたのであろう扉を開ける、まるで招き入れられるかのようだった。
夜も更け暗くなった部屋の中に、ボーっと立っている無数の人影がある。その影は、天井に吸い込まれる。
ひとり、またひとりと消える。
そして、同時に聞こえる咀嚼音。
バリバリ、バリバリ。
(ここは、巣なんだ)
天井を見上げると、ガラス玉のような瞳のない二つの穴、それと大きく裂けたような赤く巨大な口が横長の部屋目一杯に開かれていた。
『あなたも、食べられたいの?』
そう言った大きな彼女の口の中から、複数の呻き声が聞こえる。
その中には知った声もあった。
今回で完結です。
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