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「またお前か、金田一次かねだひとつぐ!」


 あれから30分程経ってるだろうか。死体を発見した後、私はあの部屋の立ち入りを禁止し出来る限りの現状維持をするように女将に伝え、警察を呼んでもらった。

 そこに来たのがこの男、大森山警部だった。


「お久しぶりです、大森山おおもりやま警部殿」


「まったく……」


 と彼は頭を抱える。

 彼との出会いは、数年前になるだろうか。

 雪山の中にあるペンションで起きた事件に偶然巻き込まれ、その時に偶然居た彼と一緒に犯人を見つけたのだった。

 それからも数度、彼と事件の現場で出合う事になるとは思わなかったが。

 

「それで探偵殿、今回の事件の目星はついているのか?」


 そう皮肉的に話す。


「いえ、なんにも」


 そう、今の所は他殺である事以外に何も分かっていない。他殺であろう理由は、梁にロープをかけるために使ったであろう梯子なりの昇降器具が見つからなかったからだ。

 ひとつ不振に思っているのは、部屋の前に居た二人の女性、彼女達があの場に居たのが何故なのか?

 まあ、それも今から行う取調べで分かるだろう。

 

 ったく、と頭を振りながら大森山警部は、大女将に告げて借りた即席の取調べ室の扉を開ける。

 部屋の中には二人の刑事と、中央に女性が待っていた。

 それは部屋の前にいた女性のひとり、髪の短い目の大きな女性だった。


「はじめまして、刑事の大森山と言います。それとこっちは」


 とその女性に警部は自己紹介をし、俺を手のひらで指して、


「こいつは、探偵の金田一次。捜査に協力してもらっている」


 と言われ頭を下げる、向こうも返してくれる。


「それで、えーと。森村瑞樹もりむらみずきさん、ですね?」


 そう警部が尋ねると、彼女はか細い声で、はいと答えた。

 警部は手元の手帳を覗きながら、机を挟んで彼女の前に座る。俺もそれに倣う。


「あなたは遺体の見つかった時、あの問題の部屋前でご友人の稲葉法子いなばのりこと一緒に居られてましたそうですが」


 彼女は肯定した。


「なぜ、あなた方はあそこに居たのでしょうか?」


 その言葉に彼女は少し俯く。


「どうしました?」


 俺が尋ねる、なんとなく後ろめたい所があるのだろうかと思ったからだ。


「いえ、私達はここにあの部屋を見に来たんです」


「部屋を?」


 おかしな言葉だ、部屋を見に来た?


「実はあの部屋って、いわゆるいわくつきの部屋らしくて」


「いわくつき?」


 頸部は怪訝そうな顔でそう言った。


「あの部屋は呪われていて、『泊まったら死ぬ』と」


 警部は頭を抱えていた、彼はこういうオカルトじみた話は大嫌いだからな。


「なぜそんな所に、女性二人で?」


 警部に代わり、俺が質問する。


「法子と私は、大学時代にオカルト研究会に所属していたんです。街で偶然会った法子と、色々話し合って」


「ちょっと待って下さい、偶然会った? どういう事なんです?」


 普通知り合いなら偶然会ったではなく、話し合ったとか言うはずなのだが。


「法子とは、大学を終えて少しの間は連絡を取り合っていたんですが、最近は仕事が忙しくてそういう事も無くなっていたんです。けど少し前に街で会って、それで学生時代を思い出して旅行にいこうという事になったんです」


 偶然、か。


「そこでここの話を見つけて、彼女とここに泊まろって事に」


「それでなんですね、あの東海の間を指定したのは」


 そう彼女達は遺体が見つかった奥の部屋の一番手前、俺の部屋の隣に泊まっていた。

 それもそこの部屋を指定するために、わざわざ部屋が空いている日を確認してまでも。その時の事を従業員に聞くとよく覚えていた、なにせ特段あそこが景色が良い部屋でもなければ、風呂場に近いなどの利点も一切ない、たくさんある個室の一室だ。そんな所を好んで選ぶのは、そうそう居ない。


「あ、知ってるんですね。ええ、私が電話をして予約したんです。『呪いの部屋』に一番近いのはどこかとネットで調べたら、あの東海の間でした」


「うーん、そうですか。ところで、何故あんな時間にあそこの前に居たのですか?」


 彼女は頭を押さえながら、


「本当はもう少し早く起きて、ふたりであの部屋を見ようと約束していたんですが、疲れていたのか私が早く起きられなくて」


「そうですか。ところで稲葉さんですが、昨夜や今朝方に何か変わった様子はありませんでしたか?」


 そう警部が聞く。


「変わった所? いえ、特にないと思いますけど」


 そう答えた彼女は、何かに思い当たったのか急にこちらを向いた


「もしかして法子、疑われているんですか!?」


 当然だ、さっきから彼女自身の事ではなく彼女達、それも稲葉さんの事しか聞いていない。


「いえ、そういう訳では」


 そう大森山警部は言ったが明らかにバレバレである。それに事実、稲葉法子は疑われている。遺体の発見者であり、遺体の男「北川雅己きたがわまさき」の元恋人だと調べはついている、ほぼ黒だ。しかし、ひとつだけ分からないことがある。


「法子、この旅館で偶然元カレに会っちゃったみたいなんです。それに、その元カレってのが、彼女を連れていて、法子の前で。その、キスを」


 ああ、そうか。

 遺体の顔を確認した時に、どこかで見た事ある顔だと思ったら昨日のアレか。


「もしかして、亡くなった方って……」


 これ以上隠しても無駄だろうと、警部の方を見ると同じ事を思っていたのか軽く頷き、


「ええ、その男性です」


「やっぱり法子が疑われているんですね……」


「ええ」


 彼女は無言になってしまった。

 一緒に遊びに来た友達が犯人かもしれない、そう思うと言葉も出ないのは普通の反応だ。


「稲葉さん、彼と会ってから変わった事はなかったですか?」


 頸部が尋ねる、ここからが本腰をいれたの聞き取りなのだろう、彼の顔がいつもに増して緊張している様に見える。


「いえ・これといって、なにも」


 と再度、彼女は頭に手を当てる。その行動に違和感を感じた。


「すみません、先程から頭を押さえていますがどうかなされましたか?」


 探偵のさが、とでもいうのだろうか。何か気になる事があると、どうしても尋ねずにいられなかった。


「いえ。朝に目が覚めてから、少し頭が痛くて」


「そうなんですか、薬は飲まれましたか? もし良かったら、女将に頼んで分けてもらえないか聞いてみますが?」


「あ、大丈夫です。法子に貰ったので」


「そうですか。もし、聞かないようでしたら、私か警部に言ってください」


 ありがとうございます、と森村さんは言う。


「それにしても、頭痛ですか。昨日はよく寝られなかったりしたのですか?」


 彼女は首を横に振る。


「いえ、そんな事はないと思います。どちらかというと、寝すぎた位ですし」


「ああ、寝坊したって言ってましたもんね。森村さんは、よく寝坊ってするんですか?」


「いえ、そんな事は。どちらかというと、用事のある日は早く目が覚めるくらいで。たぶん、楽しかったので、日頃の疲れが出たんだと」


 そうですかと私が言うと、警部が最後にこちらをと写真をさらに二枚、机に置いた。一方の写真は、免許かなにかの証明写真を引き伸ばしたかのような物。もうひとつは観光の様子なのか、亡くなった北川と若い女性が沖縄の空港の前で腕を組んでいるのを撮られたものだった。


「これは?」


 彼女の疑問に警部が答える。


「こちらの男性は、ここの従業員である山田寿敏やまだひさとしさん。もう一枚の写真は、被害者の北川とその彼女である野々宮さやかさんなのですが」


「そのふたりが、なにか?」


「彼等、この旅館に居るはずなのですが居なくなってしまったみたいで」


 警部の話は、俺も初耳だった。


「それで、彼等の事を知らないかと色々な人に聞いているのですが、どうにも見つからずで」


「うーん、彼女を最後に見たのは法子の元彼と一緒に居た時ですし、彼は……そうだ! 私達の荷物を運んでくれた人です。けど、それだけですね」


 すみません、力になれなくてと言いながら頭を下げる彼女に、いえいえと警部が協力感謝しますとお礼を言っていた。

 これといって、調査に進展なしか。


「では、もうしばらくだけお待ちいただけますでしょうか?」


 考えをまとめるために考えていると、警部がそう言って彼女を返していた。しかし、容疑者が泊まっていた所では不都合なので、元々泊まっている「東海とうかいの間」ではなく、「雫の間」を挟んで反対側の「水芭蕉みずばしょうの間」に変わると説明を受けて、彼女は即席の取調室を去っていった。


「警部、情報はすぐに下さいよ」


 再度座り直した俺は、警部に文句をいう。


「ついさっき聞いた話だったからな、言う暇が無かったんだ。ほら、コレ」


 と机に置いてある写真と同じ物を渡してくる。


「お前に会う前に部下からの報告があって、いくら待っても山田寿敏やまだひさとしという従業員が仕事にやってこないと言っているってな。それで写真を借りたら、次は容疑屋の一人である野々宮さやかが部屋から消えたって話を受け、仕方がないから婦警に部屋を見てもらったらもぬけの殻だったそうだ。その写真はガイシャの持ち物を拝借した物だ」


 それでこんな写真だったのか、たぶん山田という男性の方のは履歴書かなんかなのだろう。


「事件発覚後に、その前日に居た従業員と被害者の恋人が居なくなるか……。まあ、怪しいよな」


 うーん、と唸りながら考えを纏めようとしたがうまくいかない。どうにも何かが足りないように感じるし、その感覚はあっているのだろう。


「とりあえず、現場に行くか」


 と俺は立ち上がる。


「おいおい、何を勝手に決めているんだ。まだ鑑識が調べてる最中だ、今はいくら頼まれても入れる事はできん」


 と警部は立ち上がり、俺の前で両手を広げ立ち塞がる。


「そうなのか、なら仕方ないな。少し聞き込みしてきますよ」


「本当だな? あの時みたいに入られると、俺の給料が減るんだからな」


「分かってますって」


 昔、無断で入ったのをまだ根に持っているらしい。まったく、度量が狭い。


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