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【閑話】創世の物語

はじめに。


 凡ゆる総てを統べる女神に、創造主として選ばれた全能の神は《世界》と呼ばれる空間を与えられた。

 そこは暗闇だけが満ちていた。

 創造主はその常闇の中に、そっと光を灯した。そうして改めて《世界》を見渡せば、其処が存外に広いと識った。

 創造主はその空虚の中で、寂しさを知った。だから、自らの魂を少しばかり切り離し、己と似て非なる存在を造った。彼はその存在を我が子と呼んだ。


 子は、父たる存在を真似て、自らの魂をふたつにして、片割れを造った。片割れは弟と呼ばれた。


 弟は、自らを造った兄から愛され、兄を造った父に慈しまれた。

 弟は父や兄と違い、欠片程の魂しか宿していなかった。

 父と兄は何でも出来たが、弟は出来ないことの方が多かった。だからこそ父と兄は、一層弟を庇護した。


 だが弟は、其れを厭うた。


 一方的に与えられる優しさからは、劣等感しか、得られなかった。差し出されるその手を頑なに拒んだ。自らが満たされていないのだから、博愛の精神など持てなかった。


 故に、女神に乞い願った。


 どうぞこの様な卑屈で後ろ暗い感情に苛まれる事が無いよう、慈悲を与えて欲しい、と。


 弟の不完全さを憐れんでいた女神は、彼の真摯な祈りに温情を与え賜うた。


 女神は弟の流した涙で海を創り出し、その海から、弟と同じ存在を生み出した。そして女神は、《世界》を切り離し、《大地》を造り、それを子等に与えた。


 《大地》では以後、女神が創り出した子等と弟が睦まじく穏やかに暮らした。人と呼ばれる存在が誕生したことで、信仰が生まれた。


 信仰は新たな神を生み出した。


 人々の願いにより顕現した神々は、女神に勧めるがまま、《世界》へと移り住んだ。弟を喪い、哀しんでいた父と兄は、新たな神々を心から歓迎した。


 二人だけしか居なかった《世界》は、いつしか八百万の神々が住まう《楽園》となった。

 《楽園》には人々の祈りが募り、神々がその力を発揮し、以後退ける事なく全てを叶えた。


 《大地》には神々の威光が降り注ぎ、人々がその生を謳歌し、以後衰える事なく地上は栄えた。








 一方で、底には深く暗い昏い《闇》があった。


 《闇》は澱みを生み出し、彼を産んだ。


 彼は、生涯孤独であった。


 天に座す神々の存在を識っていて、地上に住まう人々を観ることも出来たが、純白(ひかり)の中で生きる事が出来ない漆黒(かれ)は、終ぞ交わる事は出来なかった。


 空から聞こえる神々の歌声。

 慈愛に満ちた笑顔。

 地上から聴こえる人々の讃歌。

 希望に充ちた笑顔。


 全てが煩わしかった。


 独りではない彼等が羨ましかった。

 誰かと居られる彼等が妬ましかった。

 そこに響く幸福の音が疎ましかった。


 ただ只管に嫉んで、恨んで、怨んで、憾んだ。


 そうして彼は、世界を呪った。




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