J-POPなのだから
「続いての曲は……」
DJはそう言って次の曲をかけた。
彼女は海を見つめながら何を考えているのだろうか。
横目で見る彼女の表情から、僕は想像を膨らませるしかない。
そんな静寂の中、ラジオから流れる音楽がその隙間を埋める。
『君はミステリー ハートは君のせいでブレイク寸前』
知らない男性の声だった。これが世間でははやっているのだろうか?
「ねえ」
彼女が口を開いた。
「どうした?」
「この曲、人気なの?」
「いや、知らないなぁ」
僕の言葉を受けて、彼女は言った。
「なんでさ、日本人なのに日本語で歌わないんだろう?」
確かになぁ、と僕は頷く。
「まあ、全部英語の歌詞! ならまだ分かるよ。でもさ、どうして日本語と日本語の間に英語を挟まなければいけないの!」
いきなり彼女が隣でヒートアップしている。
僕は運転に気をつけながら答える。
「リズムとかに合わせるためじゃないのか?」
「そうであったとしてもさ、やっぱり日本語なら日本語で歌ってほしいよ! 大体さ!」
「大体?」
「そういう人は英語下手なんだから!」
おお、それは歌手だけでなく、多くの人を敵に回してしまうのではないか?
「でもさ……」
いきなり彼女はトーンを落とした。
「どうした?」
「こういう音楽のことなんていうか知ってる?」
「もちろん、『J-POP』だろ?」
「そう。『J-POP』」
それの何が悪いのかいまいち分からない。
「つまり、この『J-POP』という言葉を使っている時点で、私たちは英語を使うことを容認してしまっているのよ」
言われてみれば、歌謡曲や演歌と言われると日本語のみな感じがする。でもJ-POPと言われると何でもありなような気がしてならない。
「さあ、目的地までもう少し! ラジオなんか消して何か喋ろうよ!」
「始めからそうすれば良かったな」
そして僕は英語っぽくない英語を歌う歌声を消した。
読んで頂き、ありがとうございました。