2/29 また、新しい日々へ
人葉さんのことが片付いてから一週間、僕は神様さんと電話していた。
というより、いつも電話をしているので今更、と言えば今更なのだが、話題は自然と人葉さんや僕を取り巻く色々な少女達の話に置き換わっていた。
「それにしても驚いた。お姉ちゃん、本気できみのこと好きって言ったって聞いて」
「まあね。元気にしてる?」
「異常なほど元気。でも今度はお姉ちゃんかあ、きみ本当にモテるね」
神様さんのどこか呆れたような声に、僕は大きな声で笑い返した。
「いわゆるモテ期が来てるだけだと思うよ。来年になったら多分何にもないって」
「まあ、それだといいんだけど……」
「僕は神様さんをないがしろにしてるような感じがあるからなあ。たまには休みに、一緒にどこか遊びに行きたいとか……まあそういうことを考える時もある」
話の流れで、少し空気を読みつつ、彼女とどこか行くのに誘ってみる。この腹を探るような感覚が、自分でもかなり嫌だ。
「たまには行きたいよね、散歩とか」
「そうだね。もし空いてる日があるなら、行こうよ」
「なんかナンパされてるみたい。でも、今はいいかな」
苦笑気味の言葉から、否定の言葉が発せられて、僕は肩を落とした。
すると彼女の口からその「理由」が告げられた。
「きみの妹さん、四月から学校に戻るんでしょ。なら、そのサポートの方が重要になってくるんじゃない?」
「そうか……それもそうだよなあ。妹のこと、色々と支えなきゃいけないね」
「そう。私のことは後回しでいいから、今は大切な人達のこと、考えて」
「それ言うんだったら、神様さんのこともちゃんとしたいんだけど……」
「え? え? そ、それどういう意味?」
「大切な人達ってこと」
「そ、そういうのは、色々だから。わ、私は後回しでいいから」
と、神様さんは上ずった声でまた否定する。どうもこの人、僕から大切な人認定を受けると途端に声が変わる。僕は何かしてしまったかな、と常々考えてしまう。
「とにかく、妹さんのこと、頑張ってね。お姉ちゃんに関しては私が蓋しておくから」
「ええ……それは可哀想じゃない?」
「あの人に振り回されたければ自由にしてくれてもいいけど。ていうか、私がお姉ちゃんをフォローしてあげる理由はどこにもないし」
まあ、それもそうか。でもどうして神様さんは人葉さんの恋愛を応援しないんだろうか。不思議と言えば不思議だが、普段の姉妹仲が悪いとなったら、そういう考えにもなるかと、僕は勝手に得心した。
「それじゃ、新学年、頑張ってね」
「うん、またお店の方に行くよ」
そして、電話が切れた。
新しい学年が始まる。右左が戻ってくる最初の一年。そして僕がこの学園で過ごす恐らく最後の一年。
どんなものになるのかな。その未来の先に、神様さんがいますように。
カーテンを少し開き、窓の外を見る。少し明るい夜空に煌々と輝く光が、僕の心に決意を与えてくれた。
神様さんのことも、右左のことも、他のことも、これからの一年でしっかり結果を残そう。僕の決意はどこまで届くか。
見上げた暗がりに、すらりと流れ星が煌めいた。
僕もあの星空のように輝けますように。流れ星に願いはかけられなかったけれど、自分の中のしっかりとした思いが、手に取るように分かった。
(第二部・終わり)
これにて終わり! ……じゃないですね。何にも解決してません。
そうです、これ三部作なんです。長い間お付き合い頂いた方には大変申し訳ないのですが、申し訳ないついでにもう少しお付き合い頂ければ幸いです。
というわけで、二部が完結してすぐなのに三部が始まるというおかしなことになってしまいますが、引き続き気に入って下さった方は最後までお付き合い頂ければ幸いかと思います。
それでは二部、これにて一旦終了ということで。明日から三部が始まる! 余韻なし!




