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2/22 やくそく

 二月という季節は、学校という場所において戦場と化す。

 一年はこれから先への恐怖を感じ、二年は来年は自分かと憂鬱になり、三年は卒業と同時に自分の未来に混乱する時期である。

 右左のことで教師に色々聞きたいことがあるが、そんなこと知ったこっちゃねえ、勝手に復学の手続きを取りやがれという教師から発せられるオーラの前に、僕は職員室に行くことも出来なかった。

「おう、塚田」

 帰ろうとしていた廊下、誰かが僕に声をかけてきた。振り向いた先にいたのは、長らく受験生相手で忙しかった担任だった。

「ああ、先生。どうも」

「受験の方も一応一段落付きつつあるからな。ただま、まだ合格が決まってない奴にとっちゃ辛い時期でもあるけどな。塚田、お前の妹のことで少し話がある。ついてこい」

 担任が僕の妹のことを話すなんてどれくらい久しぶりだろう。僕は不思議に思いながら、担任の後に付いた。

 しばらくして着いたのは、椅子が資材のように無造作に置かれている五階の空き教室だった。

 担任は僕に椅子を寄こすと、自分も手近なところから椅子を手にし、座り込んだ。

「妹の勉強、かなり順調に進んでるらしいな。生徒会経由で聞いたぞ」

「ええ、まあ。本当はこなしたプリントとか、迷惑かもしれないんですけど、先生達に採点してもらいたいって気持ちはあるんですよ。ただ皆さん今忙しいですからね……」

 空笑い。それに担任も冷えた笑いで返した。

「まあ、仕方ない。受験生を優先しなきゃいけないからな。志望校落ちた奴のフォローをどうするか、受かった奴に何させるか、色々こっちもやらなきゃいけないことが多いんだよ」

 担任の顔に疲労が見えた。こればかりはどうしようもない。教師陣が毎日遅くまで働いているのは学校内の誰でも知っていることだ。

 しかし、右左の話はこれで終わりなのか。そう思って担任の目をぐいっと見ると、担任は笑いながら手で制した。

「塚田、妹の面倒を通学中はするって聞いたが、本当か?」

「面倒って言っても弁当を作ったりとかですよ。大したことはしません」

「ならいいんだがな。前に提出した進路志望書、かなり大雑把なことしか書いてなかったからな、お前。しかも最後に専門学校まで入れてただろう。学年トップクラスの奴が専門学校なんて書いてて、俺がどやされたんだぞ」

 彼はそう告げると、軽く笑った。どうやら冗談と思われているらしい。

 確かに今はその方向性はなくなったが、右左の問題が顕在化していた時は、本気でその道も考えた。何の専門学校に行くかは決めていなかったが、一つ自分のチャレンジとしてはいいかもしれないと思ったのは確かだ。

 ただ今は大学進学に道を固めている。その一般的な道が自分の人生に本当にプラスになるのかどうかは分からないが、僕はその一本に絞ることにした。

「塚田、志望校は決まったか」

「まだアバウトにしか決めてません。ただ家計の都合を考えて、近場でそこそこの偏差値の所にしようと思っています」

 我ながら上手い逃げ方だ。それを聞いた担任はため息をこぼしながら、少し笑った。

「お前が進学実績を上げてくれればこの学校にも箔が付くってもんだったんだが。ま、家の事情なら仕方ないな」

「済みません。遠くで一人暮らしをしてると生活能力に乏しい妹がまた学校休む可能性もあると思ったんで」

「まあ、それもあるか。妹の方も勉強がしっかり出来るらしいからな、そっちに期待することにしよう」

 担任はそんなことを言って笑う。右左や僕の進学は、学校の実績のためだけにあるのか。そう思うと、少し白けが過ぎった。

「塚田、推薦を使うって手もあるぞ」

「いえ、推薦だと行くところが決められちゃいますから。出来れば自分の手で何とかしたいんです。僕の分の枠は本当に推薦が欲しい人の手に渡ればいいと思います」

「お前は殊勝だな。そういうことを言える奴はなかなかいないぞ」

 本当は別に推薦でもなんでもいいのだが、自分が今決めようとしている道を模索するとそうなったということをマイルドに話しただけである。逆に褒められると罪悪感が募るので、いっそのこと罵倒された方がましかと思えた。

 担任はゆっくり席を立つ。どうやら右左に関して聞きたいことは一通り終わったらしい。

「復学の準備、本当にちゃんと出来てるんだろうな」

「ええ。この間話してたら、明日にでも復帰したいなんて言ってました」

「そういうタイプの子は入って息切れするのだけが怖いんだよな。ま、塚田のサポートがあるから心配ないと思うけどな。他の心配してる先生方には俺の方から話しておく。お前は進路に関してもう少し考えろ」

 彼はそう一言残して、教室から立ち去った。

 そう言えばこの学校の進学実績って知らないな。あの野ノ崎が中堅クラスの大学に行けそうなんだから、そこそこレベルの高い学校だとは思うのだが。

 とはいえ、どんな高校にも言える話だがトップクラスと留年ぎりぎりの人間では学力に差がありすぎる。進学実績など、学校の売り文句にするだけの品でしかないのだ。

 右左の面倒を見て、神様さんに時折会いに行って。でも大学に行く頃になったら神様さんも十九歳とか二十歳になってるのか。いい感じに大人びて、色っぽくなりそうだ。

 と、また僕は気持ち悪い奴になり始めた。しかも、陽の光が指しているとは言え埃っぽい汚い部屋のど真ん中でだ。

 バカなこと考えてないで帰ろう。僕は鞄を手に外へ出た。

 長い階段を下って、一階の靴箱に辿り着く。すると、見知った姿の少女が僕の靴箱付近にもたれかかっていた。

 確か、この間光速の如く告白して光速の如く去っていった少女だ。

 神様さんに言われたことを思い出す。カバーしてあげなさい。どうやればリカバー出来るのか分からないが、僕はとりあえず平静を装って靴箱に近づいた。

「あ、塚田先輩、お疲れ様です」

 彼女はぺこりと頭を下げ、僕の靴箱から退いた。僕は笑顔を作って、彼女に挨拶した。

「君も授業お疲れ」

「あ、あの、私これから帰るんです。駅まで一緒に行ってもいいですか?」

 彼女は声を振り絞ってそんなことを告げる。そう言えば問題児である人葉さんが一度振られたからと言って諦めることはないみたいなことを言っていたか。

 僕の中の感情が揺れるわけではない。別にいいよ、と答えて僕は靴を履き替えた。

 歩きだした僕達の間に特に会話はない。ただ周囲にどんよりとした空気が張り詰めているのは馬鹿な僕でも理解出来た。

「あの、塚田先輩って妹さんいるんですよね」

「ああ、知ってるの。もうすぐ復学する予定だよ」

「それも知ってます。入学してすぐの頃、凄く可愛い子がいるって学校中で噂になって、五月の実力試験もほとんどトップ取ってたんで、印象は凄く残ってます」

 右左の学力は知らなかったが、そんなことがあったのか。それなら春日第一に行けたと思うのだが、ただあそこに行けば没個性になってしまうのも何となく想像に難くなかった。

「先輩の妹さんって、芸能人みたいに可愛いですよね。変に媚びてない分、芸能人よりも可愛いかもしれないです」

「僕と違って美少女として必要な遺伝子を全部引き継いだみたいだからね」

「そ、そんなことないです。塚田先輩だって充分格好いいです!」

 と、彼女は強く叫んだ後、顔を真っ赤にして俯いた。何というか、この必死さを見ていると無下にするのが非常に辛い。

 とはいえ、中途半端な気持ちで付き合うと、落とし穴にはまりそうで怖い。神様さんが勘違いして祝福されると、僕の人生は終わったも同然だ。

 こうして考えてみると、今の僕の人生は一つの恋愛に全てを掛けているんだなと分かる。

「あの、メールアドレスとかアプリの連絡先とか……」

「ごめん、そういうのは本当に必要な人しか入れてないんだ」

「……ですよね、済みません」

 僕は立ち止まった。彼女は目を丸くして止まった僕に振り向く。冬の冷たい風が僕の耳元を突き抜け、痛みを寄こした。

「僕は君のことを何も知らない。そんな人にいきなり好きって言われたり、メールアドレス教えてくれって言われて君なら受ける?」

「……受けないです」

「そう、まずは知り合うことから始めるべきだと思うんだ」

 彼女ははっとしながら、「そっか……」と小声で呟いていた。

 しばらくして彼女は、頭を下げ、僕の目をしっかり捉えてきた。

「私は、一年の木島美里って言います」

「木島さんね。僕は塚田一宏。よろしく」

 僕が返答すると、彼女の顔にようやく笑顔が戻った。そして、半歩だけ僕の側に寄ってきた。

 僕達はそれ以上会話を続けることもなく、ただ駅前まで歩き続けた。

 彼女は電車通学らしい。そのまま駅に行くのを見送ると、僕はようやく大きなため息を吐いた。

 八方美人ってのは嫌な感じがするが、これも嫌な感じだろうか。頭がくらくらしそうだった。

「あーあ。いいのかなー双葉も人葉ちゃんも嫉妬しちゃいそう」

 後ろから聞き慣れた声が浴びせかけられる。この駅に現われるのは久しぶりの人葉さんであることは明確で、振り向くことすら面倒に思えた。

「何の用ですか」

「たまには妹を出し抜くために会いに行こうかなって思って。それで見に来たら、何一年に手ぇ出してんのさ」

「……手を出したつもりはないですよ。人葉さんの言ったことを実践しただけで」

「何それ」

「ほら、振られても何回でもチャレンジはするものだって。だから、うまく断るためにまず友達から始めてみようって考えに至ったわけです」

 そう説明すると、人葉さんは目に手を当て、空を仰いだ。

 僕は何か失敗したか? すぐさまその答えが人葉さんから寄こされた。

「あのねえ、友達なんかになったら余計に情が移るでしょうが。君案外バカ?」

「……馬鹿なのは否定しませんけど、何か必死なのを見てたら可哀想になって」

「双葉も苦労しそうだわ……」

「双葉さん、何か苦労するんですか?」

「うん、君のそういうところが双葉や私を苦しめるわけだ。よく覚えておきたまえ」

 彼女は笑いながら僕の頭を軽く小突いた。

 僕はそれが意味するところが分からず、夕食のためにスーパーへ歩き出した。勿論、口うるさい人葉さんがそこで逃してくれるわけもなく、後からそろそろと付いてきた。

「双葉の因縁の相手である委員長とか言うのとはどうなってるの」

「双葉さんには言わないで下さいね。この間映画に誘われたんで、一緒に行ったら終わった後に恋愛をしてるのかどうか分からないけど、一緒にいると凄く嬉しくなるって言われました」

「……あのさ、それもうただの告白じゃない。何で君はそこで白々しい態度を取れるのかな。人葉お姉ちゃんは心配になるぞ?」

 人葉さんは珍しく本当に困惑したような表情で僕の横顔を覗き込んでいた。

 そう言われても、委員長が僕のことを好きだという確信はないし、そもそも人葉さんは僕が神様さんにしか目が行っていないことは知っているはずだ。

 僕は何も言わずスーパーへ歩き出した。余計なことに首を突っ込みたくない。しかしそんな僕を逃すまいと、人葉さんも同じ歩調で側に付いてくる。

 何を……と思っていると、人葉さんが痛烈な一言を僕にぶつけてきた。

「ま、君の決断だから最終的にそこは尊重するけど」

「?」

「双葉、昔から引いちゃうっていうか、譲っちゃう性格なんだよね。争い事が嫌いで、揉めるくらいなら自分から身を引くタイプ。学校辞めたのもそこの部分。で、君、今はいいかもしれないけど双葉の気持ちが固まらない内に、双葉が身を引くかもね」

 その言葉を聞いて、僕の全身から血の気が引いた。委員長も今日知り合った木島さんもただの友達ならやっていける。しかしそこに恋愛感情をぶつけられて、神様さんが僕を見限ったらそれこそ人生の終わりだ。

「まあ、一つの恋愛に縛られずに、新しい恋愛で道作るのもアリだとは思うけど」

「……人葉さん」

「だって人生一回でしょ。双葉と結ばれなくても違う人生が待ってるわけでさ。何なら人葉さんにしとく? 今ならお得だよ」

 人葉さんは普段の顔が嘘のように妖艶に微笑む。その大人の色香を含んだ顔に、思わず胸が叩かれた。

「野菜色々売ってるねー。でも売り時を逃したら腐って捨てられるだけ。恋愛も似てるよね。タイミング見間違うとせっかくのカップルも破綻」

「……要するに人葉さんは、僕にちゃんと決断しろって言いたいんですか」

「まあしばらくは大丈夫だと思うよ。双葉もそれなりに気の長い性格はしてるし。とはいえあの子恋愛したことないから、うまく攻めていかなきゃ失敗するかもね」

 む……と口を噤む。以前から少し気になっていたことを、彼女に訊ねた。

「あの、クヌギの精霊に愛されるのって、何人くらいいるんですか?」

「一人」

「ほ、本当ですか?」

 僕の焦りの溢れた声に、人葉さんは呆れたように視線を落とした。

「声上ずってるよ……本当だよ。どこかしらで出会う運命にはなってるんだ。ただ出会っても感性が合わなかったりしたら、次代に持ち越しってことにもなる」

「次代に持ち越し……?」

「うちのお父さんがそう。うちの母親がそういう人とうまく知り合えなかったから、三百歳生きてそれで生まれたのが私と双葉」

「……あの、仮に僕が恋人になれたとして、僕が死んだら、双葉さんはどうなるんですか?」

「一度契りを結んだら、その人以外に尽くすことはないよ。要は神様として職務を全うすることに切り替えるって感じ」

 それを聞いた瞬間、脱力で倒れ込みそうだった。人葉さんはそんな僕を白けた顔で見つめつつ、ゆっくり手を引いてきた。

「双葉にこんな格好悪いとこ見せらんないでしょ」

「……ありがとうございます」

「そうだな、ありがとうには対価を求めてもいいかもしれないな」

 人葉さんの目がきらりと輝く。これは、何かしらよくないことを考えている時の顔だ。

「ねえ、私がいっつも迎えに来てばっかりだから、たまには私の方へ来てよ」

「この間おうち行ったじゃないですか」

「あれは君にダシにされたんでしょ。双葉に会うっていうダシに」

 否定出来ない。僕は黙したまま人葉さんの次を待った。

「春日第一の駅前まで迎えに来て欲しいなあ、なんて」

「本気ですか?」

「割と本気だけど……駄目?」

 誤解させるのが一番大変なことだと言っている人が、何を言ってるんだと思った。

 でも、ふと人葉さんの視線が視界に入る。

 俯いて、強情で、内心の弱さをひた隠しにしている、あの辛い人葉さんの目だ。

 断るのは簡単だ。でも、ここで断ることは出来ない。

 僕は黙ったまま、人葉さんに頬を数度かいたあと、静かに答えを返した。

「まあ、そんなのでよければ」

「どうなるだろうね。双葉嫉妬しちゃったりして」

「だからそういう方向に話を持っていくのをやめて下さい」

 彼女は何も言わず笑顔だけ見せて、僕の腕に絡んできた。

 このふくよかな胸に腕が当たるのも大分慣れてきた。もっとも、神様さんにそんなことをされれば一瞬で頭がフリーズもしくは熱暴走して僕は止まってしまうわけだが。

「私たち、何に見えるのかな」

「学生でしょう」

「夢のないこと言うなあ。恋人同士に見えるとか、そういう気の利いたこと言えないの?」

 ああ、そんなことか。僕は考えてから、ますますそんな言葉から遠ざかっている気がした。

 人葉さんはある意味頑丈な人だ。何度も僕に冷たい対応をされても熱心に近づいてくれる。

 きっと、こういう人も大切にしなければいけないんだろう。でも僕は、神様さんの機微を知りたくて、知れなくて、ただ襲いかかる不安にばかり囚われていた。

「今日は何作るの?」

「サラダと肉ですかね。うちの妹、一週間に二回ビーフシチューでもいいなんて偏食っぷりを発揮するんですよ、困ったもんです」

 「ふーん」彼女はそう呟くと、歩いている場所の周りをぐるりと見渡した。

 今度は何が言いたいのか、そう思って困惑の眼差しを向けていると、彼女はふっと、冷静な声で呟いた。

「どこで食べたビーフシチューが最高だったのかは知らないけどさ、思い出の味なんじゃないの」

「思い出の味……」

 思えば、右左は小さい頃からビーフシチューは好きな方だった。だが今のように偏食になるほど好きではなかった気がする。

 街を歩いていた時。

 自分で料理を作れない右左にとって、レトルトのビーフシチューやファミレスのそれは自分を落ち着かせてくれる大切なものだったのかもしれない。

「他人が何を大切にしてるなんて案外分からないもんだよ。双葉が隠れオタだったことも君は知らなかったわけだしね」

「そう言われると……僕はまだ双葉さんに信用されてないのかもしれないです」

「いやいや、そんなんじゃないよ。今時オタ趣味くらい当たり前なのに、君の前でそれをさらけ出すのが恥ずかしかっただけ。まあこの間部屋に上げたのも裸見せる位の勇気がいったんじゃないかな」

 と、人葉さんはけらけら笑う。しかし、自分の趣味をさらけ出すというのは、そんなに勇気のいることなのか。とはいえ、オタクアイテムを飾っているオタク趣味は、あのルックスからすれば裸を晒すのに等しいくらい恥ずかしいかもしれない。

 右左にとって大切な味であるビーフシチュー。僕にとって大切なものは何だろう?

 考えていると、自分の思考がどんどんネガティブになっていきそうだった。

「おいおい、暗い顔してるぞ。もっと明るく」

 と、彼女は僕の口の両端を指でつまみ、そのまま無理矢理口角を上げスマイルを作らせた。

 そんなので本当に笑えるわけないでしょうと言いたくなったが、彼女のその気遣いが僕に本当の笑顔を作ってくれたのは事実だった。

「君は笑ってる方が似合ってるよ。いつも真顔で感情が読み取れないからね」

「そうですかね。真顔って言われたことそんなにないんですけど」

「双葉のアレじゃないけど、君は君で顔つきだけで人を寄せ付けないオーラが漂ってるよ」

 それは気付かなかった。普段通りに振る舞っているつもりだったのだが、そんな風に思われていたとは。そんな人間に寄りついてくれる委員長や一年生の木島さんや神様さんは一体どんな性格をしているのだ?

「それにしても、君がうちんとこの学校の駅まで来てくれる日楽しみ」

「双葉さんに言ってもいいですけど、事実を淡々と話して下さいよ」

「大丈夫大丈夫。帰りに疲れたから安宿で二時間休んだとかちょっとだけ話盛るだけだから」

「ってそれをやめろと言ってるんですよ!」

 相変わらずの人葉節にからかわれ、僕は立つ瀬がない。神様さんとは対等な関係を結べているのに、人葉さんには僕はリードされてばかりだ。

 僕はスーパー内であちこちを指さす人葉さんに振り回されながら、夕飯のメニューを何にするかも攪拌されてしまった。

 そう言えば、以前神様さんと一緒にこのスーパー入った時もそんな感じだったか。

 やっぱり、姉妹仲はともかくとして、似てる部分のある二人だ。

 僕は淡々と売れ残りになっていない野菜を見つめていた。

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