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理想は自傷者〈カノジョ〉に殺される  作者: 天樛 真
鷺宮空十の人生レクチャー
10/17

女子高生と情報屋①

更新速度これもうわかんねぇな

 ……カタカタカタ。


 ―――カツカツカツ。


 ……カタカタカタ。


 ―――カツカツカツ。


 ……カタ。


 ―――カツ。


 キーボードを叩く音が止んだその時に、広い倉庫に反響するブーツの靴音も同時に止まった。


「……客かい? この天才情報屋、鷺宮空十に何用かな?」


 情報屋の鷺宮は、自分の『家』から天樛恵裏数が出ていった数分後に家に入ってきた者を、驚くこともなく、そして怪しむことも無かった。パソコンの画面から目を離さずに、自分の背後に居るであろう正体のわからぬ相手に言葉だけを投げかけ、振り向こうとはしなかった。


「……」


 見知らぬ客人は何もしゃべらない。鷺宮は続ける。


「悪いが、身元不詳の客の依頼は受け付けないようにしてるんだ。せめて名前くらい名乗ってくれねぇかなぁ」


 テーブルの上に置かれていた紙パックの野菜ジュースに手を伸ばし、ストローを加えて中身を飲む。ヂュウと音がたち、もう中身があまりないことがうかがえる。


「―――囲炉裏(いろり)麻霞(あさか)です、よろしくお願いします」


 鷺宮の背後に立ったその少女は、自らの名前を告げたあと―――――大きな『刀』を振り翳し、鷺宮の頭上目掛けて振り下ろした。


 ガンッ!! という強い音を立てて、少女が振り下ろした刀はパソコンの画面を真っ二つに引き裂いてテーブルに突き刺さった。パソコンの画面は真っ黒に塗りつぶされ、バチバチと内部の電気が漏れ出している。


「……おいおいアブネーじゃあねぇかよお嬢ちゃん。そんなモノ人の家で振り回すもんじゃねぇぜ」


 鷺宮は一瞬のうちに少女の刀を躱し、ソファから立ち上がっていた。そのとき初めて少女の顔を見た鷺宮が思ったことはこうだった。 


「可哀想に」


 そう一言憂いを込めてつぶやく。目の前に立つ少女、囲炉裏は無表情のままだ。


「鷺宮空十さん、私はあなたを殺しに来ました。よろしくお願いします」


 恭しくお辞儀をする少女は、見るからに少女(おさな)い少女だった。年齢は見るところ今だ成人を迎えていないであろうというくらい。少し大人びた表情は中学生とは思えないものであるが、その瞳はまだまだ子供らしさを引きずっている。

 恐らく彼女は女子高生だろう、というのは何も顔つきから想像したものではなく、彼女の恰好を見て判断したものだ。一目見てわかるように、囲炉裏麻霞は制服を身にまとっている。紺色のブレザーを羽織って、黒色のネクタイを締めている。

 

「学生は学生の本分を全うして貰いたいもんだね」


 片目を閉じて、呆れた様な仕種をしてみせる。


「……洗脳(・ ・)されたって言っても過言じゃねーよなぁ、お前さんみたいな華の女子高生がそんなもん握ってるなんて不笑(わらえ)ねぇ話だぜ。」


「洗脳なんて人聞きが悪いです、私は私のやるべきことをやるべきなので。殺るべき者を殺る、当たり前ですよね?」


「……君、現国の成績悪いだろ」


「評価は4です」


囲炉裏は大剣を振り翳した。相当の重量を持つであろうその剣は、周囲の空気を巻きあげて異質めいた風切り音を立てる。その重量感のある重低音とは裏腹に、囲炉裏は大剣を片手で振りかぶっている。まるで重さが感じられないほどに、細い腕で剣を振りかぶっているのだ。


「おいおいどうなってんだそのデカブツ。音と恰好がちぐはぐだぜ」


「この磁罪鉤(じざいかぎ)は方斬様から与えられた私の最大にしてただ一つきりの武器です。貴方を死に至らしめるにはお釣りが出るほどに十分すぎる」


 磁罪鉤と呼ばれた大剣は、不気味な形をしていた。刀身は長く、先端近くの刃はY字に分かれており、一方は真っ直ぐだがもう一方は80度に折れ曲がっている。まるで一つの剣の先にもう一つの刃が斜めにくっついているような形をしている。さらに先端部分は釣り針のようにフック状になっており、剣と呼ぶには相応しくなかった。

 囲炉裏は磁罪鉤を振り下ろし、フック状の切っ先を床に叩き付けた。斬りつけるというよりかは、叩き潰すように。


「っほぉう!! しかし破滅的な威力だなオイ!」


 鷺宮は後ろに跳んで磁罪鉤を避ける。床は抉れ、突き刺さった周辺も隆起するように床の形状が変形していた。


(あーんなモンが頭にぶち当たったら……なんて想像したくねぇな)


 頭蓋が割れて脳漿が散乱。考えとは裏腹に結末を想像してしまい、鷺宮は冷や汗を一滴流した。


「……よく避けれましたね。かなり場数を踏んでいると予想しますが」


「お生憎ね。こちとらどっかの誰かさんみたいにトクベツ力があるってわけじゃあねぇが、情報屋なんて仕事やってる者としてある程度慣れてんだわ、こういうのはよ」


「そうですか、そうですよね。そうが故に、方斬様は貴方を抹殺したがっています。やはり私が貴方を殺るべきですね、再確認しました」


 囲炉裏は磁罪鉤を引き抜き、改めるように構えなおす。


「大事なことなので二度言います。鷺宮空十、貴方を抹殺する」



「……追加料金で肩もんでくれるかい?」



 囲炉裏が磁罪鉤を振りかぶり、鷺宮へ飛び掛かった――――――。

猫が飼いたい。ごろにゃーん

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