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勇者の知恵の使い方  作者: 霜戸真広
剣聖と巨亀
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お買いもの

 アルトが泣きやむのを待ち、俺達は買い物をしようと教会を出発した。

 剣聖街を出た俺たちは一般街、その中でも様々な商品が集まる市場に足を運んでいた。

 一面に広がるのは様々なテントの群れ。バザールと言った感じである。

「ふふん、すごいでしょう」

「はい、すごいです」

「すごいけど、シズネは関係ないだろう」

 まるで自分がすごいと言う様に胸を張られても。しかも今までは見てみぬふりしていたけど、お前張るほどの胸がないからな。

 そしてそんな相手にも純粋にすごいと言えるアルトは、本当にいい子だ。

 シズネは見習え。そして張る胸はな――

 スパン、と空気を切り裂く音と共に目の前を何かが通り過ぎた。

「……何か変なこと考えたでしょう」

 思いっきり杖を振りぬいた姿勢で、シズネがこちらを睨んでる。

 女子は何でこんなに心を読んでくるんでしょうか。誰か教えてください!

「……何も考えておりません」

 目を逸らす。

「サトルさん、何を考えたんですか。言って下さい」

 前門の虎、後門の狼ならぬ、左にシズネ、右にアルトの状態である。

 どうしてこれが両手に花にならないんだろうね。

「と、とりあえずアルトの服が欲しいから、服屋に連れて行ってくれないかな。シズネはもちろんいい店を知っているんだろう」

 完全に話を逸らしました。

 シズネもしょうがないと言う感じでため息をついて頷いた。

「分かったわ。安くていい店を知ってるから行きましょう、アルト。可愛い服を選んであげるからね」

「はい、シズネさん。お願いします」

 アルトはシズネと手をつないでまた走り出した。

「今日は追いかけてばかりだな」

 俺も後から走っていった。


 気がつけば夕方になっていた。

「もう買い残しはないかしら」

 そう言うシズネに俺は弱弱しく返した。

「十分買ったよ。なあ、アルト」

「はい、こんなに楽しいお買い物は初めてです」

 はあ、和むなあ、アルトは。一日中歩き詰めの疲れた体が一気に癒える気がする。

 今のアルトは行きに来ていた服とは違う服を着ている。服屋というかこの辺では一般的な古着屋で買ったものだ。活動的なショートパンツから伸びる足がまぶしい。

 シズネに紹介された古着屋は質のいい服を扱っており、さらに本来なら自分たちでサイズは調整しないといけないところを無料でやってくれるという良心的な店だった。服は多くあっても困らないし、アルサイムの貯蔵庫に入れておけば持ち運びも楽だしな。

 調子に乗っていくつも買ったら運べなくなったが、店の人が運んでくれるという事だった。こっちの世界の人はいい人が多いのかも。アルト然り、ルトライザ一座のみんな然り。

 いや、あの冒険者どももこの世界の住人か。

 そういう所はどこも変わらないか。

 古着屋でアルトのお着替えイベントは発生したけど、ラッキースケベは起こらなかった。おかしい。

 その後はバザールで掘り出し物を探したり、買い食いしたりした。

 どこかで食べた焼き鳥は日本とは全然味が違ったけど上手かった。肉の弾力は比べ物にならない。

 その味を思い返していると、アルトが上機嫌に話しかけてきた。

「サトルさん、似合ってますか」

 アルトは俺が買ってやった貝を使った髪飾りを指さして笑う。よほど嬉しかったのだろう、この質問は今日で何度目か。

「ああ、似合ってるよ」

「ふふふ、ありがとうございます」

 毎回同じような答えを返しているんだけど、嬉しそうにしてくれるからこっちも返すのが苦じゃない。

 俺も笑う。

 バザールでアルトがなんとなく欲しそうにしているように見えたから買ったんだけど、正解だったようだ。

 アルトに髪飾りを買った後は、工房も見て回った。

 思ったよりも『スノーボード』が高く売れたから、そのお金で剣を買うことにしたのだ。俺とアルトの分で二本。かなりの金額が飛んだけど、それはしょうがないだろう。

 いつまでも借り物の剣という訳にもいかないし。

 あと、この世界にはドワーフという種族はいないらしい。てっきりちっちゃなおっさんが出てくると思ったのに。ふつうのおじさんでした。

「あんた、何考えているのよ」

 シズネが話しかけてきた。

 俺とアルトがいい雰囲気だから寂しくなったのか、本当に俺が考えごとをしているように見えたのか。

「ああ、今日のことをちょっとな」

「そうよね。神殿であんなことが起こるなんてね。あんた呪われてるのかもね」

 ははは、その逆です。

 アルトが神殿で加護を確かめた後、俺も確かめるように言われたのだ。

 女神の加護をもらってるなんて知られたら面倒くさいから逃げようとしたんだけどできず、引きずられるように魔法陣の中へ。

 そしてアルトと同じ様に巫女が何事か呟くのが聞こえた。

 あのだるだる怠惰女神が来るっ!

 そう思ったが……案の定来なかった。

「魔法陣は反応しているのに精霊が現れないなんて現象初めて聞いたわよ。精霊の加護を持たない人間は普通にいるけど、その場合は魔法陣がまず反応しないのよ」

 不思議よね、とシズネは小首をかしげている。

 あの時俺には声が聞こえていた。

『面倒だからパス』

 何故かこういう時だけ素早く答えるのがティアクオリティー。こんな奴が女神だってのはやっぱり間違いだろ。

 ただそのおかげで巫女さんの驚愕する顔が見れた。無表情キャラの顔が崩れる瞬間ってたまらないよね。癖になりそう。

 街中をゆっくり歩いていたが、気付けばもうすぐ一座が止まっている宿だ。

「ここらでお別れかな」

 そう言おうとした瞬間だった。

 俺達を囲むように十数人の怖そうな顔面の男たちが立ち並んだ。

 いわゆる突然のピンチというやつだった。


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