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勇者の知恵の使い方  作者: 霜戸真広
旅立ちの日まで
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突然ながら異世界召喚

「ここはどこだ?」

 それが平凡であると自負する俺、伊勢サトルの第一声であった。

 とりあえず自分の姿やらを確認してみよう。今まで通学途中だったので学生服姿で自転車に跨っているのはそのまま。これが街中であれば何の違和感もないが、その場所は見渡す限り岩ばかり転がっている荒野のど真ん中だった。先ほどまで走っていた家の近くの道とは似ても似つかない。

 何が起こったのかを思い出す前に、まずは目の前に集中しなければいけないようだ。第六感とでもいうのか、虫の知らせとでもいうのか危ない予感しかしない。

「あなたたちはどなた?」

 正直目を疑う者たちがいる。その見た目は小説や漫画でよくある様な、冒険者スタイルとでもいう様な姿だった。軽装鎧をまとった両手で剣を握っている金髪男、大きな盾を左手で担ぎ、右手には棍棒をもった重層鎧の男。魔法使いの様なローブを羽織った男か女か分からない奴。そして……

(女の子か……)

 黒い首輪を付けられ、一人薄汚れたボロボロの服をまとった赤茶髪の少女が一人。まるで奴隷といった様子だ。不思議なのは猫耳みたいなのをはめてコスプレしている所だ。スカートの後ろ部分からは尻尾も見え隠れしている。

 コスプレ会場にでも紛れ込んだのか、俺は。家の近くでそんな催しやるなんて聞いた事もないんだけどな。

「&$%‘#!$%&*+$%」

「$%&!*%&$」

 武器を持っている二人の男が何か話しているが全く分からない。知っている外国語は学校で習った英語ぐらいだが、それとは全く違うということぐらいは分かった。後で思い返したところによると、「変なゴブリンが出てきたな」、「殺すことには変わらねえよ」って言ってたようだ。

 金髪男が腕を回して何故かウォーミングアップをしている。どうも持っている剣のきらめきが偽物には見えないんだが、いやよくできている。

 ……本当に偽物だよな。

 気さくな感じで片手を上げる。ここで相手も手を上げてくれると助かるんだが。

「それ地毛ですか」

 通じないと分かりつつ、笑顔で聞いてみる。

 相手も笑顔を返してきたので、乗ったままだった自転車から降りようと体を傾けた。それが生死を分けた。

 ヒュッ、と何かが風を切る音がしたかと思うと、今まで俺の頭があったあたりを剣が通り過ぎた。避け損ねた髪の毛が宙を舞う。

「えっ……」

 硬直した体で今まさに剣を振り下ろした男を見ると、避けられたことにいら立った表情をしている。後ろの二人が野次(意味は分からなくともこういうことは雰囲気で理解できるものだ)を飛ばすと、その男は振り返って何かを叫んだ。きっとうるさいとかそんなことを言っているのだろう。

(今がチャンス)

 思考と同時に体が動く。

 剣士が後ろを向いている内に逃げるぞ。

 まだ自転車から降りてはいなかったから、急いで方向転換してこぐ、こぐ、こぐ。帰宅部の俺には辛いけど、全速力でとばす。後ろから慌てたような声が聞こえるけど無視。

 ぞくりと背筋に何かが走った。後ろから何かが近づいてくる感覚がする。

 嫌な予感に後ろを振り向くと、まさしくファイアーボールといった大きさの火球が飛んでくる。

「あのフード野郎はやっぱり魔法使いだったか」

 やっぱりってなんだよ。

 自分で自分に突っ込む。

 くそっ、常識っていうのはどこに行ったんだよ。

 ハンドルを切ってどうにか火球の直線上から外れる。ただもし追尾機能とかあったら死ぬな。

 その最悪の予想は外れたが、隣に着弾して火花がかかる。

「熱っ」

 さらにもう一発が来る可能性を考えて、なるべくジグザグに走る。

 くそっ、でかい石とか転がってて走りにくい。

 泣きごとばかりが浮かんでくるが、さっきのファイアーボールが頭から離れないため逃げる手(いや、足か)が止まることはない。

 どれぐらい走っただろうか。何かが爆発する音も、俺を呼ぶ声も聞こえなくなっていた。どうやらあいつらの攻撃できる距離からは出たらしい。安心しつつも、しかしどこか恐怖が拭い去れず俺は足がしびれて自転車がこげなくなるまで走り続けた。

 

 気付くと荒野から一転、深い森の中に入っていた。いつ切り替わったかもよく分からない。あの人殺しの集まりから全力疾走で逃げてたんだからしょうがない。

「何だったんだ、あれは……。俺は何で殺されかけたんだ」

 思い出すだけで背筋に震えが走る。しかし、走っている最中がパニックだった分、今は意外と落ち着いている。こういう状況では冷静さが大事になるはずだ。パニックになってはいけない。

「そう、まず何が起きているのかを考えよう。俺はどうやってここに来たんだ。まずそれを思い出そう」

 確かにさっきまでは普通だった日常からどうしてこうなったのか。とりあえずそれを思い出すことで冷静になろう。そう、今日も朝はギリギリに家を出たんだった。


「いってきまーす」

 いつものように母さんに一言かけてから家を飛び出す。帰宅部の俺には朝練なんてものもないし、二年のうちから朝早く勉強しに学校に行くような奇特な趣味もない。全力で走らなくてもギリギリ遅刻しない程度の時間に家を出るのが常だった。

「今日はちょっと間に合わないかも。全力でこぐか?」

 昨日夜遅くまでゲームしてたせいで、朝出るのが十分ほど遅れた。ギリギリを滑りぬける俺には十分の遅れは痛い。

「だけど全力疾走するのもな」

 全力疾走は校門を駆け抜けるまではいいんだが、自転車置き場から教室まで歩くころに疲れが出てきて嫌になる。帰宅部のへなちょこぶりをなめるな。

 となると選択肢は一つしかない。

「近道でショートカットするか」

 広い道を直進していた自転車のハンドルを大きく右にきって、こみごみした路地の方へと入る。少し狭いが、慣れると意外とカーブでもスピードを落とさなくても曲がれるようになる。この近道を考え出してから約三か月は毎日練習したものだ。

「今日も綺麗なターンを決めてやるぜ」

 少し体を傾けつつ狭い路地の角を曲がる。青いゴミバケツやら、放置されたままの自転車やらの変わり映えしない物の横を通り過ぎる時はスムーズに、前来た時にはなかった等身大の人形とかが置いてあるところは、通れるかどうかを頭の中でシュミレーションする。こんなことももう慣れたものだ。

 ここは一本道で狭いから戻るのも一苦労だ。一度前から人が来たときにはお互いに日本人の譲り合いの精神を発揮したせいで、面倒くさいことになった。

 今日はどうやらそんなことはなさそうだ。この危険性がなければ毎日ここを使うんだがな。

 機嫌よく走っていると、少し先の地面が光っている。

「何だ?」

 それはまるでアニメで見るような魔方陣のような形(どことなく怪しさが漂っているが)を浮かび上がらせている。

 やばい。

 直感がそういっている。勘のいい方ではないが、地面に浮かぶ魔方陣を見て何も感じないほど鈍ってもいない。

 しかし自動車だけでなく自転車だってブレーキをかけてもすぐには止まらない。狭い路地のせいで無理やり避けることも出来ない。道の幅と魔方陣の大きさがほとんど変わらないのだ。

 無情にもブレーキは間に合わず、あまつさえちょうど魔方陣の中でぴったり止まってしまう。

 そしてアスファルトが急により一層光りだしたと思ったら、目の前が真っ暗になって、荒野に立ち尽くしていたのだった。

 そして冒険者もどきから逃げ出して今に至る。


これが初投稿作となります。よろしくお願いします。

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