001話 和歌山瑞希-1 なんか命狙われてるみたいです
ここ最近、九死に一生という状況が続く。
トラックが私に突っ込んできたり、電車のホームに落ちたり、上から鉄筋が降ってきたり、銀行強盗に巻き込まれたりと。
今のところ運よく回避できてる。
二回ならまだ偶然と片付けるが、さすがにこういった状況が一週間で十回も続くとだれかに命を狙われているんじゃないかと疑いたくなるものだった。
「いや、先輩・・・・、よく生きてましたね」
寮の同部屋である二人の後輩に話すとそんな感想を述べてきた。
「正直、十回もそんなことに巻き込まれていてやっとそれに気づくなんて鈍いね」
心底心配してくれる美紀と、私の鈍感さを笑いながら指摘してくるうずら。
今年の春から一緒に生活しているルームメイトだった。
一応紹介しておこう。
まずは早良美紀。
この子の見た目は大和撫子を体現したような黒髪ロングな上、整った顔立ちをしており今年度のミス東福学園の最有力候補に上げられている美少女。
さらに成績優秀、スポーツ万能、品行方正となんでも揃っており、彼女の実家は西九州の名家のお嬢様という天から全てを与えられているといっても過言ではない逸材だった。
人当たりもよくどこのスーパーウーマンだと言いたくなる美紀だが、あくまでそれは外面。
彼女と同部屋になり仲良くなってから発覚したことだが本性に難がある。
そのうち披露されると思うのでここは割愛しておこう。
もう一人は一場うずら。
北欧美少女を彷彿させる金髪碧眼。
この子も整った顔をしており、美紀と双璧を誇る今年度入学の二代美少女の一人に数えられ、当然のようにミス東福学園にノミネートされていた。
どんなことがあっても表情を崩さず、凛とした雰囲気からクールビューティと持て囃されていた。
父親は美食家なるどうやって収入を得ているのか謎な職業についてると彼女は語っていた。
・・・・・・しかし彼女の本性も当然のように難がある。
すぐにそれを披露してくれるだろうからここでの説明は敢えて省かせてもらう。
そんなこんなで日本人形のような美少女と西洋人形のような美少女に囲まれて生活しているため平々凡々な私に嫉妬する輩がいるのか、そこそこな嫌がらせされてきた。
命に関わるものでも無いので笑って仕掛けてきたやつをぷちっと潰すが・・・・・。
まあ、この二人は私の可愛い後輩で、慕ってくれている・・・・・・・・と思う。
「で、命を狙われる心当たり無いの?」
「そんな心あたりあったら苦労はしないー」
うずらはじとっとした目で私を見つめため息をついた。
「まあ、瑞希の性格ならなんか仮にあったとしても気付かないのがオチか」
「ここ一週間で一連の事故が立て続けに起きてるわけですよね。 つまり何かあったとしたらその一週間から数ヶ月で何かあったと考えたほうが良さそうですね」
美紀は、んーーっと人差し指を顎に当て考え込む。
起点が数ヶ月も範囲に及ぶならまあ、心当たりが無いこともない。
口にしないが先に述べたとおり彼女たちが私に懐いているのも要因として考えられる。
・・・・・・・でも私を殺してまで私の今いる座に座りたいものか?
彼女たちをよく知る身としては幻滅しかないのだが・・・・・・・・・。
「なんか瑞希、良からぬ事考えてるね」
「先輩、顔に出てます」
「ナンノコトデショーネ」
二人の非難の篭った視線を軽く流しながらここ数ヶ月のことを考える。
特にコレといったことは考えても思いつかなかった。
「ふーーーむ。 しかし全てが事故、偶然に装った殺人計画、個人程度の私怨が原因とは考えにくいかな・・・・」
うずらはスマートフォンを取り出し、どこかに電話をかける。
「もしもしボクだ。 ちょっと調べて欲しいことがある・・・・・・」
「うずらちゃんは一体どこに電話してるんでしょう?」
「・・・・・・・わたしが分かるわけ無いじゃない」
うずらは静かにと強調するように私たちのほうを向いて人差し指を鼻の上に立てる。
「ああ、ここ最近東福学園周辺で活発的に動いてる組織はないか調べてくれないか? ・・・・・・・・なに? ・・・・・・・・・・・・それは本当か? 間違いないのか? ・・・・・・・・・・・・・・ああ、わかった、ありがとう。 なに・・・・・・? 気持ち悪いとはなんだ、気持ち悪いとは。 ボクがお礼を言うことがそんなに可笑しいか? そうか、貴様、そんなにボクを敵に回したいのか? あ? ・・・・・よしよし、わかればいいんだ。 ボクも暇ではないがいずれこの礼はさせていただく、覚悟しておけ。 それはそうとしばらくその周辺についての情報をできうる限り集めておいてくれ」
ピ。
うずらは電話を終話させる。
「うずら、あんたいったいどこの誰と話していたの?」
「そんな些細なことはどうでもいいよ。 しかし瑞希、藤秀会に心当たりはない?」
「・・・・・・・・・・・・・・藤秀会? あのヤクザの?」
今のところ私はヤクザに関わったことは無いしこれからもできるだけ関わりたくは無い。
結論から言うと一切心当たりは無い。
「まったくないね」
「その足りない頭でよーーーく考えて。 瑞希、君の命に関わる重大なことだよ。 日ごろのボケはひとまず捨て置いて記憶の回廊を紐解け」
「遠まわしどころか直球でバカって言われている気がする・・・・・・・」
「そんな事実今更だよ。 とっとと思い出す」
このようにうずらという美少女は先輩である私を呼び捨てで呼び、敬意のけの字も感じさせない尊大な物言いをする。
さっきも口走っていたが稀に難解のように見せかけて無意味かつ言葉の用法の使いどころを間違った言い回しをするのが特徴だ。
記憶の回廊を紐解けって、つまりは思い出せって言ってるんだろうけど・・・・。
「そんなバカなこと回想してる暇などないだろう。 とっとと記憶の回廊を紐解け」
「えー・・・・」
「いいか、瑞希。 純然たる危機が今目の前で起きてるのにそのふぬけた態度はなんだ。 今までは幸運を持って退けれたが次も退けれるという保障は一切無い。 君は藤秀会に狙われているのは間違いないんだよ」
「・・・・・・・・・・・・・へ?」
「ちょ。 うずらちゃん、それどういうこと!?」
「さっき知人からリークしてもらった情報によると藤秀会が瑞希を殺したものに賞金を懸けている。 金額にして十億。 目の色を変えて瑞希を狩ろうと闇の住民どもが蠢いている。 よく今日今の今まで無事生きていたものだと逆に感心するレベルだよ」
「え、じゃあ私本当に命狙われてるの!? な、なんで??」
「だからその要因を思い出せと言っている」
と言われても心当たりは一切ない。
美紀もスマートフォンを取り出しどこかに電話を架け出す。
「・・・・・・美紀です。 すみませんが情報提供お願いします。 東福学園の和歌山瑞希が藤秀会に狙われる理由について何か情報ありますか? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい、お願いします」
「美紀、あんたどこに電話かけて・・・・・・・?」
「いい女に秘密は付き物ですよ?」
ニッコリと美紀は微笑んだ。
うずらといい美紀といい女子高生とは思えない怪しげな人脈をもってるものだね。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
いきなり美紀の声調に怒気がはらむ。
「そんなくだらない理由で私の先輩の命を狙ってるんですか?」
いっつも思うんだけど美紀はなんで対外に向かって私を指す場合「私の」をつけるんだろう・・・・・。
「そんな些少な問題はこの際どうでもいいよ。 美紀の情報筋が原因を特定しているのは僥倖。 原因がわかれば対策を立てることも可能かな・・・・・・・」
うずらはひと段落と言わんばかりにソファに深く腰掛ける。
「・・・・・・・・・・・・・・・ありがとうございます。 それでは皆様に宜しくお伝えください」
ピ。
電話を切った後、無言でスマートフォンをにらみ付け沈黙する美紀。
しびれをきらしたうずらが
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・で? 瑞希は何が原因で藤秀会に狙われているの?」
と、問いかけた。
「あまりにも馬鹿馬鹿しい理由です。 詠勇会の御曹司が先輩に一目ぼれをし、婚約関係にあった藤秀会の一人娘との婚約を破棄したのが原因のようです」
「・・・・・・・・・・・・・・・は?」
「ちょっとまって、詠勇会の御曹司って三十路超えてなかったっけ? 何分別の付かない我侭やってくれちゃってんの。 藤秀会と詠勇会の停戦条約ともいえる婚約を一方的に破棄!? 藤秀会にしたら顔に泥ぶっ掛けられる以上の恥辱に等しいことだよ! それにそんなことしたら日本中のヤクザが大抗争起こすよ!! そんなこともわからんで一方的に婚約破棄!? あのバカボンは何考えてるん!?」
「ええ、ですからうずらちゃんが掴んだ情報に結びつくわけです。 藤秀会、詠勇会ともに破滅にしかならないとわかりきってる全面抗争なんて結末は望んでいない。 しかしバカ御曹司の暴走は止まることなく婚約破棄を宣告。 困った両組織幹部連は原因となった先輩を亡き者にすることでその場を収束しようとして先輩の命に十億の懸賞をつけたみたいですね」
「・・・・・・・・確かに瑞希が死ねばバカ御曹司は瑞希を諦める、っていうことか」
「えーーーーと、ちょっとまってね。 なんでそんな大きな話になってるの?」
そんな大事件の当事者になってしまってる私は混乱した。
というか二人ともなんでそんなに裏社会の事情に詳しいのー?
そもそもさっきから話題に上がってる御曹司って私面識ない・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いや、あの男かー。
確か1ヶ月前だっけか。
ぷらぷら繁華街一人でぶらついてたらダブルのスーツを着た三十路くらいのあんちゃんが道に迷っているのかタブレット片手にきょろきょろしてたっけ。
高そうなスーツ来て年分相応の茶髪のあんちゃんだったからてっきりホスト類かと思ってたが・・・・・・・。
ヤクザの御曹司だったのか。
とりあえずどうしたんですかーと声をかけて案の定道に迷ってたらしく。
目的地聞くも、口で説明するのもめんどくさい場所だったし、どうせ暇つぶしでぷらぷらしてただけだからいっかーってことで目的地まで連れて行ったんだっけ。
お礼は必ずするとかなんとか言ってたけど、めんどくさいからきにしないでくださいーって別れたんだったっけ。
なんとなーく、浮世離れしたよーなこと口走ってた気がする。
なるほど、箱入り娘ならぬ箱入り息子なんだろーな、と思っていたがやっぱりそうだったんだ、へー・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
まってまって。
どこに私に惚れる要素があるの?
道案内しただけだよ?
うずらや美紀ならともかく私平凡な顔立ちだし。
「明らかに浮いてる人間に何事も無いように話しかける、金目当てでも権力目当てといった雰囲気もない、困ったところを無償で助ける。 十分すぎる高材料だわ」
「・・・・・・・・・・・・・・・先輩、迂闊すぎます」
えー?
「まあこの際起点なぞ知ったところでどうしようもないね。 で、・・・・・・・・・・・・瑞希、今自分の置かれてる状況わかった?」
「本当、これどういう一手を打てばいいんでしょう? これ御曹司が諦めるか、先輩が死なない限り収まりつかないんじゃないですか?」
「いや、仮に御曹司が瑞希を諦めたところで婚約破棄をあのバカボンは宣言してるんだ。 バカボンが瑞希を諦めましたって宣言したところで藤秀会は顔に泥を塗られたことに変わりない。 これ、瑞希が死なない限り収まらないよ」
物騒な結論に到達する美少女の後輩たち。
私が死ななきゃクリアできないって酷いクソゲーがあったもんだ。
んーー。
つまり私が殺されるか自殺しなきゃ終わらないってことは・・・・・・・・・・・・・。
あれ?
「いやだーーーーー、死にたくないーーーーーーー!!!」
私はごろごろと転がりながら悶絶する。
「先輩、逃げましょう!!」
そう希望の光を提示したのは天使美紀だった。
しかし、悪魔うずらは追撃する。
「どこに? たとえ海外に逃げたとしても藤秀会、詠勇会双方の同盟、従属、提携組織は世界中あらゆる国に点在してるんだ。 月とか地底世界とか海底とか人がいないところにでも逃げない限り逃げ切れないよ」
「絶対追ってこれないところに逃げればいいんです!!」
「具体的にどこさ?」
「異世界です!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
はい??
久しぶりすぎる投稿。
最後に投稿したのいつだったか・・・・・。
今回は失踪しないで書ければなあと思っております。