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真実の強さ

「イセリナよ、恐いか?」


「正直、恐いわ。でも、大丈夫……イシュケル、あなたがいるから……」


「フッ……戯れ言を。イセリナよ、必ず生きて帰るぞ!」


「ええ」


 イシュケルとイセリナは、互いの意思を確認し合うと、すかさずジュラリスに駆け込んだ。

 ほとんど体力も残っていないのにも関わらず、二人は攻撃の手を休めない。

滲んだ血が鎧を真紅に染め上げていく。


「貴様ら、ここから生きて帰れると思うなよ!」


 ジュラリスは、灼熱の炎を撒き散らしながら、鋭い爪を所構わず乱雑に放つ。

その攻撃の一つが、イセリナを直撃し、引き裂かれた鎧から露になった皮膚を抉る。


「キャァァ……」


 ポタポタと血は流れ落ちるが、ウッディが瀕死の今、回復の手立てがない。


「貴様――っ!」


 覚束ない足取りで、イシュケルは力を振り絞り、ジュラリスを斬りつける。

相当なダメージを与えている筈だが、ジュラリスは倒れようとしない。

むしろ、徐々に回復傾向にあった。


「イシュケル……私……絶対に諦めないわ」


 痛々しい姿のイセリナは、イシュケルにそう言った。

その姿を見ていたサハンは言う。


「もうやめて――皆が傷付くのを見ていられないよ!」


 そう言うと、天井から漏れたクレセント(三日月)の光が、サハンを妖しく包み込む。


「こ、これは。この力は? なんだろう……凄く暖かくて、懐かしい感じがする…………そうだ、この力を、僕の力を受け取って! これが今僕に出来ること……」


 サハンは両手を広げ、眩い光を放つと光はイシュケルとイセリナに吸収されていく。


「な、なんだこの力は?」


「凄いわ、力がみなぎってくる……」


 イシュケルとイセリナの傷口は、みるみる塞がり、想像もつかない力が溢れていった。


「いける、いけるぞ! イセリナ、もう一度、真・天地壮烈斬だ。俺の魔斬鉄と、融合するのだ!」


「わかったわ。この一撃に全てを賭ける!」


 イセリナはジュラリスの前に立ちはだかり、イシュケルはジュラリスの後方を狙う。


「ちょこまかと……くたばりぞこないが!」


 ジュラリスは、余裕を見せ様子を伺う。


「今だ! イセリナ! ジュラリスこれで最後だ!」


「真・天地壮烈魔斬鉄――っ!」


 イシュケルとイセリナは、声を合わせそう叫んだ。


 今、善と悪の刃が一つになる――。


 イセリナの伝説の剣は、更に残像と破壊力が増し、イシュケルの嘆きの剣は、鋭さを増した。


 ジュラリスの肉片は無惨に飛び散り、上半身と下半身に別れた。


「ぐぁぁぁ……無念……」


 ジュラリスは断末魔を上げながら、息絶えた。


「ふう……今度こそやったみたいね……イシュケル、ありがとう……」


 しかし、イシュケルは呆然と立ち尽くし、返事をしない。


「イシュケル? イシュケル! どうしたの?」


「…………今すぐ……そいつらを……連れて、ここを離れろ!」


 イシュケルの目は妖しく赤く染まり、明らかに様子がおかしい。


「イシュケル! ねぇ、どうしたというの?」


「俺の言う事が聞けないのか!」


 イセリナは、急変するイシュケルに驚きを隠せない。


「…………イセリナよ、すまない。どうやら、ジュラリスが俺に放った技が体内で、邪悪な心を引き出しているようだ……俺に意識があるうちに……早く!」




「……出来ないわ! そんなこと。だって、あなたは大切な仲間。そして、私はあなたを愛している……」


「……イセリナ。俺もお前を愛している……。だからこそ……は、早くしろ!…………う、……うぐぁ……」


 イシュケルは、鋭い眼光を見せ、イセリナを睨み付ける。

途端に、イシュケルはイセリナ目掛け剣を振り抜く。

もう、イシュケルに芽生えた良心はなく、魔王としての邪悪な心だけになっていた。

 イセリナは、イシュケルの攻撃を受け止めるだけで、反撃しようとはしない。


「二人共やめてよ……ねぇ……」


 サハンの悲痛な叫び声は、二人には届かない……。


「イシュケル……目を覚まして……本当のあなたは、優しくて……思いやりがあって……」


「ぬかせ! イセリナ……俺は冷酷、冷血……破壊こそが、全て……」


 イシュケルは完全に悪に洗脳され、イセリナを無惨に斬りつける。


「お姉ちゃん……」


 サハンはただ見守ることしか出来ず、涙を流した。


「破壊こそ……悪こそ、この世で一番美しい……」


「違うわ! 友を思いやり、正義こそが誠の強さよ……」


 イセリナは初めて、イシュケルの攻撃を弾き返した。

 すると、イシュケルは攻撃をやめた。

僅かに残っているだろう良心と、彼もまた戦っているのだろう。


「…………正義……か」


「ええ、そうよ」


 イシュケルは、イセリナの言葉に反応すると、頭を抱えもがき苦しみ始めた。



「うぉぉぉ……俺は一体何者なんだ――っ!」


 イシュケルは、怒号に似た叫び声を上げると、再びイセリナを斬り付けた。

剣先は、イセリナの喉元を向ける。



「いいわ。あなたに殺されるなら……」

            イセリナは、全てを受け止め、瞳を閉じ涙を流した。


「イセリナよ……何故泣く」


「……あなたを助けられない自分が、情けなくて……」


 イシュケルは何も言わず、剣を納めた。

イセリナも、剣を納める。


「イシュケル……あなたを愛している」


 イセリナは、イシュケルを強く抱き締め、口付けをした。




「…………俺は、一体……」


「イシュケル、正気に戻ったのね?」


 イセリナのイシュケルを思う愛の力が、邪悪な心を浄化し正気に戻した。


「イセリナ……すまない。また、お前に助けられたようだ……」


「いいの。あなたが、生きていてくれれば……」


 イシュケルとイセリナは、見つめ合い再び抱き締め合った。


「見てらんないよ~」


 サハンは、赤面させながら、ウッディと暁の介抱をした。


「さぁ、帰ろう! 俺達の世界へ」


 クレセント(三日月)を望む天井から、黒龍が駆け付ける。


「黒龍よ、頼んだぞ」


「ギャォォォン」


 黒龍は咆哮を上げると、イシュケル達を背に魔界ゲートに飛び立った。

空から見下ろす忌々しいガルラ牢獄は、音もなく崩れ去った。


 人間界へ戻ると、何事もなかったかのように、街は賑わいを見せる。

ここに世界を救った勇者と魔王がいるとも知らず……。




 それから数年が経った。

かつて不可能と言われていた人間界と魔界は共存し合い、人間とモンスターは、仲良く暮らしていた。



 イシュケルは魔界を治め、現実の世界へは戻らず、この仮想現実で生きていくことを選んだ。

 イシュケルの横にはイセリナ。

もうすぐ、新たな命が芽生えようとしている。




 例えこれから先、再び悪が蔓延ろうとも、勇者と魔王の間に生まれた子孫が、討ち滅ぼしてくれるであろう。



 イシュケルとイセリナは、出逢えた奇跡を噛み締めていた。





Fin


最後まで読んで頂きありがとうございます。

最後なので、評価や一言でいいので、感想頂けると助かります。



告知として、次回『俺に可愛い妹がいたなんて』という作品を投稿する予定です。

宜しければ、またお立ち寄り下さい。

ご愛読ありがとうございました。

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