表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

70/79

災いの再会

 血生臭い肉体を露出させ、半身を獣と化した生物。

それは、イシュケルが一度は苦楽を共にした人物、姿は変われど紛れもないマデュラだった。


「マ、マデュラ! 貴様、生きていたのか?」


 イシュケルは、全身の血が引くのを感じながら、そう叫んだ。


「おやおや、だいぶ驚かれているご様子。一度は死したが、ジュラリス様は寛大なお方。私の魂を拾い、命を下さった……イシュケル! このマデュラ、二度は負けませんぞ。覚悟!」


「小賢しい……戦いを舐めるなよ。生死の狭間を潜り抜けてきた俺に、敵うと思うか? 再び三途の川に送ってやる……皆は下がっていてくれ。こいつは俺がやる」


 イシュケルがそう言うと、イセリナ達は後退した。

 マデュラはそれを見逃さず、後退するウッディに追撃しようとした。

マデュラの獣と化した右手の鋭い爪が、弧を描く。


「汚いマネを!」


 マデュラが、攻撃をしようとしたその時、イシュケルはその爪を弾き飛ばした。


「くっ、腕を上げたな……」


「マデュラよ、お前の腕が落ちただけではないのか? フハハハっ!」


「己れ、言わせておけば……」


 マデュラは、両手をイシュケルに向け、爆発性のある魔法を放った。

突発的なこともあり、イシュケルは避ける間もなく漆黒のマントに身を包んだ。


「これしきの攻撃! マデュラよ、貴様にはがっかりさせられた。このような卑劣な攻撃しか出来ぬとは」


 イシュケルは、マントを翻し、マデュラを鋭く睨み付けた。

鞘から嘆きの剣を抜き、そのまま血生臭い肉体を斬り裂く。

腐敗した右腕は、血煙を上げながら放物線を描いた。


「ウギァァァ……ハァ、ハァ。コケにしおって。お前を育てた恩を仇で返すとは……」


「礼は言おう。だがな、自惚れぬなよマデュラ。お前の方こそ、俺を裏切ったのだ。二度と舐めた口を聞くな!」


 イシュケルは、更に攻撃を続け、マデュラの左腕も宙を舞った。

両腕を失ったマデュラは、何か気が狂ったように不敵な笑みを浮かべる。


「何がおかしい! お前に勝ち目はない筈だ!」


 マデュラは、膝を付いた姿勢から、ヨロヨロと立ち上がり、イシュケルにこう言った。


「見事だ。お前には勝てん。だが、私とて魔族の端くれ。プライドはある」


 今にも倒れそうな歩みで、イシュケル達の周りを徘徊する。

イシュケルは、視線を反らさず剣を構えたまま様子を伺った。

 やがて、歩みをやめたマデュラは言った。


「今の私に、出来ることと言ったら、情けないがこのくらいだ……」


 それまでの、足取りとは異なり、マデュラ突如サハンの前に立ちはだかった。


「死ね!」


 マデュラは、そう言い添えると、けたたましい音を立てながら自爆した。


「しまった! サハ――ン」


 城内の石壁が露になり、ゴツゴツとした石が転がり、砂ぼこりが舞う。


「サハン!」


 慌てイセリナ達は、落下した石をどかしサハンを救出した。


「……」


 イシュケルは、何も言えず、呆然としてた。


「自らの強さに溺れ、またしても仲間を危険な目に合わせてしまった……」


 イシュケルは、不甲斐なさに自らを責めた。


「いててて。大丈夫だよ。僕は生きているよ。僕だって、生死の狭間を生き抜いて来た、戦士だかね。自分の身は、自分で守るよ」


 その言葉を聞いて、イシュケルの中に引っ掛かっていた何が、消えて言った。


「誰も、責めないぜ。仲間だからな」


 ウッディは、イシュケルの肩を抱いた。


「さぁ、先に進もうぜ」


「ウッディ……サハン……ありがとう」


 イシュケルは心から初めて、感謝の言葉を述べた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ