封印を解け
ガルラ牢獄を目前にすると、例の結界がイシュケル達を襲う。
気が狂いそうなほどの痛み。
この痛みを再度味わったイシュケルは、他の仲間を気遣いながら結界を越えるのをじっと待った。
やがて、魔導船は結界を抜け、ガルラ牢獄目前で不時着した。
魔導船は、結界のバリアに何とか耐えたものの、多大なる負荷が掛かりエンジンが焼き付いていた。
恐らくこの船で引き返すのは無理だろう。
進むことも、引き返すことも出来なくなった魔導船を見つめながら、イシュケル達は船を降りた。
目の前には、あの忌々しいガルラ牢獄の門。
イシュケルは改めて門の横に書かれた言葉を読み上げた。
『光と闇が合わさりし時、道は開かれるであろう』
イシュケルが読み終えると、イセリナがまず反応した。
「これが、以前言っていた封印……」
イセリナが、イシュケルに目をやると、イシュケルはイセリナにこう言った。
「イセリナ……。わかっているな? これは、我々二人が力を合わせねば解けぬ封印。光は勇者、つまりイセリナを指し、闇は魔王の俺を指す。本来なら、交わることのない二人が力を合わせねば、解けぬ封印だ。それほどまでに、ジュラリスの力は、我々に取って脅威と言うことだ。ラックの野郎も手のこんだ封印を施しやがる……」
「ちょっと、待てよ。だったら封印を解かずにこのままにしていたら、いいんじゃないのか?」
間髪入れず、ウッディが駆け寄る。
「以前、俺もそう思った。しかし、どの道ジュラリスは復活し、この封印を解き人間界も魔界も恐怖に陥れるであろう。だから、叩くのは復活する前の今しかないのだ。ジュラリスは、歴代の魔王を影武者として育て、そいつらを生け贄にすることで、力を蓄えてきた。先の戦い、すなわちラック達が封印した時から数えると、恐らく四人ほどジュラリスの生け贄になっているだろう……ウッディよ、俺の言いたいことがわかるか?」
ウッディを初め、イセリナ達は、イシュケル自体も生け贄の対象だったことを、初めて知った。
「やろうよ、僕らでやってやろうよ」
暁は、皆を鼓舞するかのように、力強く言うと、皆それに同調した。
「そうだな、それしかなさそうだしな。皆死ぬなよ」
ウッディは、決戦を前に明るく振る舞った。
「では、封印を解くぞ。イセリナ頼む」
「ええ、わかったわ」
イシュケルが、門に描かれた闇の紋章に触れると、紋章は光輝いた。
続けてイセリナも、光の紋章に触れると紋章は光輝き、闇と光の紋章が一つに重なった。
闇に包まれた魔界が、一瞬眩い光に包まれ周囲を照らす。
「どうだ? これで、門は開く筈だが……」
イシュケル達は、門に目を奪われ、固唾を飲んだ。
「お願い、開いて……」
イセリナがそう言うと、イシュケルも同じ気持ちで祈った。
すると、何かがパリーンと音を立て崩れ落ち、強固な門は犇めきながら開かれていった。
「やったぜっ!」
ウッディが、喜びを隠せず飛び上がると、イシュケルはそれを抑止した。
「喜ぶのは、まだ早い。何があるか、わからん。慎重に進むのだ。それに伝説の剣も見付けなくてはならないからな」
ウッディは、素直にイシュケルの言葉を聞き入れ、警戒しやすい陣形を暁と共に取った。
バックアタックされた時の為の、予防的なものだ。
普段陣形など、気にしなかったが昨夜の話し合いで、万全を尽くすと決め、今回新たに導入することに踏み切った。
ガルラ牢獄の内部。
長い間、誰も踏み入れなかった筈なのに、生物の気配が感じられる。
しかも、生臭い獣臭のようなものが鼻を付く。
誰もが、何かいるなと感じとったその時、イシュケル達の行く手を阻む者が目の前に現れた。




