久しぶりの再会
暁とサハンは、命のクリスタルを抱えながら、下山を試みた。
その途中、途中、イシュケルを探したが、イシュケルも黒龍も発見することは出来なかった。
諦めかけたその時、暁の耳は何かを捉えた。
「黒龍? 黒龍なのか? 僕はここだよ」
しばらくすると、聞き覚えのある咆哮がこだまし、その姿も肉眼で捉えるとこが出来るようになった。
「黒龍――っ!」
暁が叫ぶと、黒龍は一直線に飛んできた。
背中には気を失ったイシュケルがいた。
「イシュケル……良かった、生きていたんだ。黒龍が助けてくれたのか?」
「ギャォォォン」
黒龍は暁に返事をした。
「黒龍……ありがとう。本当にありがとう。こんなに嬉しいことはないよ……」
暁は何度も、黒龍の首に愛撫した。
「サハン、空中庭園に戻ろう。皆が待ってる」
「うん。そうだね」
暁とサハンは、イシュケルを抱えながら、黒龍の背中に乗り込んだ。
「黒龍、頼んだよ」
黒龍は、暁に反応すると一気に、急上昇し空中庭園へと向かった。
全身に風を受けながら、希望を感じていた。
「おじいちゃん! 暁お姉ちゃんが、命のクリスタルを見付けたよ!」
サハンは真っ先に黒龍から降り、リードのもとへ駆け寄った。
「まさか、本当に命のクリスタルを手に入れるとは大したもんじゃ」
「それはそうと、おじいちゃん。イシュケルさんをお願い」
「これは、いかん。早急に手当てをせねば」
リードは、杖を振りかざしイシュケルに祈った。
「うぐっ……ここは?」
リードに傷の手当てをされ、イシュケルは目を覚ました。
「イシュケル、良かった生きていたんだね」
「暁、すまなかった。あの時、黒龍がいなかったら、俺は死んでいただろう……」
イシュケルと暁は、互いの無事を確認すると、これまであったことを話した。
「暁、すまなかったな。サハンよ、見直したぞ」
暁もサハンも、イシュケルに褒められ、心なしか表情が穏やかになっていた。
「話の最中すまぬが、祭壇に来てくだされ。儀式の用意が整った故に」
リードがそう述べると、イシュケルと暁とサハンは、リードと共に祭壇に向かった。
いよいよ、二人が生き返る。
二人の前に命のクリスタルが捧げられ、儀式は始まった。
リードは、両手を掲げ、何やら呪文のようなものを唱える。
初めてのことに、残りの天空人も興味深く見守る。
もちろん、この儀式の中心のリードもかなりのプレッシャーがあった。
一瞬、祭壇に静寂が訪れる。
「ふぅ、これで生き返るはずじゃが?」
数秒、いや数分?それは長い長い時間に思えた。
確かに刻まれる時。
耳鳴りがするほどの静寂。
誰も、その場から動こうとはしなかった。
少なからず『もし、失敗していたら』そんな不安があったのも、確かである。
「ん、ん~」
二人の亡骸のうち、一体から声が聞こえた。
ウッディだ。
思わず暁はウッディに駆け出し、抱き付いた。
「ウッディ、会いたかった……会いたかったよ~。僕、頑張ったんだよ……」
「すまなかったな、暁。俺、生き返ったんだな。ありがとう」
ウッディは、暁の顔を再度確認すると、暁をきつく抱き締めた。
「ウッディ、恥ずかしいってば。皆が見てる……」
リードら天空人も、その微笑ましい光景を見て安堵の表情を見せる。
しかし、イセリナはまだ目を覚まさないままだ。
たまらず、イシュケルはイセリナに駆け寄った。
「イセリナよ、目を覚ませ! 俺だ、イシュケルだ! 頼む……目を開けてくれ……」
イシュケルは、イセリナを抱き抱え、何度もその名を叫んだ。
「…………ル」
微かにイセリナの唇が動き、何かを言おうとしている。
「イセリナ、イセリナ――っ!」
「イシュ……ケル……」
イセリナが目を覚ますと、イシュケルはイセリナを抱き締め口付けをした。
「すまない、イセリナ。お前を守れなくて…………」
「イシュケル……」
イセリナが確かにその名を呼ぶと、それに答えるようにイシュケルは、再びイセリナに唇を重ねた。
「やれやれ、見てらんないな」
ウッディがそう言うと、皆が笑った。
それは、久しぶりに皆が揃ったという意味も含んでいた。
しばし、和やかな雰囲気を堪能すると、イシュケル達はリード達に礼を述べた。
「では、我々は行ってみます。色々お世話になりました」
イセリナは、深々といつまでもリードに頭を下げていた。
「顔を上げてくれ。一つ頼みを聞いてはくれぬか?」
リードは、頭を下げるイセリナに言った。
「私に出来ることなら……」
「今持っている伝説の武具を全て装備してはくれまいか?」
「ええ、わかりました。では、着替えてまいります」
しばらくすると、全身伝説の武具を装備したイセリナが、姿を表した。
「あとは、伝説の剣だけじゃな。恐らく剣は魔界じゃろうて。古文書にも書いてあるはずじゃ。持っておるんじゃろ?」
「はい、ここに」
「うむ。それではこれは、我々天空人からの餞別じゃ」
リードを含む天空人が皆祈りを捧げると、イセリナ達の装備は修復され、全員の力が強化された。
「何だ、この力すげ~」
ウッディは、自らの力に驚きを隠せず、喜んだ。
「リード殿、素晴らしい力を忝ない……」
イシュケルも、敬意をはらった。
「世界を、未来を頼んだぞ!」
イシュケル達は力強く頷くと、魔導船に乗り込んだ。
「サハン、お前は行かんでいいのか?」
「おじいちゃん……ありがとう! 僕、頑張ってくるね」
サハンは、リードにそう言うと、魔導船に駆け出した。
「おーい! 待ってくれよ。僕も行くよ」
「掴まれ……」
浮き始めた船に飛び乗り、イシュケルの伸ばした手を掴んだ。
「よし、これから我々は、魔界へ行く。伝説の剣を探しだし、ジュラリスを叩く。恐らく、それが最後の戦いになるだろう。覚悟はいいな?」
イシュケルがそう言うと、それぞれが奮起し覚悟をかためた。
一行を乗せた船は、魔界ゲートを抜け決戦の地となる魔界へと向かった。




