アルザス現わる!
二階に辿り着くと、モンスター達の猛攻は更に激しさを増す。
イシュケルは複雑な心境だった。
自ら呼び出したモンスターに裏切られ、自ら手をくだす。
そう、災いの元凶は、彼自身の所為でもあった。
それを知ってか知らずか、イシュケルを除く他のメンバーは、手際よくモンスターに対応していく。
やがて、大広間を抜け長い廊下を隔てた先に、謁見の間が見えてくる。
その中央に位置する王座には、骸が鎧を纏ったモンスターが鎮座して、鋭い眼光をギラつかせている。
恐らく彼がアルザスなる男だろう。
イシュケル達が、近付くとその男はこう言い放った。
「これは、これは、イシュケル様。ようやく御到着ですか? 待っておりましたよ。申し遅れました、私の名前はアルザス。いずれ、魔界の王になるべき男……これは、挨拶がわりです」
アルザスは丁寧に挨拶すると、人差し指をイシュケル達の方に向けた。
すると、アルザスの背後から無数の剣が発射され、イシュケル達を襲う。
イシュケル達は、素早く反応し、その無数の剣を軽々とかわす。
「さすがですね。私の挨拶、気に入ってもらえました?」
アルザスは、見下すような態度だ。
「気に入らんな。アルザスとか言ったな? 恩を仇で返すとはこのことだな。誰のお陰で、ここに居れると思っている!」
「これは、酷い言われようですな。あなたには感謝していますよ。私に魔王になる機会を与えてくださったのだから……安心して下さい。魔族は、あなたに代わって、私が取り仕切りますよ。正義のない悪の世界を……」
「何だと? お前ごときに、俺も舐められたもんだな。所で、天空人は無事なんだろうな?」
「はて? 知りませんな」
「惚けないでよ!」
拳をかため、前に出るサハンを、イシュケルは抑止した。
「サハン、落ち着け!」
イシュケルの言うことに従い、サハンは後方に下がる。
「これ以上、お前との会話は、無駄のようだな。そこは、俺の王座だ。その汚いケツをどけろ!」
「何だと? もはやこの城は私の物だ。イシュケル様、いやイシュケル! お前には帰る場所はない。そのちっぽけな人間どもと共に、屍を晒すがいい……死ね!」
アルザスは、ようやく王座から立ち上がり、横に置いてあった大剣を手に取り構える。
一見隙のある構えだが、『口だけではないな』とイシュケルは感じていた。
もちろん、イセリナ達もそれは感じていた。
「イシュケル……アルザスは、口だけではないようね」
「あぁ、その様だな。だが、イセリナよ。俺達は、こんな所で苦戦している場合ではないのだ。俺の言いたいことが、わかるな? 一気に畳み掛けるぞ!」
イシュケルが、そう言うと、まずイセリナがアルザスに向けダッシュし切り込む。
それに続くようにイシュケルも後を追う。
前衛は、この二人に任せ、暁とウッディは援護の為、後衛に回る。
言葉を交わさずとも、身に付いた陣形である。
アルザスは、イセリナの攻撃を弾き返し、すぐさまイシュケルの攻撃に対応する。
続いて、ウッディの炎の魔法と暁を乗せた黒龍の灼熱の炎が、アルザスを狙うが意図も簡単にかわされた。
この間、僅か五秒と言ったところか。
アルザスは、冷静に対応し、ダメージはない。
「まさか、これほどとは」
イシュケルは、ポツリと呟いた。
未だ、全力ではないものの、これだけの連携攻撃をノーダメージで切り抜けたアルザスに驚きを隠せなかった。
「次は私の番だな……行くぞ!」
アルザスは、再び鋭い眼光をギラつかせると、イセリナに向け一直線に飛び込んで来た。
アルザスの大剣が、イセリナに向け振り落とされる。
辛うじて、イセリナはそれを防いだが、不覚にも剣が手から離れ床に落ちた。
謁見の間の石造りの床に、鈍い金属音が響き渡る。
「し、しまった……」
イセリナが、そう言う頃には、アルザスの次の一手が、頭上に迫っていた。




