実力の差
「ぐぁぁ……。こ、こうなりゃ、ヤケだ。我が、イシュケルを倒して魔王になってやる」
ケンタウロスは、蹄の蹄鉄を鳴らしながら、剣先をイシュケルに向ける。
それに答えるように、イシュケルも剣を構え直す。
「貴様なぞ、赤子を捻るより容易い。覚悟はいいな?」
イシュケルは、軽やかにバックステップを踏み、助走を付けケンタウロスに斬り掛かった。
ケンタウロスも負けじと、その剣を受け流し反撃に出る。
二度、三度とそれを繰り返し、二人は再び間合いを取る。
「ケンタウロスよ、聞きたいことがある」
「ハァ……ハァ……何だ」
イシュケルの問いに、肩で息をしながらケンタウロスは答える。
「ルビデスパレスは、アルザスと言う奴が乗っ取っていると言うのは本当か?」
「……ハァ……本当だ。アルザス様は、伝説の武具を利用し、大きく進化なされた。ここで、我を倒したところで、お前に勝ち目はない。アルザス様が、お前に代わって魔王になるのだ」
「たわけたことを……俺こそが、魔王に最も相応しい。俺が留守の間、ルビデスパレスを低レベルなモンスターに任せたのが、間違いだったな……」
「低レベルだと? 我に苦戦してる分際で何を言う。イシュケル! お前の時代は終わったのだ」
「苦戦だと? この俺がお前に? これが、全力だと思ったのか? 笑わせるな……これは、ケンタウロス、お前から情報を聞き出す為の作戦に過ぎん」
「強がりを……」
会話をしながら、ケンタウロスは息を整える。
これも、イシュケルの作戦だった。
息を整え、平常心が戻ってから一気に恐怖を与える。
イシュケルは正に、ケンタウロスに制裁を喰らわせようと、していた。
会話が途切れると、ケンタウロスはもう一本、剣を取りだし両手に構える。
「フッ……実力もないのに、二刀流とは。何処までも、俺を笑わせる。フハハハっ……」
珍しくイシュケルは腹の底から笑った。
「イシュケル、許してあげたら? あなたの勝ちよ」
その様子を見て、イセリナが哀れみの言葉を投げ掛ける。
「くっ。女に心配されるとは……魔族の名折れ。ここからは、全力だ――っ!」
ケンタウロスは駆け出すも、先手を取ったのはイシュケルだった。
鈍い金属音と共に、埃が舞い上がる。
「魔斬鉄……だ」
イシュケルは、目を閉じながら、剣を鞘に納めた。
「ぐはっ」
ケンタウロスの上半身と下半身が、真っ二つにわかれ大量の血が吹き出す。
イシュケルは、返り血を浴びぬように漆黒のマントで防いだ。
やがて、ケンタウロスは白目をむいて、呼吸をしなくなった。
「見事だったぞ。最期まで悪に徹する。それでこそ、魔族だ」
イシュケルは、最期まで、命乞いをせず勝てぬとわかっていた相手に、立ち向かってきたことを評価し、ケンタウロスに労いの言葉を投げ掛けた。
「こいつは、運が悪かったんだ。全ては、アルザスというふざけた奴の所為だ。イセリナよ、ここが済んだら、我が城ルビデスパレスに付き合ってもらいたい」
「いいわ。アルザスっていう奴は、伝説の武具で、進化したってケンタウロスが言ってたもんね」
イセリナは、ケンタウロスを弔いながら、イシュケルに返した。
「あ、あのぅ。ありがとうございました」
イシュケルとイセリナの会話が一段落すると、天空人の男の子は言った。




