譲れぬプライド
「ほう、この私に刃を向けますか? よろしい、相手になりますよ」
マデュラはそう言うと、羽織っていたローブを脱ぎ捨てた。
初めて見るその姿は、体半分が腐りかけ骨が突出していた。
イシュケルは、その姿を見て、驚きのあまり声を失った。
「どれくらい振りでしょう。この醜い姿を、さらけ出したのは」
マデュラは、一瞬天を仰ぎ続けた。
「残念です……そのまま力を蓄え、大人しくあの御方の生け贄になれば良いものを……仕方ありません。こうなれば、腕ずくでも生け贄になってもらいますよ」
マデュラは、鋭くその目を光らせると、禍々しい杖を握り締めた。
事態をようやく把握したイシュケルは、再び剣を構え直す。
〈良いのか? イシュケルよ。後には退けんぞ!〉
嘆きの剣が問い掛けると、イシュケルはこう答えた。
「構わん。これは、俺の意思だ。着いて来てくれるな? 嘆きの剣よ」
〈承知した。イシュケルよ。テクニックタイプにチェンジするのだ。魔斬鉄を使うしかないだろう〉
嘆きの剣は、イシュケルの意思を確認すると、テクニックタイプにチェンジするように促した。
「魔斬鉄か……」
イシュケルは、嘆きの剣の意見を聞き入れ、テクニックタイプにチェンジした。
金色の髪をかきあげると同時に、マデュラを斬り付ける。
意図も簡単に、イシュケルはマデュラを捉えた。
「ん? 確かに斬り付けはずだが、手応えがない」
「何処を狙っているのだ? 私はここだ」
斬り付けたはずのマデュラが、イシュケルの背後から語りかけ、杖を降り下ろす。
イシュケルは、額ギリギリの所で、剣を水平に構え受け止める。
「ほう、少しは成長したようだな。だが、これならどうだ?」
マデュラはこの至近距離から、燃えさかる炎の魔法を繰り出した。
イシュケルは素早く反応するも、左肩に炎を浴びた。
「くっ、死にぞこないが……」
「いつまで、強がっていられるかな?」
マデュラは、両手から次々と炎を生み出す。
無詠唱のその魔法に、隙はない。
〈イシュケルよ、何を焦っている。よく見ろ、捉えられん相手じゃなかろう〉
嘆きの剣の言う通り、焦りのあまりイシュケルは無駄な動きが多く、冷静に立ち回れないでいた。
「嘆きの剣よ、お前の言う通りだ」
イシュケルは、冷静さを取り戻し、マデュラの放つ炎の魔法を、一つひとつ確実に交わしていった。
「逃げるばかりでは、私を倒せんぞ!」
マデュラは執拗に、炎の魔法を放つ。
イシュケルは、マデュラの挑発には乗らず、反撃のチャンスを伺う。
〈無詠唱とは言え、必ず何処かに隙があるはずだ〉
イシュケルは、目を凝らし、マデュラの放つ炎のタイミングを見計らった。
〈見えた……奴が魔法を放つタイミングには法則がある。
右手、左手と交互に放つその法則、……見切った〉
イシュケルは、動きを最小限に抑え、マデュラに接近する。
しかし、見切ったとはいえ、炎の魔法は絶え間なく放たれる。
〈イシュケルよ、スピードタイプで、懐に飛び込んだ所で、テクニックタイプにチェンジすることは出来ないか?〉
嘆きの剣は、次の一手をイシュケルに薦めた。
「なるほど……素早さをあげ、懐に飛び込んだ所でテクニックタイプにチェンジし魔斬鉄……か。出来るかわからんが、やってみる価値はありそうだな」
イシュケルは、テクニックタイプを解き、スピードタイプにチェンジした。




